第一章 転の舞・3
地に縛られて生きる者。他の世界を見ることの叶わぬ者。
彼等にとっては、大陸間を自由に行き来し、多くの世界を見ることの叶う旅人は、空を勝手気ままに飛び回る鳥のように自由に見えたことだろう。
しかし、彼等は同時に知っているだろうか。それは即ち、安住の地がないに等しいのだという事を。
帰るべき場所がない。故に、その死を悲しむ者もまた、いないのだ。
お帰りと、迎えてくれる笑顔がある。
その温もりが、旅人である自分には羨ましい。
「・・・・・・・・・・」
結局は、ないものねだり。どちらもその苦しみを知らないからこそ、羨み、望むのだ。
「…今まで聞いた伝承を、話して聞かせましょうか?」
だから、旅人も辛いのだとは言わない。どんなに言って聞かせても、それはただの御伽噺でしかないから。
「本当…?」
見上げてきた瞳は涙で濡れ、震える声音が真を問う。
「本当に、聞かせてくれる?」
「ええ。時間が許す限り」
穏やかに微笑み、凪は頷く。
悲しみが歓喜へと塗り換わっていく。涙を拭ったアゲハは、恥ずかしげに笑った。勢いをつけて石垣から飛び降り、急かすように凪の手を取る。
「じゃあ、お昼食べたらあたしの家に行こう。そこで、いっぱい、いっぱい話して。遠い遠い地の、物語を」