第一話 承の舞・1
最初に視界に入ったのは見慣れない天上だった。半分夢の中を漂っている頭で、ここは何処だろうと漠然と思う。
体を起こしかけ、駆け抜けた激痛に秀麗な顔を歪める。右肩を庇うように上半身を起こし、服の下に巻かれた包帯に左手で目を覆う。
思い出せ。一体、何があったのか。
まだ睡眠を欲する脳を強制的に覚醒させ、途切れた過去と今とを繋げようとする。
「・・・・・・・・・」
霞みかかったようだった記憶が徐々に過去を紡ぎ始める。脳裏を駆け巡る光景に、無意識のうちに拳を握り締めていた。
傷口が痛む。それは熱い脈動となって神経を駆け巡り、硬く目を瞑った闇に浮かぶ記憶が決して作り物ではない事を告げていた。
刻まれた記憶が告げる。それは、確信だと。
「―――起きたか?」
耳に痛い程の静寂が満ちていた部屋に突然響いた声に、驚いたように顔を上げた。視線を遣った先で、中途半端に開けられた扉を背に立つ青年の赤い双眸と目が合う。癖のない茶色の髪が、開けられた扉から入ってくる風に揺れた。
「貴方は…」
音になった言葉は相手への問いというよりも独白に近い。頭の片隅に残る記憶を思い起こそうと、その深緑の双眸が細められる。
「他人に名前を尋ねる時は、自分からってのが礼儀ってもんじゃないのか?」
後ろ手で扉を閉めた相手の、些か不機嫌そうな問い返しに、妙に納得した。
「凪、と」
礼節に欠けると承知で、いまだ鈍痛を訴えてくる肩の傷にベッドの上に上半身を起こした状態で凪は近付いてきた青年へと頭を下げる。