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第一章 転の舞・14

 頭から闇色の外套を被り、辛うじて認識出来る違う色は歩みを進める足の肌色のみ。その裸足は、どういうからくりか、湖面を踏み締めていた。

「あいつ…幽霊かな」

 どうにも緊張感に欠ける言葉は、どうやら本気で言っているようだった。

「さあ、どうでしょう。殺してみたら判ると思いますが」

「死ねば生身の人間?」

 空恐ろしい事を言うと、肩を竦める橋聖の言葉に被るようにして低い笑い声が空気を震わせた。それは心底この状況を楽しんでいるもので、耳から入ってくる嘲笑が悪寒となって全身を駆け巡る。

「何かすっげー笑われてんだけど…俺達、これで食べていけるかな」

「道化師と呼ばれても平気なら、或いは」

 視線は湖の中央で足を止めた影へと固定したままで、交わされる狂言は、自らの中にわだかまる薄気味悪い恐怖を紛れさせる為か。

「あ―――…無理無理。俺、馬鹿にされるのって大っ嫌い」

「奇遇ですね。私もです」

 視線の交錯は一瞬。動いたのは橋聖だった。

 投げられたナイフが滑空する。それは寸分の狂いもなく、未だ静かに笑い続けている外套へと吸い込まれていった。

 響き渡っていた嘲笑が止み、静寂が戻ってきたのはほんの数秒。再び笑い声が洩れ、異様に白い指から先程橋聖が投げたナイフが零れ落ちる。粘着質のある水音が一度。

「無駄だ」

 耳朶を打った声は、一瞬にしてこちらの余裕を奪い去ったもの。

「このような玩具では、我は殺せぬ」

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