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第一章 結の舞・12

「お世話になりました」

 鉱山の事故を引き起こした大地震から七日。めでたく退院を許可された凪は、そのまま街を去る自分を見送りに来てくれた二人に深々と頭を下げた。

「せっかちな子だねぇ。もう少し休んでいけばいいものを」

「有難うございます。ですが、先を急がねばならない理由がありますので」

 恰幅のいい女将の別れを惜しむ言葉に、嬉しそうに微笑みながらも凪は決定を覆さなかった。

「まぁ、人には人の生き時間ってのがあるし。無理に止める気は更々ないけど…」

 ちらりと、女将は自分の横で俯いている赤毛へと視線を落とす。衣服をしっかりと掴んで離そうとしない少女に軽く吐息をつくも、特に何も言わずに再び目の前の異国の相手へと陽気な笑顔を向けた。

「またおいで、凪」

 優しい言葉に、驚いたように微かに瞠られていた深緑の双眸は、広がる笑みにゆっくりと細められた。

「はい」

 不確かな約束を交わし、凪は女将から傍らの少女へと視線を移す。

「アゲハ」

 呼び掛けに震えた肩にそっと手を置き、膝を折ることで小柄な少女と目線を同じにする。恐る恐るといった様子で伏せていた顔を上げたアゲハに、凪は手に持っていた分厚い書物を差し出した。

「これは…?」

「私が今まで伝え聞いた、異国の地の伝承の一部を書き留めた物です」

 不思議そうに見つめてくるアゲハに、凪は片目を瞑って見せた。

「話して聞かせる事は叶わなかったから。文字は読めますか?」

「あ…少し、だけなら…」

 戸惑いながらの答えに、満足そうに一つ頷く。

「では、文字の習得する勉強にも役立つでしょう」

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