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狂気の魔法  作者: 波方 真季


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第61話 エピローグ【最終回】



それから、さらに一年が過ぎた。




「あっ!見て!ポムリィ、ここにもいた!」


アーク映画の最新作を記念して、施設内には主人公キャラクターの装飾があちこちに散りばめられているルミナリア。


ゆりは、ガラスの向こうにちょこんと座った青いぬいぐるみのキャラクターを見つけて、嬉しそうに駆け寄る。

パシャ、パシャとスマホを構え、次々とシャッターを切る彼女の顔は、まるで無邪気な子どものようだった。


「まだ探す?」


その後ろで、蓮はゆっくりと歩きながら、ふと立ち止まった。

微笑ましそうに、そんな彼女の姿を黙って見つめる。

一年経っても、ゆりの笑顔は変わらず蓮の胸を温かく満たした。


蓮が少し歩み寄って声をかけると、ゆりはスマホの画面を見せながら答えた。


「うーん…SNSに載ってたここの映えスポット、見に行きたいんだよね」


光に透けるような柔らかな表情でそう言うゆりに、蓮は静かに頷いた。


目的の場所へ向かって歩いていると、ふと──

ゆりの視線が、ショーウィンドウに並んだマネキンへと吸い寄せられた。


「…可愛いー……」


思わず洩れた、つぶやき。

マネキンが纏っていたのは、ふわりと揺れる淡いグレーのワンピース。

どこか、今のゆりの雰囲気にぴたりと重なるようなデザインだった。


その瞬間、蓮がすっと足を止める。


「すいませーん!この、外に飾ってある服……」


何の迷いもなく、店の中へと歩を進めていく。


「ちょちょちょっ!蓮っ!いらないよっ、ほんとに!」


慌ててその腕を引っ張り、全力で制止するゆり。

そのまま店の外へと、ずるずると蓮を引っ張り出した。


「なんでだよっ!」


顰め顔で後ろを振り返る蓮が、不満そうに声を上げるも、ゆりはぴしゃりと一刀両断。


「この前もそうやってワンピース買った!しかも色違いで2着!!」


「だって…どっちの色も、ゆりが着てるの想像したら…どっちも可愛くて選べなかったんだもん!」


「着きれないよっ!」


蓮と街を歩いていると、ゆりの何気ないひと言がまさに一貫の終わりだ。


服でも、アクセサリーでも、雑貨でも。

ゆりが目を留めたり、手に取ろうものなら迷わず蓮はレジへ持っていく。


結婚当初からずっと変わらない蓮の偏愛ぶり。

そのおかげで物は増え続け、クローゼットも棚もすでに飽和状態。


「ゆりが可愛すぎるのが悪い!」


不意に飛び出した蓮の直球すぎる言葉に、ゆりの胸はきゅんと締めつけられた。


反射的にその腕に両手を回して、勢いよくぐいっと下に引っ張る。

そのまま少し跳ねるように背伸びすると──


ちゅ。


その頬に一瞬だけ、軽く唇を触れさせた。


「…おま…っ、そろそろ外でそういうのやめろよな…」


戸惑ったように一歩引き、蓮は小さく周囲を見回す。


「俺たち、いい加減…もう良い歳なんだから……」


照れ隠しのように呟かれたその言葉の裏に、耳まで赤く染まった彼の横顔があった。

わざとらしく視線を逸らしながらも、どこか緩んだ頬が、嬉しさを隠しきれていない。


確かに、冷静に考えれば。

街中で見せつけられるアラサーのイチャつきなんて、少し見苦しいものがあるかもしれない。

でも。

ゆりの中で、そんな思考は一瞬で吹き飛んだ。


「私たちは美男美女だから、オッケイっしょ」


小悪魔のような笑顔で、ゆりはそう言って蓮を見上げた。

その瞬間、蓮の胸はまたもや大きく揺さぶられる。


「自分で言うかよ…」


呆れたように呟きながらも、その声にはどこか甘さが混じっていた。


ゆりが自分の可愛いさをとてもよく自覚していることを、蓮は誰よりも知っている。

そして、その最大の武器を存分に使ってあざとく攻撃してくるのも、もう何年も前からのことだ。

それは出会った当初から、今でもずっと変わらない。


「だってちゅーしたいんだもん♡」


跳ねるような声色に、また心がくすぐられる。


「蓮がかっこ良すぎるのが悪い」


ほらまた。

そーやって。


ふいに心をかき乱された蓮は、先ほどまでの冷静さを保っていたはずの顔から、ふっと理性の色が抜け落ちた。


突然ゆりの腕を掴み、通路の角、人目のない脇道へとぐいっと引き込んだ。


「ちょっ、蓮…っ?」


驚く間もなく、蓮はその場で衝動のまま、ぎゅっとゆりを抱きしめる。


まるで子どもが宝物を抱えるみたいに、強く、けれどどこか不器用な愛情のこもった抱擁だった。


「…ちゅーはだめなのに、ハグはいいの?笑」


ゆりは蓮の肩越しに、小さく笑った。

その言葉の端には、嬉しさを滲ませた優しい響きがあった。


「……やっぱり、映画今度にしよう」


「はっ!?」


勢いよく見上げるゆりに、蓮は真顔で言い放つ。


「だって明日から出張なのに!ウチに帰って一秒でも長く、ゆりとイチャイチャしてたい!」


「もぉ…じゃあ、2時間ずっと手ぇ繋いでよ?」


「2時間も我慢できない!抱っこしながら映画観たい!」


「無茶言わないでよ!」


道端の影で、抱きしめ合ったまま小声で揉めるふたり。

アラサー夫婦のくせに、恋人みたいな駄々のこね合い。


「……ほら、映画始まっちゃうから。そろそろ行こ?」


ゆりは蓮の身体をそっと引き剥がし、名残惜しさを抱きながらも、静かにその手を引いた。


「じゃあ帰ったら、明日までずっと離れずゆりのこと抱っこしてる」


繋いだ手をぶらぶら揺らしながら、駄々っ子みたいな声色で蓮が呟く。

ゆりはくすっと笑って、ふと提案するように口を開いた。


「ロンドンに、抱っこできるサイズのドリームシープ、連れてく?」


「じゃあゆりにも、俺の代わりに抱っこできるドリームシープ置いてってあげるよ」


その言葉に、ゆりの足がふいにピタリと止まる。


繋いだままの手を少し強く握ると、ゆっくりと蓮の方へと振り返った。


その瞳は、夜空の下にふわりと浮かぶ星のように澄んでいる。


「私は……」


ほんの少し、口角を上げながらそっと蓮の耳元へ顔を寄せる。




「いつも蓮に会ってるの。夢の中で」




静かに囁かれたその言葉に、蓮はたまらず顔を赤らめて、もう一度ゆりの手を握りしめた。

二人のラブラブは、以前にも増して健在。






しかし、この仲睦まじい夫婦に、セックスは無い。







翌日、蓮がアメリカへと旅立ったその晩。


「司ーっ♡やっと会えたーっ!」


ホテルのスイートルームに足を踏み入れた瞬間、ゆりは迷いもなく、先に部屋で待っていた司の胸へと飛び込んだ。


「私もずっと…ゆりさんに会いたかったですよ」


司は笑顔で声を弾ませ、まるで久しぶりに帰る場所を取り戻したかのように、その細い身体を強く抱きしめた。


普段職場で顔を合わせる二人だが、ここで言う“逢いたかった”は別の意味。


「2か月?ん?3ヶ月近くぶりだねっ!蓮の出張がなかなか無くて困ってたよ」


「今回は1週間ですか?2週間ですか?」


「2週間!毎日司に会いに来るねっ」


笑い合うふたりの声が、夜景の光の中に溶けていく。


あれから一年。


蓮がロンドンやアメリカへ行くたびに、ゆりと司はこうして逢瀬を重ねていた。

それは、誰にも知られない小さな逃避行。

罪悪感と安堵が表裏一体となった、危うくも穏やかな時間だった。


爆ぜる程の熱を司に鎮めてもらう事により、蓮に優しく出来た。

蓮に怒りを覚えず、蓮に求めず、蓮を追い込まず、蓮を苦しめず、蓮を傷つけず、心から蓮を思いやる事が出来るし、蓮を大切に出来る自分でいられた。


蓮と同じ寝室に戻ることが叶い、朝まで抱きしめ合いながら、そのぬくもりの中で眠ることができるようになった。


ゆりは司の胸に顔をうずめ、嬉しそうな声で呟いた。


「……はぁ……私のひつじちゃん」


「なんですか?ひつじちゃんって」


司が不思議そうに尋ねると、ゆりは笑顔で司を見上げて答えた。


「ドリームシープだよ。大切な人へ、寂しくないようにってプレゼントする夢の中の羊。」


そして再び司の胸元へ頬を擦り寄せて、司を抱きしめる腕に力を込めた。


「……司は、私の寂しさを埋めてくれるから」


そう囁いたゆりの声は、まるで幼い日の夢を語る少女のようで、その裏に潜む孤独を、司は痛いほど感じ取った。


「それは…侮辱ですね…」


冗談混じりに優しい声で微笑みながら、司は静かにその髪をそっと撫でた。


抱きしめた腕の中で、ゆりの呼吸がゆっくりと落ち着いていく。



まるで、嵐の夜を越えて眠る“ドリームシープ”を抱くように。







間接照明が揺らぐベッドルームに、乾いた音が鳴り響く。


ビシッ。


「…っはぁ…」


ゆりはゆっくりと立ち上がり、その手にはロッドを持っていた。


「ねぇ…司ぁ…」


司を見下ろすように腰を傾け、ゆりは妖艶な笑みを浮かべた。

その視線には甘さよりも、征服の色が濃く滲んでいる。


「今日の会議……何回目ぇ合ったかなぁ?」


スルリ──

細く、逆三角形の先端が、司の胸元を優しくなぞる。

触れるか触れないか程の曖昧な距離で、まるで焦らすように、擽るように。


司の喉が、ごくりと鳴った。


「…すっごい……見てたよねぇ?」


妖しく揺れる照明の下。

ゆりの声が、まるで甘い毒のように司の耳へと滴り落ちる。


ビシィッ!


今度は先ほどよりも鋭く、音が跳ねた。


「…あぁっ…す…すみませんっ…」


反射的に背を反らせた司は、眉を寄せながらも目を逸らさない。

そこに宿るのは、恐怖ではない。

疼くような緊張に滲む、胸の高鳴り。

そして、ひたすらに“この人に支配されたい”という本能的な従順。


「そんなに…夜が待ち遠しかった?」


ゆりは唇の端をゆるく吊り上げ、手首の角度をひと捻り。

もう一度、革の先が空気を裂く。


ビシィッ!


「………も、もう…待ちきれなくて…」


声が漏れた次の瞬間、ゆりはロッドを肩に預け、司の顎に指を掛ける。

司の言葉を遮るように、そのまま顔を引き上げた。


「まったく…大事な会議中になに考えてたの?」


その視線は、冷たく、でも甘く、上から司を覗き込むように絡みつく。

ゆっくりと顔を寄せていきながら、唇を重ねる。


「…私を見ながら……頭の中で…何を考えてた…?」


唇を重ねたまま、熱を孕んだ吐息の合間に言葉を差し込む。


ビシッ


唇を塞いだまま、ロッドが静かに下ろされる。

司は痺れるような胸の高鳴りに、何よりも抗いがたい彼女へ服従する。


「……頭の中で……っゆりさんを……」


競り上がる昂りに呼吸を荒くさせ、司の唇はまるで溺れるように暴れてゆりの唇へ、必死に絡みつこうとする。


「…めちゃくちゃに…してました……っ」


溶けていく表情と、甘く滲む涙。

司の言葉に、ゆりはふっと笑った。


それは、飼い慣らした獣の甘い唸り声に耳を澄ませる支配者の微笑み。


「……へぇー……司が私を…?」


ゆりは、口元に艶やかな弧を浮かべながら、静かにベッドから降りる。

その動きには一切の無駄がなく、まるで舞台の上の女王のようだった。


くるりと振り返ったその背中が、椅子の上のアタッシュケースに手を伸ばす。


パチン。


留め具の外れる小気味よい音とともに、開かれたその中には、数点の小道具が整然と並んでいた。


ゆりの指先が迷いなく掴んだそれは、見た目から用途を想像させながらも、どこか儀式めいた存在感を放っていた。


「お仕事中に、そんないけないことを考えちゃう悪い子には……」


くすりと笑みを含ませながら、手の中の小道具にそっと親指を滑らせると、まるで生き物のように滑らかな弧を描いて蠢く。


司の喉がごくりと鳴った音が、静寂に混じって響く。


「しっかりお仕置きしないとね♡」


甘い声色と裏腹に、その言葉には明確な“命令”が込められていた。


ゆりが一歩踏み出すたびに、床にかすかに鳴る足音が、司の鼓動と呼応するように響く。




──この夜が、どんな結末を迎えるかなど、もう最初から決まっている。

それでも燃え盛る二人の熱い夜は止まる気配はない。

夢の中へと堕ちていくように、溺れるように、深く夜は更けていく。





「…あぁ…蓮…っもっと…」


「…っはぁ…ゆり…ほら…どうして欲しいんだよ…」


ゆりと司の熱を帯びた声が交錯し、現実と幻の境界がゆらめく。

指先が触れ合うたび、呼吸が溶け合うたび、世界は音を失っていく。


「…来て….蓮…もっと…あぁ…っ」


ゆりは司の腕の中、その名を呼びながら蓮に抱かれる幸せな夢を見続ける。


司の喉から洩れる吐息は、熱と嫉妬と陶酔が入り混じる。

髪を撫で、頬に触れ、彼女を見つめるその瞳に宿るのは、欲望よりも、屈辱感への恍惚。


「…お前は…こんなに…可愛い顔して…あぁ…」


ゆりのにしがみついていた上体を起き上がらせると司はベッドの上に散らばっている幾つもの小道具へ手を伸ばした。

司の手に収まったのは、ゆりがいつも一番欲しがるものだった。


叫ぶようなゆりの声が跳ね、空気が震える。

痙攣が波のように広がり、ゆりの体が小刻みに震える。


夜の静寂が、熱と共に激しく煌々とゆらめいた。


全身振動は途切れない。

淡く、けれど確かに芯を掴むような震えが、二人のあいだに脈打ち続けていた。

肌の奥で溶け合う熱が、現実と夢の境目をぼかしていく。

意識が波打つたび、呼吸の音が空気を震わせた。


ゆりの眼球が、光を掴みきれないまま上を向く。

刹那、世界が白く跳ね、気を失いかける程全身を突き抜ける閃光のような強烈な感覚に、ゆりの悲鳴と吐息が混ざり合った。


その瞬間、司がゆりの唇を強く塞ぎ、その震えごと飲み込むように重ねる。

叫びも、呼吸も、思考までも、全てを奪い尽くすほどに唇を強引に押し当てながら距離を詰めた。


そして唇を離すと同時に、司の喉が震え、全身が焼けつくほどの感覚に震える声が胸の奥から吐き出された。


どこか遠くの世界に意識を連れていかれたかのようなゆりを呼び戻すように、その頬に手を添えて揺りながら名前を呼んだ。


「わかるか…ゆり……お前の鼓動…ほら…すごいドクドクしてる…ああ…凄い…」


司の熱は静止したまま、脈動を感じ取っている。

鼓動を刻む圧で司をさらに沼へと引きずり込もうと渦の中へ呑み込んでいる。


「…ああ……蓮の…はあ…鼓動も…ああ…ドクドクしてて…熱い……」


ぬかるむような律動が司の奥底にある意識までも深く引きずり込んでいく。

蠢くように絡みつく熱は、まるで本能を吸い上げるかのようで。

司の昂りは今にも破裂しそうに、その内部で悶えている。

競り上がる圧を感じながら、解放の衝動に抗うように全身に力をぎ、限界まで膨れ上がった感情が爆ぜる寸前に震えている。


しかし必死の抵抗も虚しく、蕩けた童顔からその後も飛び出す溶けた甘い声と破壊的な言葉に、理性は音を立てて崩れ堕ち、何も考えられなくなった。

司は快楽の渦の中で、無心で衝動をぶつけ続けた。


その瞬間、現と夢の境目は完全に溶け、ひとつの幻の中で、果てしない夜を彷徨い続けた。

いつまでも終わらない夜の奥へと


何度も


何度も


堕ちていく。


深く


深く


堕ちていく。


二人の背徳の関係は沈み込むように、共依存の沼へと溺れていく。





もはや「真実の愛」など。


それは甘く、優しく、確かに触れられるもののようで、欲望という名の闇にその輪郭の全てを飲み込まれ、最後にはただの幻想へと変わり果てた。



彼女は、かつて正しかった。

真っ直ぐで、純粋で、誰よりも清らかだった。

神に祈り、愛に生き、夢を信じていた。


けれど今、彼女のその肌には不埒な熱の痕が刻まれている。

背徳と快楽の炎に焼かれ、不貞の影に染まり、純粋な心は汚れ、裏切りを続けていく。


かつて誓った清らかな愛など、とうにかなぐり捨てた。

愛する人とひとつになることさえ叶わずに、幸福な未来は遠ざかり、すべての願いは、もう手の届かぬ彼方に溶けていく。



そして、愛を見失い、狂気に飲み込まれた男。


自らの手で、確かだったはずの愛を壊し、その代償に、心ではなく“身体”だけを繋ぐ関係を選んだ。

その腕に抱くものはもう温もりではなく、ただ欲望に突き動かされる肉の記憶。


誰かを愛することも、誰かから愛されることもなく、ただ、貪り、弄び、繰り返される衝動の中で、自分が必要とされる唯一の価値は「快楽の道具」という残酷な現実。


無情な欲望に囚われ続け、真実の愛を知ることも叶わない悲しい未来。



そして、快楽を奪われ、全てを知らずに生きているいる男。


抱きたいと願っても、どれだけ欲しいと望んでも。

その身体は応えてくれず、渇望を満たすことも許されない。


信じ続けていた真実の愛は、どれだけ祈っても、既に幻にすり替えられていた。

その裏で、自らの知らぬままに、愛する人は別の男に溺れ、共依存に堕ちている。


何も知らず、ただ信じ続けていることこそが最も深く、残酷な裏切りだという地獄だけが残った。



皮肉な運命は、これまでの三人の心を、少しずつ、着実に、確実に狂わせていった。


交わるはずのない歯車が軋み、理性の断片を削り落としながら回り続ける。


その音は、まるで地獄の調べ。

それぞれの魂を異なる地獄へと導いていく。

静かに、狂おしく、永遠に。


狂気の魔法はすでに解けることなく、抗えぬ快楽と満たされぬ欲望の底なし沼へ、三つの魂は沈み続けていく。


永遠に、どこまでも、果てしなく堕ちていく。


苦しみ、悲しみ、傷つき、痛み、渇き、愛を求め、それでも決して救われる事のないその心。


闇に覆い尽くされた彼らの未来は、もはや光の差す場所などない。


それはあまりにも静かで、あまりにも美しい。





報われる事のない、絶望のバッドエンド。







狂気の魔法 ー完ー







※本作の別稿は、2月1日より別サイトにて公開予定です。

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