第一章 転の舞・7
恐らく震源地は鉱山近くの地中だったのだろう。事故現場へと近付くにつれて崩壊した家々が目立ち始め、道路に散乱した石の欠片などを避けて通る為に、どうしても進む速度は遅くなる。住宅地を抜けて山道に入っても倒れた木々やら転がり落ちてきた岩などが行く手を阻み、傾斜も手伝って凪の歩みは更に緩いものとなった。
聞こえ始めた人の話し声が目指す場所が近い事を知らせてくれる。足場の悪い坂道を登り終えた先に広がった光景に、凪は思わず足を止めていた。
「・・・・・・・・・」
大地が赤いのは、含有物によるものだろう。平らな赤い大地の向こうに聳える鉱山には立派な入口が設けられ、トロッコが通る線路も完備されていた。
しかし、そこから運び出されてくるのは、この地の特産である銀鉱石ではなく、血塗れの人間だ。
「死の臭い…」
怒号が行き交うこの場に漂う独特な臭いに、凪は不愉快そうに眉間に皺を刻む。
岩の崩れ落ちた薄暗い坑道で、一体どれだけの命が奪われたのか。消え逝くこうとしている命の灯は、いくつ守れる。
「…結良。感じますか?」
悲しみと痛みと死の気配が充満する世界に紛れ込んだ、異質な気配を。
『…源命水の水脈がある所に』
「案内を」
肩から地に飛び降りて歩き始めた結良の行動が了承を示し、凪はその後に続いて坑道の入り口へと近付いていく。泥に汚れた男達は皆負傷者の運び出しや治療に専念していて、その場には不釣り合いな女と猫一匹に構う者など皆無だった。
閉塞感を与える坑道内は、等間隔に吊るされたランプの灯りで辛うじて周囲を視認できる程度だった。それでも闇に慣れた視界には充分な明度であり、まるで蟻の巣の中のように縦横無尽に掘り進められた道の一つを結良の案内に従って奥へ奥へと進んでいく。