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おくりもの  作者: かっぷ
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第ニ十五話:希望の鐘が鳴る朝に

 翌日――。

 興奮冷めやらぬまま眠れぬ夜を凄し、疲れの残る体を引き摺って学校へ登校した鈴音を待っていたのは、学校中から浴びせられる無数の質問と、あらゆる方向から向けられる携帯カメラのレンズだった。


「昨日のテレビ! あれって鈴音でしょ!?」

「どうしてあんな事してたんだよ!? 『ギフト』って何だ?」

「あの会場に私も居たんだよ! 声掛けたのにぃ!」


 教室に入るや否や、クラスメイトたちに囲まれる鈴音。

 覚悟はしていた。

 携帯に届いていた何十件もの着信と、百数通ものメールを見た時から。


「オレ、感動して泣いちゃったぜ!」

「ねぇ鈴音、一緒に写真撮ってよ!」

「あんなハデな事をする必要あったの?」


 全ての質問には答えられない。答えたいとは思うのだが、一つ質問に答える度に前の何倍にも及ぶ質問が帰ってくるのだ。正直……かなりウンザリする。

 自分に苦情対応電話オペレーターは無理だと痛感する鈴音。


「ちょ、ちょっと待って。順番に話すからっ!」


 友達へ、何度目かもわからない説明をしながら、事の経緯を思い出す鈴音。

 そもそもライブ会場に乗り込んで歌を取り返す発端となったのは、鈴音の一言だった。

『昭助に奪われた自分の歌を取り返したい。協力して欲しい』

 鈴音はニロニロ動画に、そう呼びかけた動画をアップした。

 すると、すぐさま数人から反応があった。「自分は画家だが、昭助に作品を奪われた」と語る者。「小説を盗作された」と語る者も居た。しばらくすると、彼らの知り合いからも反応が返ってくるようになった。そして知り合いから知り合いへ、どんどん広まって行く鈴音の救援要請。

 やがて二日が過ぎた頃、協力者の数は百人を超えていた。


「それで、みんなで取り戻そうって事になって……」


 集まった協力者の中には、昭助のマネージャーである川瀬慎吾が居た。

 その事を最も喜んだのは父である健太郎だ。昴の裁判は証拠も無く、昭助を恐れて誰も証言台に立とうとしない。そんな中、川瀬は強力な証拠と証言が可能な唯一無二の人物だった。

 ここに来て、裁判での勝利が見えた健太郎は言った。

 盗作であるにも関わらず、昭助のブランド力やテレビの力で知名度の高い『歌声を愛にかえて』。そこから『ギフト』を完全に取り戻すには、世間の認知が必要だ、と。

 そして生放送中のライブ会場に強襲をかける『おくりもの作戦』が考案されたのだ。


「手伝ってくれる人の中に、プロの音響屋さんとか洋服屋さんとかが居て、機材も衣装も全部手配してくれたの」


 その間に健太郎は『愛が宇宙を救う』のプロデューサーと掛け合い、生放送中の番組へ、サプライズ的乱入の許可を取った。番組テーマソングが法廷にて闘争中である事を振りかざしての交渉ではあったが、思いの他あっけなく、プロデューサーは許可を出した。

 芸能界において、あまりに強くなりすぎた島山昭助の権力を削ぎ落としたいとの思惑があったのかもしれない。


「それで、後はみんなが見た……」

「コレだろ? 今、テレビでやってるぞ白地!」


 友人の一人が携帯でワンセグ放送を受信し、頭上にかざしている。

 どうやら朝のワイドショーが放送中のようで、小さな画面の中で真っ赤なドレスに身を包んだ自分自身が、鬼気迫る表情で歌声を上げている。


「おぉっ、ホントに白地がテレビ出てる!」

「このドレスも用意してくれたの?」

「鈴音、キレイだねぇ……」


 何がキレイなものか!

 画面を見た鈴音は、火が出るほどに顔が熱くなり、この場から消え去りたくなった。

 歌っている時は必死だったし、昨日もすぐ布団に入ったので、自分がテレビに出ている場面を見たのは今が初めてだ。

 本格的なスモークや照明の中、強張った表情で棒立ちの自分。一応はダンスの練習もしたのだが、全く活かせていない。練習より上手く行ってるとか思っていた昨日の自分を、助走を付けて蹴り飛ばしたい。

 そして全力で歌うあまり、噴出した汗で化粧は流れ、ほぼスッピンになっている。しかも無意識の内にドレスの手袋で汗を拭って……!


「あ、あわわわ……み、見ないでぇ……消してえぇぇぇ……!」


 両手で顔を覆い、机に突っ伏した鈴音。客観的に自分の姿を見る事が、こんなにも……死ぬほど恥かしいだなんて知らなかった。クラスメイトたちの笑顔が、ニヤニヤと自分を嘲笑っているかのように思える。


「謎の美少女ボーカル、真紅の歌姫に迫る! だってよ、白地!」


 突っ伏した顔の前に差し出された携帯画面に映っていたのは、汗まみれの真っ赤な顔で満足げな笑顔を浮かべる、美少女とは程遠い自分の顔だった。


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