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第一章 転の舞・18
再び引き絞られる弦。
残酷な光を放つ矢尻に、橋聖は腕の中で荒い呼吸を繰り返す凪を無意識のうちに抱き締める。
あれは、ただの矢ではない。恐ろしい程に強力な呪力が籠められた、謂わば起爆剤だ。異物が肉へと捻り込んだ瞬間、呪力が爆発する。
「終わりだ」
終焉の言葉が紡がれる。黒き手が矢を離そうとした、その刹那。
もう慣れてしまった震動が足元から脳天へと突き抜ける。次いで轟音を伴って激しく大地が揺れた。
その震動はいつもの比ではなく、全身を襲う衝撃に橋聖は歯を食いしばって耐える。背中へと回された腕の温もりが、沈みそうになる意識を辛うじて現世へと繋ぎ止める。
今ここで己が気を失えば、腕の中の彼女は助からない。
地震は中々収まってくれなかった。激しい揺れは脆い洞窟を容赦なくいたぶり、零れ落ちてきた岩の欠片がその徴候を伝えてくる。
落ちると、そう橋聖が確信した瞬間だった。
轟音を伴い、天井が落ちてきた。巨大で無数の岩が源命水で満たされた地底湖を覆うのは一瞬の事で、飛来する細かな破片から凪を守る為にその体に覆いかぶさる。