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第一章 承の舞・11

 同型の扉が等間隔に並ぶ光景を左手に流しながら廊下を歩き、中央に設けられた階段を下りていくと次第に喧騒が大きくなる。階段を下りきると、お世辞にも広いとは言えない食堂はほぼ満席状態だった。テーブルに着く人々の服装も様々で、仕事帰りだと思われる者もいれば、この宿の宿泊客だと思われる者もいる。

 しかし、一番目につくのは、中央のテーブルを陣取った十人程の男集団だった。一見して、鉱山労働者であることが知れる。何か余程良い事があったのか、酒を飲み交わしながら騒いでいた。

「騒がしくてすまないね。いつもはもう少しましなんだが、今日はやたらと機嫌がいいんだよ」

 自然と向けられた深緑の双眸に気付いたのか、女将がそう言って苦笑した。

「そうか?オレには、いつもと変わらないように見えるけどな」

 腕の中の痩身を壊れ物を扱うように慎重に椅子に座らせながらの橋聖の言葉を女将は綺麗に聞き流し、勘弁しておくれという言葉を残して厨房へと続く扉へと消えていった。

 対面に座った橋聖から視線を外した凪は、改めてゆっくりと食堂を見回した。

 よくよく観察してみると、地元の人間が大多数を占めているのが判る。皆ここの常連なのか、ここにいる全ての人間がまるで家族であるかのような、陽気で和やかな雰囲気に凪はその深緑の双眸を細めた。

 好い町だ。この光景だけで、それが判る。

「待たせたね。この宿自慢の、鹿肉のシチューだよ」

 女将の明るい声と共に、テーブルに湯気の立った野菜たっぷりのシチューが置かれる。

 食欲を誘うシチューに、素直な橋聖の腹が歓声を上げた。

 待ってましたとばかりに目を輝かせながら、それでも習慣で胸の前で両手を合わせた彼に倣い、食事に手をつける前に凪も合掌する。

 胸の前で手を合わせる行為は、彼の出身大陸である孤龍大陸にある食事前の習慣であり、確か、命への感謝を意味していたと記憶している。『民俗学者』である凪には特に遵守する習慣もないので、他の民族の習いを受け入れる事に躊躇いはなかった。

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