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第一章 承の舞・10

 廊下に出て薄汚れた壁に背を預ければ、階下の喧騒が微かに聞こえてくる。そういえば今は丁度夕食の時間だったと、先程の地震がさほど町人の日常生活に影響がなかった事に橋聖は安堵の溜め息をつく。

 本当の親を見つけて来いと、育ての親の言に従って旅を始めて早三年。北海に浮かぶ馴れ親しんだ孤龍大陸を離れ、神鳥大陸を挟んだ対極に位置する南海に浮かぶ翼鳳(よくほう)大陸に降り立ったのは、半年程前の事。

 微かな鎖の擦れる音を伴って、橋聖は服の下に隠してあった首飾りを取り出す。錆の目立つ鎖に繋がれていたのは、彼の瞳に宿る色と同じ、燃え盛る炎の色をした水晶だった。

「本当の親、ねぇ…」

 記憶に残った母の呼び声。果たしてそれが真実なのかすら、橋聖には分からない。ただ、まるで人目から隠すかのように捨てられていた自分に唯一残された肉親との繋がりが、この小さな水晶玉だった。

「・・・・・・・・」

 目の前に掲げた赤色の水晶を見つめる横顔は、先程の凪の言葉通り、親に置いていかれた子供のような、微かな不安を含んだ哀しげな表情をしていた。しかしそれも数秒で、扉が開く音に橋聖は首飾りを服の下へと仕舞う。

「橋聖。何ぼさっと突っ立ってるんだい?凪を抱きかかえて階段を下りるくらいしたってバチは当たらないよ」

 口を開けば人を小馬鹿にしたような言葉が弾丸のように飛び出してくる。よくそんなに言葉の貯蔵があると呆れながらも、橋聖は女将の言葉通り痩身の凪を軽々と抱え上げてしまった。

「…え?あ…あの…」

 突然の事に動揺する凪を無視して橋聖は歩き出す。

「あの…橋聖さん。自分で歩けます」

「いいんだよ、凪。今日のところは甘えときな」

 何で女将が応えるのかと、心の中で毒づきながら、橋聖は腕の中でどうしたらいいのか困惑している様子の彼女に気にするなと一言落とした。

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