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おくりもの  作者: かっぷ
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第ニ十ニ話:作戦開始!

 時間は、少しだけ遡る。

 裁判所を終えた健太郎が勝ち鬨を上げ、昴がファンに囲まれてオドオドしていた時の事だ。

 鈴音はコートを羽織り、トラックの荷台に居た。

 ドライアイスが立ち込める中に、酸素マスクをして一人。かなりの寒さではあったが、そんな事は気にならない程に鈴音の魂は滾る。


『……裁判所より連絡。作戦成功。繰り返す、作戦成功!』


 イヤホンからノイズ交じりの声が、嬉しい知らせを送り届けてくれた。父は弁護士として、昴の親友としての役割を果たしたのだ。

 溢れそうになる喜びの涙を押し止め、手の中にある真新しい大学ノートをぎゅっと握る鈴音。

 手遊び程度にパラリと開いたそのノートには、見覚えのあるしっかりとした文字と記号が、所狭しと書かれていた。

 ノートの一ページ目には『ギフト』と書かれており、次のページからは全体にわたって音程を再調整し、更に未完成だった二番を組み込んだ完成版の『ギフト』が書かれている。

 曲を奪われ、牢屋に放り込まれて、空き巣にまで入られた失意の中。立ち上がるのも辛いであろう状況で、昴が必死に作り上げたのだ。

 そしてノートの最終ページ。真っ白な紙の端に書かれた一言。


『この曲を

  君に贈る』


 鈴音はノートを胸の中に抱きしめ、決意を新たにする。

 心細くないかと問われたら、心細い。緊張は無いかと聞かれたら、激しく緊張している。だが同時に、必ずやり遂げるとも答えるだろう。

 そして昭助の手から、『ギフト』を取り戻す!


『鈴音さん、番組プロデューサーからゴーサイン出ました!』


 イヤホンからの声。同時にトラックの周りが慌しく動き出す。

 次々に接続されるコード類。ディーゼルエンジンが低い唸りを上げ、機材の隅々へと電力を行き渡らせる。

 鈴音もコートを脱ぎ捨て、準備に入る。下に着ているのは真紅のドレス。『愛が宇宙を救う』のイメージカラーである青に対抗しての色だ。

 この衣装を見る度、鈴音は感謝の念に囚われる。

 ドレスも、トラックも、各種機材も全てボランティアを自称する人々が用意してくれた。その実は、インターネットを通して昴と鈴音の窮地を聞きつけたファンや有志たちだ。


『皆さん聞こえますか? 鈴音です。これより、歌を……私の歌を取り返しに行きます』


 マイクのスイッチを切り替え、酸素マスク越しに協力してくれる者たちへメッセージを送る鈴音。お揃いの赤いシャツを身に付けた彼らは、奪われた歌を取り戻そうともがく鈴音へ、黙って手を差し伸べてくれた。何の見返りも求めず、ただ「自分がそうしたいから」と名乗り出てくれた。


『皆さんで悪人を、ぎゃふんっ! と言わせてやりましょう!』


 外の雑踏やディーゼルエンジンの音に紛れ、どこからか力強い賛同の声が上がった。そしてトラックの荷台内部にも電気が通り、電飾が眩く輝き出す。

 機は熟した。

 鈴音は酸素マスクを外し、大声で叫ぶ。


「これより、おくりもの作戦を開始します!」

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