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定時で帰るために、ダンジョン運用を最適化します 〜市役所管理課は事故と改ざんを止めたい〜  作者: ヲワ・おわり


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第24話 公開再審前夜

 再審前夜。管理課は封緘準備を進めていた。

 その直前、未承認参照リンクの混入が見つかる。


 榊司は迷わず命じた。

「配布停止。参照ID全点検。封緘は遅らせる」


 遅延は痛い。だが誤ったリンクを通せば、再審資料全体の信頼が崩れる。


 周防は参照IDを棚卸しした。

 現行ID群、旧ID群、孤立ID群。三群に分けると、混入リンクは旧ID群から引かれていた。


「旧参照がまだ自動候補に残ってます」

 周防が報告する。


 来栖は法務注記を追加。

「封緘前差分監査を必須化。参照ID差分が1件でもあれば配布不可」


 真壁は運用条件を付ける。

「差分監査は厳格化する。ただし修正導線は一本化。現場が迷う余地を残すな」


 管理課は再開手順を短文化した。

 一、差分検知。

 二、参照ID補正。

 三、再監査。

 四、封緘再開。


 四手順だけに絞ると、遅れても崩れにくい。


 午後、現場から反発。

「前夜に止めるのは重すぎる」


 榊は代替を示す。

「止めるのは配布だけ。作業は続ける。封緘待ちで前処理を進める」


 全面停止ではなく部分停止。これで遅延幅を最小化する。


 夕方、中央監査との接続会議。


『混入原因は運用か設定か』


 周防が答える。

「設定残骸です。旧参照IDが候補辞書に残存」


 榊が続ける。

「運用で防ぐ限界がある。設定側で旧IDを無効化し、候補辞書を週次棚卸しへ移行します」


 会議は短く、方針了承。


 再監査の結果、差分ゼロ。封緘は予定より14分遅れで再開。


 猪狩が言う。

「遅れたけど、理由が明確なら現場は持ちます」


「説明できる遅れを選ぶ」

 榊はいつもの言葉を繰り返した。


 夜、再審前夜の最終封緘が完了する。時刻は23:02。


 来栖が資料箱の封印を確認する。

「法務整合、参照整合、配布整合。全部通った」


 真壁は短く総括した。

「今夜は“守れた”な」


 榊は頷くが、笑わない。

 守れた夜ほど、翌朝の揺れに備える必要がある。


 終業直前、非公式経路で“和解不採用案”が先に拡散したという報告が入る。


 周防が顔を上げる。

「また配布前です」


 榊は白板へ次の見出しを書く。

『第25話:和解不採用』


 再審前夜は越えた。

 だが制度戦は、朝になってからが本番だった。


 封緘遅延の十四分をどう扱うか。榊は会議後に必ず振り返る。

 遅れを“仕方ない”で終えると、次回は二十分になる。遅れの内訳を分解し、削れる秒を削る。


 周防が内訳を出した。

 差分検知2分、参照補正5分、再監査4分、封緘再開3分。


「再監査の4分は短縮できる」

 周防が言う。

「監査対象を差分範囲だけに絞れば2分台まで落とせます」


 真壁は即採用した。

「次回から範囲監査。全面監査は例外時のみ」


 厳格さを保ったまま速度を上げる。この微調整が主戦場になる。


 午後、設定班と合同で候補辞書を棚卸しする。

 旧ID群の無効化だけでなく、候補提示条件そのものを整理。夜帯分岐、部署別分岐、緊急枠分岐。分岐を減らすほど責任線は明瞭になる。


 来栖が確認する。

「分岐は何個残す」


 榊は答える。

「法的に必要な分岐だけ。便宜分岐は落とす」


 便利のために増えた分岐が、境界漏えいの温床だった。


 夕方、非公式拡散された“和解不採用案”の経路追跡が進む。本文そのものではなく、要点箇条書きが先に出回っていた。


 猪狩班の報告。

「本文は出てない。要点だけが会議メモ形式で広がってます」


「本文防御だけでは足りない」

 榊は言う。

「要点抽出の段階も管理対象にする」


 管理課は新手順を追加した。

 一、要点メモは公開区分を明記。

 二、公開前要点は自動透かし付与。

 三、透かしなし要点の配布を禁止。


 周防が透かし試験を行う。表示負荷は軽く、追跡性は高い。


 中央監査へ追補報告。

『本文保全に加え、要点保全を導入。非公式拡散は本文外経路が主因。』


 監査官の返信は短かった。

『妥当。再審当日は要点経路を重点監視せよ』


 夜、再審前夜の再封緘後チェック。

 参照差分ゼロ、候補辞書旧IDゼロ、要点透かし適用100%。


 真壁が言う。

「数字で見ると、ようやく落ち着くな」


 榊は頷く。

「落ち着きは結果。先に作るのは手順だ」


 終礼で来栖が全員へ共有する。

『明朝は本文だけでなく、要点配布経路の監査票を同時起票』


 準備は整った。だが油断はしない。


 白板の最下段に、榊は一行だけ書く。

『和解不採用:本文防御+要点防御』


 制度戦は細部で決まる。

 細部を残せる組織だけが、朝の混乱に耐えられる。


 再審当日を想定した前倒し演習が深夜に行われた。本文配布、要点配布、監査票起票を同時に回し、どこで詰まるかを確認する。


 周防は時間を計る。本文配布9分、要点透かし3分、監査票起票5分。合計17分。


「目標は15分以内」

 榊は言う。


 遅れの主因は監査票の手入力だった。猪狩が提案する。

「本文配布時に監査票へ時刻を自動転記しましょう」


 真壁は即採用。自動転記後、合計は14分まで短縮した。


 来栖が確認する。

「短縮しても証跡は落ちてない?」


 周防が頷く。

「落ちてません。むしろ転記ミスが消えました」


 速度は削るものではない。設計で取り戻すものだ。


 演習終了後、中央監査へ一報。

『当日運用リハーサル完了。本文・要点・監査票の同時運用で14分。証跡欠落なし。』


 返信は短い。

『明朝は同手順で実施せよ』


 白板の最終欄に、榊は丸を付けた。

『前夜準備 完了』


 完了は安心の印ではない。開始の合図だ。


 再審の朝、管理課はこの手順をそのまま通す。


 封緘箱を閉じたあと、榊は時計を見る。

 遅れはある。だが、遅れの理由も再開条件も全員が説明できる。


 それが前夜準備の到達点だった。


 明朝は、この手順を崩さず通す。それだけだ。


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