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第一章 承の舞・13

 無断でテーブルに置かれた橋聖のコップを奪い取って中身の水を煽った髭面の中年は、先程とは一変、声を潜めるように顔を近付けてきた。

 自然と、二人も紡がれる言葉を聞き逃すまいと身を乗り出す事になる。

「ここだけの話。実はな…新しい脈が見付かってな」

「銀の?」

 カッサラは有名な銀山を有する街として発展してきた。故に即座に辿り着いた橋聖の確認に、しかし彼は違う違うと手を振った。

「『源命水(げんめいすい)』さ」

 より一層潜められた声が紡いだ名詞に、凪と橋聖は共に息を呑んだ。

 『源命水』。その名の通り、命の源となる水。医師すらも匙を投げるような重篤な病も、その水を飲めばたちまち治ってしまうという。死者すらも生き返らせると言われる、神が人に与え給うた、奇跡の水。

「禁忌の神手(みて)…」

 これが喜ばずにいられるかと、大笑いする男を傍目に、零れ落ちた声音は凍える氷塊のように冷たかった。

 高笑いが、ぴたりと止む。

「…まぁ…確かに、嬢ちゃんの言っていることも間違いじゃねぇんだけどよ」

 陽気だった先程とは一転、酔いすらも醒めてしまったのか、ばつが悪そうに男は首に手を遣って弁解する。

 命という神域への侵入。神の領域であったはずの生死さえ操る権利を人間に与えた源命水を、ある者は讃え、喜び、希求した。またある者は恐れ、忌み嫌い、生死を操る神の手に触れる禁断の行為だとして、いつしか源命水は、禁忌の神手とも呼ばれるようになった。

 生きていて欲しい。そう思うことは罪なのか。

 死すら支配する事は、傲慢で、世界の均衡を崩す行為ではないか。

 感情と倫理。

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