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第一章 転の舞・6

「…何かあったのでしょうか」

 路地裏から出た大通りの様子がおかしい。人の流れは停滞し、近くの数人と言葉を交わし合う人々の顔に浮かぶのは、焦燥と不安の念だった。

「凪!」

 ただよらぬざわめきを縫って届いた呼び声に視線を遣れば、血相を変えて走ってくるアゲハの姿を捉えた。

「アゲハ。何があったのですか?」

 抱きついてきたアゲハを危なげなく受け止めた凪がこの異様な空気の原因を問えば、見上げてきた黒の瞳には涙が浮かんでいた。

「さっき、また地震があった!」

「地震?」

 訝しげに凪は眉を寄せる。

 確かに自分がいた場所は市街地よりも多少距離があるとはいえ、大地の怒りから逃れることなど可能なのだろうか。

「それで、炭鉱の方で何かあったらしいんだ。助けを求めに来た鉱山労働者の人の話を伝え聞いただけだけど、地震で岩が崩れて沢山の負傷者が出てるって…」

 余程恐ろしい思いをしたのか、アゲハは抱きついたまま離れようとしない。

「父さんが…あそこで働いているのに…」

 言いようのない不安と緊張が漂う通りを眺めていた凪は、涙声が発した言葉に震える華奢な肩にそっと手を置いた。

「わかりました。様子を見てきます」

「なら、あたしも…」

 勢いよく顔を上げたアゲハの唇に人差し指を当て、首を横に振る。

「アゲハはお母さんの傍に」

 支えてあげてと、不服そうに口を開きかけたアゲハに対して先手を打てば、不承不承といった体ながら彼女は離れてくれる。赤毛を優しく撫で、凪は銀鉱山へと向かって走った。

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