第十四話:やさしい悪魔
某テレビ局内、某スタジオ。
仮組みされたセットの前で大勢の人が動き回り、床に目印を貼ったり、周囲の者に指示を出している。どのスタッフもシャツの袖を捲り上げ、額に汗して真剣な表情。一ヵ月後に控えたチャリティー番組『愛が宇宙を救う』のリハーサルが行われているのだ。
「ここからCM挟んでショースケさんのコーナー入ります!」
「よっしゃ、俺の出番やな」
セットの裏から昭助が進み出た。
ここから先は昴の会社から奪った枠で行われる、昭助の持ち込み企画。歌によるチャリティー活動のリハーサルが主となる。
「え~、企画趣旨は無償の愛。コーナータイトルは『歌声を愛にかえて』です。なお、このタイトルは同時に番組テーマソングのタイトルであり、全体のキャッチコピーともなっております」
「そういうこっちゃ。この俺が日本中のモン泣かしたるで!」
進行を取り仕切るスタッフの声に昭助が意気込むと、どこからか拍手が湧き出す。
昭助が作ったとされる曲『歌声を愛にかえて』は、既にCDのジャケットが完成し、歌手も決まりレコーディングも始まっている。思いのほか出来が良かった為に番組全体のテーマソングともなり、近々には昭助の看板番組で宣伝も兼ねて紹介される予定だ。
「流石はショースケさん、作曲くらいお手の物ですね! 以前は絵画にも挑戦されてましたけど、芸能人より芸術家の方が向いてるんじゃありませんか?」
「そうかもなぁ。俺、若い頃は今で言うシンガーソングライターなりたかってん。そんでギター買ったんやけど……」
企画のメインとなる曲が順風満帆である事も手伝ってか、リハーサルは大きなトラブルも無く終了。昭助は上機嫌のまま、マネージャーと共に次の収録場所へと向うタクシーに乗り込む。
「あの歌は売れるでぇ。今年のチャリティーは大成功間違い無しやわ」
「そ、そうですね。名曲だと……思います」
「……? この前から、どないしたんやお前。様子おかしいで?」
話が件の歌に及ぶ度、歯切れの悪くなるマネージャーに昭助は「心配事があるなら言ってみろ」と告白を促す。
二人だけしか乗っていないタクシー。運転手は気を利かせ、ラジオの音を大きくして耳栓代わりとした。
「はい、では……い、言わせて頂きます。昭助さん……あの曲、本当は誰が作ったんですか?」
青い顔でそう聞いたマネージャー。真剣な表情で強く両手を握り締め、酷く緊張しているように見える。
だが昭助はマネージャーの緊張とは裏腹に、気楽な笑顔で応えた。
「なんや、神妙な顔しとると思うたら、そんな事かいな。お前が心配するようなコト、なんも無いわ」
「ですが、あれはっ……!」
追求を深めようとするマネージャー。昭助は心配性な彼の言葉を指先で遮り、笑顔のまま、声を低くして囁く。
「エエか、良く聞いとけよ。あの『歌声を愛にかえて』は他の誰でもない、俺の曲や。もし……もしも、やで? アレが自分の曲やって言う輩がおったとしたら、そいつは……」
昭助は椅子の上で姿勢を正し、ネクタイを締めなおして真顔で言ってのけた。
「俺の曲、盗作したんやろな」