第八話:悪魔を哀れむ歌
大小様々な飾り付けが施されたハリボテの舞台を、無数の照明が明るく照らし出す。明りの中心を狙って何台ものカメラが向けられ、長い棒の先に付けられた大きなマイクが音を拾い集める。
舞台の上、ひな壇のように並べられた椅子に座る何名もの男女。彼らは皆、芸能人と呼ばれる職業の者たちだ。
わざとらしく大袈裟な身振り手振りや良く通る声。あるいは類稀な容姿や生い立ち、機転の利いた発言、持ちネタで、テレビの前で待つ多くの視聴者を楽しませようと日々切磋琢磨する、正に芸の道に生きる人々。
そんな彼らを仕切り、まとめているのが舞台の端、一段高い位置で司会を務める中年の男性だ。
スーツにネクタイ。こざっぱりした髪型で、顔が細長く、多少目が細い。彼の名は島山昭助、四十八歳。多くのレギュラー番組と視聴率を持つ、いわゆる大物芸能人と呼ばれるタイプの人間だ。
「お疲れ様でしたー! おっけーでーす!」「お疲れ様でーす!」
番組収録がひと段落。カメラが止まると同時に出演者の肩から力が抜け、代わりに裏方たちが忙しく走り回り始める。
「ショウスケさん、アガリでーす!」「お疲れ様でーす!」「お疲れ様でーす!」
スタッフが行き交う中を、駆け寄ったマネージャーを引き連れて他の出演者たちよりも一足先に退場する昭助。自分を送り出す声に「おぅ」と小さく応え、大物芸能人らしい悠々とした態度で現場を後にする。
そうして彼が専用タクシーに乗り込み、その姿が完全に見えなくなって初めて、若手の芸能人やスタッフが緊張から解放される。鬼の居ぬ間に洗濯というわけだ。
だが、緊張から解放されない者もいる。昭助のマネージャーだ。
一緒のタクシーに乗り込み、次の仕事を確認しながら様々な案件に頭を悩ませ、それらをどう伝えようかと言葉を選ぶ。気難しく怒りっぽい昭助の機嫌を損ねないよう、細心の注意を払っているのだ。
「……で、次はお台場での収録です。所でショースケさん?」
「ん、なんや?」
昭助の機嫌が良いと踏んだマネージャーは、今現在抱えている最も大きな案件について尋ねてみた。
「例のチャリティー企画の方、順調ですか?」
「あぁ……アレな」
年に一度、テレビ局全体を揚げて催される一大チャリティーイベントがある。世界の恵まれない地域への、募金を集める為に行われるイベント『愛が宇宙を救う』だ。
期間中、街頭ではイベントスタッフによって募金が呼びかけられ、イベント用に製作される専用グッズの売り上げも募金となる。そしてテレビでは生放送で様々なチャリティー企画が行われ、それらによって集められたお金も全て募金とされる。
「ショースケさんの企画枠、他所の会社が持ってたのを頭下げて譲って貰ったんですから。早めにお願いしますね?」
「心配あらへんがな。もう概要は決まっとる」
タクシーに揺られながら、昭助は自慢げに鼻を鳴らす。
「今年は歌や。歌でゼニ集めるんや! 宇宙を救う専用の歌ぁ作って、CDやらで売る……これは売れるでぇ!」
また始まった……。マネージャーの胃がキリキリと痛む。
昭助の悪い癖だ。いつも思い付きで行動を始める。
それ自体は行動力があるともいえるし、責任感が高じての行動と言えなくも無い。だが問題は……。
「ほんで作詞作曲、ワシがするわ。これやったら流石に売れるやろ!」
「え……!?」
オマエ、曲作りなんてした事無いだろ!
笑顔を見せる昭助の隣で、勢い良くツッコミそうになった自分を必死で押し留めるマネージャー。
出来もしない事をやると言い出す……それこそが毎回マネージャーを悩ませ、あげく胃潰瘍にまで追い込んだ、昭助の困った癖だった。
「……そうですね、たくさん売れますね」
とりあえずの同意。だが一応は本心であるのだから構わないだろう。昭助のネームバリューがあれば、間違いなく売れる。作詞作曲も彼が手がけたと触れ回れば、チャリティーイベントという事で財布の紐を緩めている客の懐に入り込むのは容易い。
「歌はもうちょいしたら渡すよって、CD作る手配だけしとき」
「わかりました。期待してますよショースケさん」
ま、ど素人に作詞作曲など出来るはずも無い。十中八九ゴーストを立てる事になるだろうが、他の芸能人だってやっている事だ。気にする必要は無い。
「あ、次の現場が近付いてきましたね。降りる準備をしておきましょう」
マネージャーは良心に痛む胃を隠しながら、甲斐甲斐しく大物芸能人の世話を焼くのだった。