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第一章 結の舞・9

「…そういえば、アゲハが?」

 唐突な話の方向転換に、面白い奴だと内心で笑っていた橋聖は、投げられた問いを理解するのに数秒を要した。

「あ…?あぁ、華蘭ね。お前が目を覚ます少し前に仕事に戻っていったよ」

「そうですか…」

 燃え尽きてしまった、机の上の魔除けの香草を眺める横顔に差した翳りに、橋聖は敢えて口を開いた。

「あいつ、お前が怪我をしたのは自分の所為だって言って、今日も今日とて沈んだ顔でここに来た」

 伸ばされた手が、小さな容器の中で綺麗な円錐形をしている華蘭の山に触れる。僅かな力でも崩れ落ちてしまったその灰が、まるでこれを持ってきた本人の心そのもののような気がして、凪は深い溜め息をついた。

「アゲハの所為じゃないって、お前から…」

「そこに、どれだけの意味があると?」

 戻した手で膝の上の結良の頭を撫でながら言葉を遮った凪に、頬杖をついているのにも疲れた橋聖は椅子の背に直接顎を預けた。

「だよなぁ…」

 溜め息混じりに、お手上げとばかりに橋聖は同意する。

 彼女の呵責の念は、誰かの言葉で払拭されるようなものではないだろう。たとえその否定が、怪我を負った張本人のものであったとしても。

 怪我を負った凪にとっては、その事自体は自身の不注意によるものだ。アゲハの言葉は、ただ、自分を鉱山へと導くきっかけとなったに過ぎない。

 けれど、初めと終わりだけを知り、その物語(なかみ)を知らないアゲハは違う。

 自分の言葉で鉱山へと向かった凪が、怪我を負って帰ってきた。

 アゲハにとってはその事実だけが全てだ。凪を鉱山へと向かわせたという原因と、怪我という結果が直結する。その媒介となる過程を知らない故の思い込みという主観ならば、客観性が入り込む余地などなかった。

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