第一章 転の舞・17
元より素直に答えを貰えると思っていなかった凪は、手に持ったままだった短剣の柄を握り締める。
戦闘態勢に入ろうとした彼女の耳に、嘲笑と共にそれは飛び込んできた。
「お前達は、ここで死ぬと言ったであろう」
言葉の終わりと同時に響いた、水の中から何かが姿を現した音。
「凪ッ!」
危険を知らせる橋聖の叫び声に気付いた時には既に遅かった。源命水の湖面から姿を現した黒装束の引き絞られた絃から矢が放たれる。
「――――ッ!」
心臓に狙いを定められた矢は、咄嗟の反応に辛うじて急所を外れる。胸元に感じた鋭い痛みは、鮮血が舞う光景に激痛となって全身を駆け巡った。
「凪!」
倒れ込んだ華奢な体を、走りこんできた橋聖が受け止める。
「ここは、命が蘇る神の地ぞ。湖に屍を落としたのが過ちであったな、閣橋聖」
禁忌の神手の異名を持つ命の源に落ち、蘇った黒装束のつがえた矢が橋聖へと向けられる。
「どうして、俺の名前を…」
瞠られた炎の瞳は、けれど自らの命を捕えた矢を映していない。その炎を掻き消すような深い闇は、零れ落ちた問いに微かに笑う気配を漂わせただけで、応えようとはしなかった。
「輪廻の鎖は断ち切られるが定め」