第十七話:決戦は金曜日
街頭に、真っ青の募金箱を持って立ち並ぶ人々。そこへ財布から小銭を取り出した通りすがりの人が、善意の募金を行っては去って行く。
某テレビ局の大規模チャリティー企画『愛が宇宙を救う』が、今まさに開催中なのだ。
テレビの生放送も開始され、日本各地で青色のTシャツを着たスタッフが、明るく朗らかに感動を伝えようと走り回る。
「おし、勝ちに行くぞ!」
そして今日は、昴の裁判が行われる日でもあった。
健太郎はシワ一つ無いスーツに身を包み、気迫漲る表情で裁判所前に立つ。
「頑張ってね、お父さん! 応援してるから!」
彼の背後には、緊張の面持ちで父へ声援を贈る鈴音の姿。手には何故か、真新しい大学ノートが握られている。
「ああ、心配すんな鈴音。って、裁判は俺に任せておけば大丈夫だけどよ。お前も予定通りに動けよな? そっちの方が心配だぜ」
おどけたように言った健太郎に対し、真剣な眼差しを返す鈴音。その生気溢れる目には、一ヶ月前の無気力な少女の面影は、無い。
「大丈夫、私だって……絶対に負けないから!」
「よっしゃ、その意気だ」
愛娘に別れを告げて、裁判所へと踏み込む健太郎。長い廊下を抜けた先、被告人の控え室に、彼を待つ人物が居た。
「ケンタ……」
昴だ。
どこか疲れたような表情で長椅子に座っていたが、健太郎の姿に気付くと立ち上がって友を迎える。
「任せたぞ」
「おう、任せろ!」
短く言葉を交わし、視線で頷き合う男二人。
こうして昴と鈴音と健太郎の、長い一日が始まった。




