第一章 承の舞・18
無言で見つめ合う凪とアゲハを交互に眺めていた橋聖は、あぁと納得したように茶色の髪を掻く。
これは、あれだ。所謂、一目惚れ、というやつ。
「あの…」
「ごめんなさい!さっきのあたしはどうかしてたんです!」
猪突猛進が性格なのか、顔を仄かに赤く染めたアゲハは、凪の手をがしっと掴んだ。
「ですが、香水を…」
「ああああ…ッ。そんなことは全然気にしなくていいです!寧ろ忘れてくださいッ」
恥ずかしいと、離した両手で頬を挟んで背を向けるアゲハに、凪の困惑は増すばかりだ。彼女はどうしたのかと、現状の説明を求めて視線を遣った先では、ただ肩を竦められただけだった。
「お姉さん、この街は初めて!?」
対応に困っている凪を無視して、というよりも全く気付いていない様子のアゲハは、テーブルに両手をついて顔を覗き込んできた。
その勢いに些か仰け反った体で、凪は頷く。ぱっと花が咲いたような明るい笑顔を浮かべ、曲げていた体身体を起こしたアゲハの嬉しそうな様子に、その深緑の双眸が瞬かれた。
「じゃあ、明日、あたしが案内してあげる!地元の人しか知らないような香水のお店とか、お洒落な髪飾りお店とか。ね?いいでしょう?」
その大きな黒い瞳を輝かせて尋ねてくる様子に、千切れんばかりに尻尾を振る子犬の姿が重なって見えた凪は、困惑の表情を一変、軽く声を上げて笑った。
「ええ。是非、お願いします」
穏やかな微笑みと共に返された了承に、アゲハは顔を輝かせる。明日の十時にここに迎えるに来るからと一方的に言い置いて、彼女は嵐の如く去っていった。