第一話 起の舞・7
こちらに向かって駆けてくる彼女の伸ばされた腕が、橋聖を包み込む。押し倒される形となった橋聖は、受身を取ることも許されずに背中から地面に倒れ込んだ。
瞬間、目を射た光が空へと昇ったかと思うと、轟音を伴って地面が揺れた。そのあまりの激しさに、橋聖は無意識のうちに自分の上に倒れこんできた彼女の細い体を抱き締める。
爆風が細い路地裏を通り過ぎる。その激しさに硬く瞳を瞑り、何が起きたのかも把握できない頭の片隅でただ、この激しい揺れと爆風が収まってくれる事を祈った。
聴覚を支配していた轟音は、世界の震動の消失と共に掻き消える。静寂が辺りを包み込めば、橋聖は恐る恐るといった体で瞼を上げた。危険が去った事を確認し、起き上がった瞬間に腕に感じた重みにその存在を思い出した。
「おい、アンタ。だい…」
滑り落ちた手が煉瓦の道を叩く。抱き起こした己の手を染めた赤に、言葉が途切れた。
呆然とした様子の炎の瞳が、緩慢な動作で動かされる。向けられたのは、先程彼女が飛び出してきた横道だ。
「―――――…ッ!」
詰められた息。そこには、確かに恐怖が混じっていた。
「なん…だってんだ、本当に…」
鳴り響く鼓動の音がうるさくて。
零れ落ちたその問いに、応える者はいなかった。
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