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第一話 承の舞・2

 凪、と。ベッドの傍らに置いた椅子に腰をおろした橋聖は口の中で呟いてみる。

 訊かなければならない事があった。

 そう思いながらも、喉まで出掛かった言葉はしかし音にならない。意識の遥か奥深く、魂が、目の前の相手に問いかける事を拒んでいた。

 それでも。

「…お前が、殺したのか?」

 微かな震えを帯びた声が、真実を問う。

 ゆっくりと上げられた湖底の瞳は、唐突な問いにも揺るがない。心の奥底まで見透かすかのような静かな眼差しに、橋聖は逃れるように視線を外した。

 脳裏に焼き付いている光景がある。

 切断され、血の海に沈んだ肉塊。原型を留めていなくても、残された欠片からそれが元は何であったのか、理解するには充分な光景だった。

 あれは、人間の成れの果ての姿だ。何人もの人間が爆発の衝撃でただの肉の欠片に変わり果て、それが誰であったのか判別出来なくとも、人間だった事には変わりはないもの。

 何故、そんなものがあったのか。

 何故、あれ程の爆発がありながら、自分以外の誰一人として、認知していなかったのか。

「答えを、くれ」

 お前は、全てを知っているのだろう?

「・・・・・・・・・」

 確かに感じていた視線が外されたのを確認して顔を上げれば、瞼を伏せた思案顔が映る。そこには情動は現れず、お世辞にも広いとは言えない室内を満たす静寂に孕まれていたのは、果たしてどのような感情だったのか。

「私にも、詳しい事は判りません」

 長い沈黙を破って返ってきた曖昧な返答に喉まで出掛かった言葉は、上げられた深緑の双眸に奪われてしまう。自分を映し出したその瞳の輝きは、決して嘘をついてはいなかった。

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