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第一章 承の舞・16
「じゃあ、お前もオレを嫌わないでいてくれてるってわけだ」
「嫌う要素が何処かにありましたか?」
遠回しな肯定に、彼女と出会ってからの数時間の記憶を遡った橋聖は軽く肩を竦めた。
確かに、今の所、互いに嫌う要素は何処にもない。
「ただ、警戒を解くのは止めておいた方がいいと思います」
「…ふ~ん?」
釘をさしてきた相手に、真意を問うような視線を投げかける。口元は組んだ両手に隠されて見えなかったが、交わった深緑の双眸は鋭い輝きを収めていなかった。
小さなテーブルを挟んで繰り広げられる小さな冷戦。どちらも口元を手で隠し、読み取れる情報は交錯させた瞳からのみ。
それでも、互いに気付いていることだろう。相手の唇に刻まれる、何処か試すかのような、冷えた笑みに。
壁に掛けられた古ぼけた時計の秒針が時を刻む毎に、二人の間に流れる空気が緊張を帯びていく。足を組み替えるといった、ほんの些細な出来事で壊れてしまうような脆い硝子細工のような冷戦はしかし、入り口の扉が乱暴に開けられる音によってあっさりと終わりを告げてしまった。