第一章 転の舞・9
「で、改めて。ここで、何を?」
警戒はお互い様。苦笑を浮かべながらも鋭さを増した赤の双眸に気分を害するなど自分勝手にも程がある。
「アゲハの父親がここで働いていると聞きまして。心配していたようですので、様子を見に来ました」
答えはここへ来た目的の一部分でしかないが、説明に嘘はない。
「あぁ…それなら大丈夫だ。ダルミのおっちゃんは無事さ。丁度トロッコを外に運び終えた直後に地震があったからな」
外で怪我人の看病をしていると言う橋聖に、凪は一つの心配事が解決された事に取り敢えず安堵の溜め息をついた。軽く伏せられた深緑の双眸は、しかしすぐに目の前に立つ青年へと向けられる。
「貴方は、何故ここへ?」
彼が用心棒まがいの事を生業にしている事はアゲハから聞いている。炭鉱の一体何処に、命を狙われる危険があるというのか。それとも、彼の警護には、崩れ落ちる岩から人間を守るという項目まで含まれているとでもいうのだろうか。
不信感を隠しもしない凪の質問に、橋聖は肩を竦めて見せた。数秒宙を彷徨った視線は、観念の溜め息が洩れると同時に凪へと戻される。
「呼ばれた――…って言って、信じる?」
軽い口調でありながら、その声音からは嘘をついているようには思えなかった。そもそも、この状況で戯言を口にする程彼は馬鹿ではないだろう。
「呼ばれた…?」
鸚鵡返しは、返された返答の真偽を問うようなものではない。訝しげな呟きのその疑問は別のところにある。