表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/64

第一話 承の舞・3

 逸らされた瞳は、窓の外を眺め遣る。

「貴方は、この世界の異変に気付いているでしょうか」

 話の急転換に、橋聖の反応は数秒遅れた。

「…ああ。最近、地震が多い気がする。それに…」

 続けようとした言葉は、突如襲った衝撃に途切れる。反射的に椅子を蹴り飛ばして立ち上がった橋聖は、深傷の身である凪を庇うように抱き締めた。

 身を貫くような縦の震動に、橋聖は唇を噛み締めて耐える。激しい大地の揺れにただ置かれていただけの家具類は床に落ち、毎朝女将が換えてくれる窓枠の花瓶が割れる甲高い音が響いた。

 大地の怒りは中々収まらなかった。時間の経過がいつも以上に長く感じられ、駄々をこねるように小さな震動を繰り返してようやく地の神は機嫌を直したようだった。

「大丈夫か?」

 震動が完全に収まった事を確認した橋聖は、覗き込むようにして相手の安否を気遣う。

「ええ、大丈夫です。ありがとう」

 肯定の言葉に添えられた微笑みに憂いを払われた橋聖は一度頷く。相手を放し、しかし己の右手の指を赤く染める鮮血を視界に留めて慌てた。

「あ…悪い!俺、気付かなくて…」

 無意識の行動だったことが祟り、庇おうとした己の行動が逆に相手を傷付けていたらしい。地震が収まるまで傷口を押さえ付けていた事に、呻き声一つあげなかった凪に橋聖は情けない顔で謝罪を繰り返した。

「ほんと、ごめん。包帯…止血…って言っても、俺がするわけにはいかないよな。えぇと…」

 血の滲んだ包帯を替えようと真新しいものを持ったはいいが相手が女子である事に気付き、あたふたする橋聖に凪の唇から笑みが洩れる。伸ばされた左手が、そっと彼の頬に触れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ