第一章 結の舞・6
「その話って、俺にも関係があるよな?」
椅子の背を前にして座り直し、頬杖をついた橋聖は気のない様子で核心をつく。
ゆっくりと動かされた深緑の瞳。湖底に映った己の顔は、声音とは裏腹に真剣そのものだった。
「貴方をあの場所へと呼び寄せたのが彼等ならば、可能性はあります」
「それって、俺が命を狙われる理由になる?」
随分と素直に答えを返してきた凪に心中で驚きながらも、チャンスとばかりに橋聖は質問を重ねた。
「向こうにとっては、確実に」
「…俺、本気で命を狙われる理由に心当たりがないんだけど」
頬杖をつく手を変えた橋聖は、宙に視線を彷徨わせながら記憶を辿る。
確かに、用心棒という仕事は人に恨まれることは偶にある。大抵の場合は逆恨みで、それが稀に行動に移されることはあるが、あんな人間離れした相手から命を狙われる理由は、どんなに記憶を遡っても何処にも見つからなかった。
何故、自分はあの場所に呼ばれ、命を狙われた?
「それにさ、あいつ、俺の名前知ってたんだよな」
御伽噺の中に出てくるような英雄じゃあるまいし、自ら名乗って歩く悪趣味は生憎と持ち合わせてはいない。
何故、あいつはこの名を知っていたのだ。