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定時で帰るために、ダンジョン運用を最適化します 〜市役所管理課は事故と改ざんを止めたい〜  作者: ヲワ・おわり


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第38話 最終処分と運用開始――終わりも開始も同じ日に取る

 最終処分公告審理の朝、法廷は妙に静かだった。争う場所が減るほど、沈黙は重くなる。ここまで来ると、相手側も自分たちが何を失いかけているかを理解している。だから大声ではなく、細い綻びを探してくる。


 レイナが席へ向かう途中、待機列の端で旧運用側の職員が低く囁くのが聞こえた。


「今日は公告だけだ。開始は明日でも変わらない」


 その一言で、レイナの中の迷いが消えた。変わる。半日あれば十分変わる。終盤の勝敗は、大逆転で決まるのではない。こういう半日を誰に渡すかで決まる。


 彼女は提出台に三枚だけ置いた。No.77、No.80、No.85。認定事実、統合認定、確定公告。順番は一歩も動かさない。順番を守ること自体が、この物語で積み上げてきた強さだった。


 主査が開廷を告げる。


「本件は最終処分公告の確定、および恒常運用開始審理。争点は公告文の整合と開始時刻の接続」


 相手側はなおも公告の語尾を削ろうとした。


「断定が強すぎる。現場萎縮を招きます」


 レイナは答える前に、認定文と公告案の行頭番号を揃えた。焦って言葉を返すより、まず紙を揃える。ミリエルがその間を埋める。


「強いのではなく、認定済みです。確定した事実に曖昧な語尾は付けられません」


 レイナは行単位照合表を示す。


「語を盛っていません。認定文の主語と時制を、そのまま公告文へ移しています。弱めるのは調整ではなく、後退です」


 午前の審理は、それでほぼ決した。相手側は処分公告そのものでは勝てないと見て、午後の恒常運用開始へ焦点を移す。


 そこで嫌な知らせが入る。開始審理が夕方へ繰り下げられるというのだ。


 記録係が思わず息を呑む。


「これ、日を跨がれたら……」


 その続きを誰も言わない。言わなくても全員分かっていた。処分だけ確定して、開始が翌日に送られる。その半日で旧系統が“まだ始まっていないから”を口実に顔を出す。終盤で一番やってはいけない空白だった。


 レイナはすぐ主査へ向き直る。


「日跨ぎは許せません。処分と開始の間に空白ができれば、旧運用へ戻す口実になります」


 相手側代理は慎重論を装った。


「確認時間が必要です。翌日開始でも支障はない」


「支障はあります」


 レイナは監視票を掲げる。


「夕方以降の引継ぎ系統が未固定のまま夜勤へ入ります。旧系統へ問い合わせが戻れば、再発防止は半日で崩れます。しかも崩れた責任だけが、新運用へ乗る」


 ガレスが重ねた。


「現場は“まだ始まっていない”と言われた瞬間に迷う。迷いは遅延になる。遅延は旧運用の言い訳になる」


 その言葉は荒いが、本質を突いていた。主査は短く裁定する。


「繰り下げのみ。日跨ぎなし」


 それで最低線は守れた。だが最低線しか守れていない。ここから先は一つずつ、自分たちで成立させなければならない。


 夕刻、最終処分公告が読み上げられる。公告番号FA-40-018。時刻十五時四十二分。読み上げが終わるたび、記録係の羽根ペンが短く震える。レイナはその音を聞きながら、ようやくNo.94を登録した。


 No.94 最終処分公告確定(FA-40-018)


 続く後半、恒常運用開始審理。条件は前話で絞られている。例外案件三点要件、72時間再発確認、引継ぎ記録定型化。だが条件が絞られているからこそ、一つの抜けが大きい。


 ミリエルが開始票の条項を読み上げ、ガレスが現場班待機表を出す。レイナは開始票の最後の空欄へ時刻を書き込んだ。


 十八時十分。


 たった四文字の数字なのに、ここまで長かった。


「この時刻から恒常運用へ移行します」


 主査補佐が宣言する。


《恒常運用開始、同日発効》


 その瞬間、法廷の空気が明確に変わった。処分だけで終わる物語ではなくなった。今日ここで、明日の運用まで奪い返したのだ。


 補給所へ戻る前、全員がほんの少しだけ肩の力を抜いた。ガレスは壁に背を預けたまま、珍しく声を落として言う。


「取ったな」


 レイナもようやく息を吐く。


「はい。終わりも、開始も」


 だが安堵は長く続かない。初回監視票のアラートが鳴った。例外案件が一件。期限外搬送の可能性あり。


 記録係が顔を上げる。


「いきなりです」


 レイナはむしろ静かだった。少し笑ったくらいだ。


「いいえ、むしろ今でいい。平時だけ回る制度は制度じゃありません」


 ガレスが現場班へ走り、ミリエルが要件確認票を開く。連署、時限、理由条項。試されるのはここからだった。


 レイナは手帳を開き、たった一行だけ書いた。


 “終わりを取った。同じ日に開始も取った。次は、例外で壊れないかを見る。”

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