表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定時で帰るために、ダンジョン運用を最適化します 〜市役所管理課は事故と改ざんを止めたい〜  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/25

第18話 事前接触の連鎖遮断

 証人保全の二日目、管理課は事前接触報告の真偽確認から始めた。

 感情で動けば、証人保全はすぐに魔女狩りへ滑る。榊司は最初に線を引く。


「断定しない。時刻と経路で切る」


 周防は報告対象の通信ログを時刻窓で抽出し、来栖は適法範囲の確認を進める。猪狩班は面談予定の変更履歴を回収、真壁は保全対象の優先度を更新した。


 最初の結論はグレーだった。接触文面は「確認したいことがある」。威圧でも誘導でもない。だが時刻が問題だった。面談前夜、承認前照会の直後。


「偶然の可能性はある」

 来栖が言う。


「でも偶然で片づけるには連続しすぎてる」

 榊は返す。


 管理課は人物評価へ入らず、経路遮断を先に打つ。

 一、保全対象への連絡窓口を一本化。

 二、面談前24時間の直接連絡を原則禁止。

 三、必要連絡は管理課経由で記録付き通知。


 現場から反発が出る。

「急な確認ができなくなる」


 榊は代替案を同時に示した。

「緊急確認枠を作る。理由と時刻を入れれば30分以内に管理課が中継する」


 止めるだけでは運用は回らない。通す道を作って初めて守れる。


 午後、中央監査へ中間報告。

『事前接触は威圧確認なし。時刻連鎖あり。連絡窓口一本化と24時間ルールを試行導入。』


 中央監査官の返答は短い。

『妥当。効果指標を示せ』


 周防は即座に四指標を提示した。

 接触件数、未記録連絡率、面談延期率、緊急中継の平均処理分。


 数字が揃うと、議論は感情から運用へ戻る。


 夕方、試行導入の初回結果。

 未記録連絡はゼロ、緊急中継は二件、平均処理二十二分。面談延期は発生なし。


 真壁が言う。

「これなら現場を止めずに保全できる」


 榊はまだ頷かない。

「一日分だ。週で見よう」


 その直後、周防が新しいログを拾う。

 決裁履歴フォルダから、古い内部メモが参照されていた。タイトルは短い。


『決裁線逆転案(旧)』


 来栖が画面を見つめる。

「これは……誰が承認し、誰が実行したかを入れ替える案だ」


 証人保全だけの問題ではなくなる。

 運用の根そのものが、過去に意図的に組み替えられていた可能性が出た。


 榊は深く息を吸い、採番を指示する。

「内部メモを証拠化。閲覧権限を限定。次話で決裁線を再検証する」


 白板へ新しい見出し。

『第19話:決裁線逆転』


 窓を塞げば、次は梁が問われる。

 守るべき場所は、いつも一段深いところにある。


 内部メモ「決裁線逆転案(旧)」を見つけたあと、管理課は即時で扱いレベルを上げた。

 証人保全案件だったはずの会議に、決裁工程の再検証が追加される。


 榊は議題を整理した。

 一、メモの作成時刻と改版履歴。

 二、閲覧権限の推移。

 三、現行運用との一致点。


 過去案が単なる草稿か、実運用へ浸透した設計か。そこが境目だ。


 周防は改版ログを引き、来栖は法務保全の範囲を確定する。猪狩班は現場で“誰がどの順で承認しているか”を聞き取り、真壁は決裁ルートの現行図を更新した。


 午後の照合で、嫌な一致が出る。

 現行の一部案件で、決裁順が旧メモの逆転案と同じ並びを取っていた。


「偶然では説明しづらい」

 来栖が言う。


 榊は断定を抑える。

「浸透の可能性が高い。ここからは是正を先に打つ」


 管理課は暫定措置を三つ決めた。

 一、決裁順をテンプレで固定。

 二、順序外承認は自動差戻し。

 三、例外承認は二名承認+翌日追認。


 現場からは即座に反発。

「また手順が増える。業務が遅れる」


 榊は代替を出す。

「順序固定の入力は自動補完。現場が打つのは例外理由だけ」


 止める仕組みと、通す仕組みを同時に出す。どちらか片方では、運用は続かない。


 中央監査への中間報告は、証人保全と決裁再検証の接続を明記した。

『事前接触痕跡は決裁順の揺らぎと連動する可能性。保全連鎖と決裁順監査を統合して運用。』


 中央監査官の返信は重い。

『次回会議で決裁線逆転の因果を提示せよ』


 因果。つまり、誰が、どの工程で、なぜ逆転が生まれたか。


 夕方、周防が一枚の比較表を持ってくる。

 通常順、逆転順、例外順。三パターンの処理時間と差戻し率を並べた表だ。


「逆転順は速いけど、差戻しが多い」

 周防が指で示す。

「短期は速く見えて、後で遅れます」


 榊はその表を次会議の一枚目に据える決断をした。

 善悪ではなく、運用結果で逆転案を否定するためだ。


 夜、真壁が最終確認する。

「次は決裁線そのものを公開再説明か」


「そうなる」

 榊は答える。

「証人保全だけで終わらせると、根が残る」


 終業前、匿名通知。

『順番は正しさじゃない。力関係だ』


 榊は通知を閉じ、白板へ書く。

『次話:決裁線逆転の因果提示』


 順番は力にもなる。

 だからこそ、制度で固定し、説明可能な形へ戻さなければならない。


 会議後、榊は決裁線比較表を現場向けへ言い換えた。

 “通常順は遅いが戻りが少ない。逆転順は速いが戻りが多い。”


 この一文だけで、班長会の反応は変わった。抽象論ではなく、現場の時間で説明できたからだ。


 猪狩が言う。

「先に速く見えて、後で詰まるのが一番きつい」


 榊は頷く。

「だから順序を固定する。速さを捨てるんじゃない。速さの借金を減らすんだ」


 管理課は次回会議用に、決裁順と差戻しの相関グラフを追加した。因果を示す準備は、もう整っていた。


 終業前、来栖は次回会議の冒頭文を整えた。

『決裁順は責任の並びであり、効率化のために入れ替えてよい項目ではない』


 榊はその文を確認し、提出箱へ入れる。

 次は因果を示す番だ。感覚ではなく、工程と数字で。


 管理課の照明が落ちても、白板の決裁線だけは最後まで消されなかった。


 順番を守ることは、遠回りではない。崩れない近道を作ることだ。


 明日の会議は、制度の骨格を決める日になる。


 管理課は資料を閉じ、次の反証準備へ入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ