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定時で帰るために、ダンジョン運用を最適化します 〜市役所管理課は事故と改ざんを止めたい〜  作者: ヲワ・おわり


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14/20

第14話 公開再審前夜

 配布順改定の初日、管理課は朝から静かだった。

 静かな日は、だいたい問題が表に出る前だ。


 榊司は改定手順のチェックを終え、周防へ確認する。

「配布後十五分帯、監視開始」


「開始済みです。時刻同期0.6秒差」


 来栖は再審用資料の法務注記を調整し、真壁は提出先一覧を固定する。初回配布は窓口一元化、再配布は記録付きのみ。昨日決めたことを、今日崩さない。


 午前十時十七分、最初の異常が出た。

 匿名通知に、再審資料の未公開文言が含まれていた。


 配布開始は十時二十分の予定。通知は三分早い。


 会議室の空気が凍る。


「配布前です」

 周防が低く言う。


「なら配布順の外にある」

 榊は即答した。

「作成、承認、封緘、搬送。四工程を時刻で割る」


 人を追う前に工程を切る。これが再発防止の最短路だ。


 第一工程、作成端末。ログ異常なし。

 第二工程、承認端末。閲覧権限に一件の臨時付与。

 第三工程、封緘室。入室記録は正常。

 第四工程、搬送。未開始。


 異常は承認工程に寄っていた。


 来栖が権限付与履歴を読む。

「臨時付与は“確認補助”名目。期限設定なし」


 期限なしの臨時権限は、臨時ではない。


 榊は真壁へ提案する。

「臨時付与は自動失効を必須に。失効時刻未入力は発行不可」


 真壁は即決裁した。

「今日中に反映。再審前に穴は残さない」


 午後、関係部署ヒアリング。意図的漏えいを示す証拠はまだない。だが便宜運用が規程を上書きしていたのは明らかだった。


「急ぎだったので確認者を増やした」

 担当者はそう説明した。


「確認者を増やすなら、期限を入れるべきだった」

 来栖が返す。

「期限なしは共有化と同じです」


 責めるための会話ではない。次に起こさないための会話だ。


 夕方、中央監査へ中間報告。


『配布前漏えい疑いの発生点は承認工程。臨時権限の無期限付与を確認。是正措置を即日実施』


 中央監査官は追加で求める。

『是正の有効性を何で測る』


 榊は三指標を提示した。

 一、未公開文言通知の発生件数。

 二、臨時権限の平均存続時間。

 三、追認未了件数。


「この三つが同時に改善しなければ、是正は不十分と判定します」


 会議は短く終わった。議論が短い時は、条件が揃っている。


 夜、再審前夜の最終封緘。

 周防が封筒を数え、猪狩が搬送経路を確認し、来栖が条文注記を最後に見直す。


 榊は封緘台帳に署名し、時刻を書く。

 19:34。


 提出直前、資料目次に赤字注記が見つかった。

『参考:旧運用継続案』


 誰が入れたかはまだ不明だが、現行方針と矛盾する文言だった。


「混入です」

 周防が言う。


「証拠化して差し替え。原本は隔離」

 榊は指示する。


 混入は失敗ではない。検出できれば、制度はまだ守れる。


 差し替え後の封緘を終え、榊は白板へ次の見出しを追加した。

『第15話:再審当日の反証線』


 公開再審は、主張の強さを競う場じゃない。

 手順の強さが、最後に組織を守る。


 再審前夜の混入注記を隔離した後、榊は目次改版ログを追った。

 変更は十九時二十二分、承認工程端末から行われていた。配布前漏えいの疑いと同じ工程だ。


 周防がログを突き合わせる。

「臨時権限の自動失効を入れた後でも、既存セッションが残ってました」


「失効は新規付与に効く。既存セッション遮断を忘れてた」

 榊はすぐ修正票を起こす。


 制度の穴は、塞いだ瞬間に隣へ移る。だから修正票は一枚で終わらない。


 来栖は法務観点で補強する。

「権限失効時はセッション強制終了を必須化。再ログインは二要素確認」


 真壁が決裁印を押す。

「今夜中に反映。再審当日に持ち越さない」


 反映テストで、旧セッションは全切断。再ログインには承認コードが必要となった。現場からは手間増の声が出るが、混入注記を見た後では反対は弱い。


 榊は現場へ説明に入る。

「面倒なのは分かります。けど、混入が一件でも通れば再審全体が崩れます」


 猪狩が横から補足する。

「再ログイン手順は短縮版を配る。入力は増やさない」


 厳格化だけで押し切らない。代替手順を同時に出す。これが続く運用の条件だ。


 深夜前、中央監査から確認要求。

『混入注記の再発防止を一文で示せ』


 榊は返信する。

『承認工程の臨時権限は自動失効+既存セッション強制終了。改版操作は時刻付き二名承認へ固定。』


 一文に詰めると、設計の骨が見える。


 最終封緘のやり直しで、目次は正常化された。赤字注記は隔離保管し、証拠番号を付ける。


 来栖が確認する。

「再審資料、法務整合は通った。提出可能」


 榊は時刻を記入する。23:11。


 長い一日だったが、何が危なくて、何を直したかは全員が説明できる。


 提出箱へ収める直前、匿名通知が届く。

『扉を閉めたな。なら窓で会おう』


 榊は通知を保存し、笑わない。

 扉を閉めれば窓を探す。それは相手の自由だ。

 窓を見つけて先に塞ぐのが、こちらの仕事だ。


 白板に最後の追記。

『再審当日:反証線は工程で示す』


 制度は人の善意に寄りかからない。

 工程で守る。工程で直す。工程で続ける。


 提出後、周防がログ端末を閉じながら言った。

「今日の修正、全部“誰が悪いか”を決める前に進みましたね」


 榊は短く返す。

「悪意の証明は時間がかかる。再発防止は今日から始めないと遅い」


 来栖は資料箱に封印を貼る。

「再審で問われるのは、疑いの強さじゃない。改善の再現性だ」


 管理課の灯りが落ちる頃、白板の工程図だけが残った。明日はその図が、言葉より先に場を動かす。


 再審の朝はもう近い。榊は工程図を畳み、資料箱の上に置いた。どこから問われても、工程で答える準備はできていた。


 扉も窓も、見つけ次第ふさぐしかない。制度はその反復でしか強くならない。


 明日の再審は、その反復の検証日になる。

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