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狂気の魔法  作者: 波方 真季


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第52話 満足ですか


その後、ゆりは蓮に求めることをしなくなった。


とはいえ、決して影を落とすことはなかった。

今までと変わらず、毎日たくさんの笑顔で蓮に愛を伝え、明るく穏やかな時間を積み重ねていった。


「ねぇ見て!グランフロント百貨店で、来週からアークプリンセスEXPOだって!やばっ!」


リビングのソファで寛ぎながら、ゆりが嬉しそうにスマホを蓮の顔の前に突き出した。


「へぇー、今度の非番に行こうか」


「え!?やったぁ!」


ゆりは、弾けるような笑顔で両手をぱちんと合わせた。


「グランフロント百貨店って、屋上に大きな観覧車あるよな?乗ったことある?」


「……いや、その……観覧車とかちょっと……」


「ん?なに?」


言い淀むゆりに、蓮が首を傾げる。


「あんま高いとこ、結構無理なんだよね」


「……かわいこぶってんの?」


「かわいこぶってないよっ!……え、可愛い?」


「うん。可愛い。じゃあ乗ろう!」


「は?なにそれドSじゃん。変態」


「変態で結構。ドSだよっ!」


蓮は不意に手を伸ばし、勢いよくゆりの両脇腹をくすぐった。


「ぎゃーっ!あはははっ!やめてっ!」


笑い声が、夜のリビングに弾む。

いつの時も、二人で過ごす時間は愛と幸せに満ちていた。







その日、ゆりは遅番勤務を終えたあとも、残務整理と報告書の作成で遅くまで現場に残っていた。


日付も変わる頃、ようやく業務を終えると、ゆりを乗せたリムジンが、静かなパーク通りを抜けて走り出した。


夜の街は、すでに人の気配もなく、ガラス越しに映る街灯の光が、ゆらゆらと車内を照らしていた。


すると、運転席から穏やかな声がスピーカーを通して届く。


「奥様。代表からの要請が入りました。一旦ご自宅へお送りいたしますか?それとも、このまま代表のもとへお迎えに上がりますか?」


本日、蓮は企業オーナー懇親会に出席していた。


ナイスタイミング。

ゆりは迷わず、車内マイクのスイッチを押した。


ピッ。


「このまま蓮を拾いに行ってください」


短い返答のあと、車内に再び静寂が戻る。

夜の道路を滑るリムジンの走行音が、ゆりの鼓動と同じリズムで響いていた。


この日の会場は、都心の夜景を一望できる高級ホテルの最上階の会員制ラグジュアリーバー。

ゆりを乗せたリムジンが、ホテル入口のロータリーに静かに停まった。

運転手が到着の連絡を入れると、フロントガラスの向こうに、煌びやかなエントランスの光がぼんやりと滲む。


そして暫しの時間は流れ、ゆりは車内で蓮を待った。

やがて、回転ドアの向こうからスーツ姿の二人の男が姿を現した。


ひとりは重厚な紺のスーツに身を包んだ、見覚えのある紳士。

その肩にもたれ掛かるようにして、足元もおぼつかない様子で歩いているのは、蓮だった。


その光景に息をのんだゆりは、思わずリムジンのドアを開けて外へ飛び出した。


「……桐生さん!本日、代表とご一緒だったんですね」


ゆりが駆け寄ると、司は軽く会釈を返した。


「早瀬さん…遅くにわざわざすみません」


司の肩には、まだ蓮の重みがかかっていた。


蓮のネクタイはゆるく外され、上着のボタンも外れかけている。

頬はわずかに紅潮し、目元は焦点を結ばずにゆらいでいた。


「……あれぇ?ゆりも迎えに来てくれたのー?」


ふわりと笑う、少し伸びたその声。

アルコールの匂いが夜風に混じって、ゆりの鼻を掠めた。


「蓮……大丈夫?」


ゆりがそっと覗き込むと、蓮の瞳はぼんやりとした光を湛えている。

その様子を見つめながら、司が静かに口を開いた。


「珍しいですよね……以前は、蓮がこんな酔い方をするのを見たことがないです」


優しい声に、ほんのわずかな気遣いが混じる。

司は小さく息を吐き、苦笑混じりの微笑を浮かべた。


「途中から様子がおかしいと思って。それでも、まだ飲もうとするから……私が、こっそり蓮に注がれるグラスを隣で空けてあげてたくらいです」


そう言って微かに笑う司の頬も、夜の照明に照らされてうっすらと赤く染まり、その目元は、どこか少し座っているように見えた。

司と過去に何度も一緒に酒を酌み交わしてきたゆりには、そのわずかな変化で察しがついた。


──司も、かなり飲んでいる。


「司ーっ!もう一軒行こーよー!あっ、ゆりも一緒に行こうか?」


「バカっ!何言ってるの…蓮!早く帰るよ!」


ゆりは即座に一喝し、そのまま蓮の脇へ手を差し入れ、自分の肩を貸した。

少しふらつく蓮の体温が、肩口に重くのしかかる。


司はその様子を見つめながら、ふっと小さく笑みを漏らした。


普段、職場では“代表”と“ディレクター”として、公の顔しか見せない二人。

けれど今目の前にいるのは、互いに遠慮のない、ごく自然な夫婦の姿だった。


夜風に揺れる髪の隙間から見える、ゆりの少し困ったような笑顔に、司の胸の奥に、かすかな切なさが走った。


三人がリムジンへ近づくと、運転手が後部座席の扉を開いた。


「司!送るから乗れよ!」


「え?俺はいいよ、タクシーで帰るから」


「どーせ通り道だから!いいから乗れって!」


蓮の強引な性格を、司はよく知っていた。

面倒を避けるように、小さく笑って頷く。


「……わかったよ。お言葉に甘えます」


そして三人を乗せたリムジンは、ゆっくりとロータリーを抜け、夜の街へと滑り出した。


「司ー、ワインでいいー?」


当たり前のように冷蔵庫からボトルを取り出す蓮。

コルクの音が“ポン”と軽く響いた瞬間、ゆりは慌てて身を乗り出した。


「もうやめなよ!そんな状態で…自分が酔ってる自覚ないの?」


「うるせーなぁ、ガミガミ言うなよ」


蓮は、ゆりの言葉を軽く受け流しながら、

グラスに赤い液体を注ぐ。


「蓮、早瀬さんはお前を心配して言ってるんだから。そんな態度取るな」


司の静かな声が車内に落ちた。

だらしなく乱れる蓮の姿と対照的に、冷静で落ち着いた司の振る舞いが、ゆりの瞳にはとても紳士的に映った。


「はい、可愛いゆりちゃんにもねー、どうぞ」


司にたしなめられた直後、蓮はわざとらしく明るい声を上げ、ゆりの前に置かれたグラスへワインを注いだ。


「はい、かんぱーい」


そう言いながら、蓮は自分のグラスを手に取って、ゆり、司、それぞれの前に置かれたグラスへ、順番にコツン、コツンと当てていった。

最後の音が鳴り終わると、蓮はワインをグイッと喉に流し込み、ふぅーっと長い息を吐いた。

そのまま、リムジンの柔らかなソファに深く背を預け、リラックスするように、穏やかに瞳を閉じる。


車内には、走行音とわずかな呼吸の音だけが残った。

街の灯りが窓を流れ、三人の顔を淡く照らしては、また闇に沈む。


「……最近の蓮は、普段ご自宅でこんな感じですか」


沈黙を破ったのは、司の声だった。


「……いえ。蓮は普段、お酒を飲みません。祝賀や披露など、社交の場で嗜む程度です」


「えっ…!?まさか…以前は浴びるほど飲んでいたのに?」


司の声には、抑えきれない驚きが滲んでいた。

そして間をおいて、何かに駆られるように、手にしていたグラスのワインを一気に喉へ流し込んだ。


「……退院後から……ずっとですか?」


司のその顔には、わずかな哀しみが影を落としていた。

ゆりは短く息を吸い、眠る蓮の顔へそっと視線を落とす。


「……まぁ……そうですね」


蓮は、以前あれだけ大好きだった酒をやめた。

それはアルコールが、男性機能の回復に悪影響を与えるからだった。

治療、服薬、そしてリハビリ。

一日でも早く“普通”に戻るために、蓮はお酒を断つしかなかった。


でもそんな事を、とても司には言えなかった。


ピッ


「ちょ、ションベン。どっか寄って」


唐突に蓮が車内マイクへ声をかけた。


「蓮、はしたないからお手洗いって言いなさい」


ゆりの言葉がピシャリと落ちた。

そして、リムジンはゆるやかに車線を外れ、近くのホテル前で静かに停車した。


「ついてこうか?」


司の問いに、蓮はドアに手をかけながら軽い声で答える。


「や、大丈夫ー」


そう言って、ふらつく足取りのまま外へ降りていった。


ドアが閉まる音と同時に、リムジンの中に静けさが戻る。


司とゆり。

二人きりになった車内に、言葉にできない緊張がふっと流れ込んだ。


外のネオンが窓越しに反射して、赤と金の光がゆらゆらと二人の顔を照らす。


何となく気まずくて、お互いに視線を合わせることもできない。

手持ちぶたさで、それぞれ手元のグラスに残っていたワインを何度も口に運ぶ。

沈黙が、まるでひとつの会話のように車内を支配していた。


エアコンの低い駆動音。

対向車線を走行する車のライトが、窓の外を流れていく。

そのたびに、ゆりの横顔が光に照らされては、また闇に溶けた。


やがて、司の瞳がゆっくりとゆりを捉える。


最初は何気ない視線だった。

だがそのまま逸らさずにいるうちに、その眼差しは次第に熱を帯びていった。


懇親会の終盤。

自分のお酒と並行しながら、蓮に注がれるグラスを代飲し続けていた司は、ようやく遅れて酔いが回ってきていた。


それに加え、すぐ隣にゆりがいるという緊張感。

狭い車内に漂う、アルコールの混じるゆりの甘い匂い。


夜の静寂と共に、理性をゆっくりと溶かしていくような、別種の酔いが司の中で静かに加速していった。


「………蓮との生活は………満足ですか…」


無意識に、司は心の声が口をついて出てしまった。

ゆりは突然の問いかけに、少し驚いた表情で司へ顔を向けた。


「……はい…満足です………」


ゆりは訝しげな眼差しで司を見ながら、静かに答える。

その表情には、戸惑いと警戒がわずかに混じっていた。


「…へぇー……」


横目でゆりを見ていた司は、ゆっくりと身体の向きを変え、まっすぐにゆりの方へと正面を向いた。


「…あれほどまでに、強欲なあなたが?」


その瞬間、ゆりの心臓がドクンと跳ねた。

真っ直ぐに、熱を帯びた司の視線が射抜くように注がれ、思わず息を詰める。

その言葉の意味を、ゆりはすぐに理解した。


「……満足って……“そっち”…ですか」


司の目元は、さっきよりも少し座っている。

ゆりはわかっていた。

これは司が完全に酔っている時の顔だ。


「私はあなたと過ごした6日間……正直、大変でしたよ。蓮は夜が強いんですね」


司の口元が、わずかに緩む。

その声には、酔いの熱と、どこか含みを持った響きが混じっていた。


ゆりの表情が一瞬にして固まる。

それと同時に脳裏には、かつて司と過ごした6日間の記憶。

朝も夜も何度も繰り返し求め合い、何もかもが濃密で、激しい思い出が一気に蘇った。


ゆりは司と最後にアメリカへ行ったあの時以来、ニ年以上まともに最後までセックスをしていない。


司の部下に襲われ、その後蓮とはずっと未遂のままで終わっている。


ゆりの身体に最後に深く残っている、身も心も満たす幸せな記憶の相手は司だ。


二人きりの車内。

ゆりと司は、じっと視線を交わせたまま微動だにしない。


司の熱を帯びた瞳が、ゆりの中で過去の記憶と現在の感情を交錯させた。

心の奥で、何かが静かに疼く。

司を見るゆりの眼差しは次第に熱を孕む。


ゆりの全身は、司の熱い視線に囚われて、全身がじんわりと溶け出すように脈を打った。


長い期間、強い快感に依存していたゆりは、蓮を傷つけない為に、そして自分自身が苦しまない為に、性的思考に関連してしまうような事柄を全て遠ざけて、懸命に押し殺し、その欲求を払拭してきた。


それなのに。


いま、司の視線ひとつで、心の奥に眠っていた衝動が顔を出そうとしている。

このままでは、きっとまた蓮を、そして自分を、確実に苦しめる事になる。


「……セクハラですよっ!桐生さん!」


ゆりは自らを奮い立たせると、ビシッと人差し指を司の顔の前に立てた。

ゆりの行動に、司もふと我に返ったように瞬きをした。

その酔いは醒めていくかのように、表情からス…ッと熱が引いていく。


「……すみません。少し酔いが回っていたようです……今の会話は忘れて下さい」


そして司はゆりの方はへ向けていた身体を正面に戻し、窓の外へ視線を移した。







帰宅後、酔った蓮はスーツのまま、リビングのソファへゴロンと倒れ込むように横たわった。


「ちょっと!ここで寝ないで!着替えくらいしてよっ」


ゆりは慌てて駆け寄り、蓮の肩を揺すった。

返ってくるのは、うっすらとした呻き声だけ。


「…うーん……」


目を閉じたまま、蓮はシャツのボタンに手をかけ、ゆっくり外しはじめた。

指先の動きは途中で止まり、ベルトのバックルを外したところで力尽きたように腕がだらんと落ちる。


「……もー蓮っ!しっかりしてよ!」


思わず張り上げたゆりの声に、蓮はほんの一瞬だけ目を開けた。

そして、両手をゆっくり持ち上げて、手の甲を下に向けながらゆりの方へ伸ばす。


脱がせろ。


その無言のアピールに、ゆりは深い溜め息をついた。


ゆりは上着を脱がせ、ネクタイを外し、手際よくシャツの袖を引き抜いていく。

その慣れた動きには、呆れと同時に、優しさが滲んでいた。


「……病院で…まだ蓮が動けなかった時に、こうやってよく着替えさせてあげてた時の事思い出すな……」


思い出を辿るように、少し柔らかな声で呟く。

蓮はゆりの介助のもと、ようやく下着一枚の姿となった。


「さて……ここからだよな……」


ぐー…と微かな寝息が洩れる。

すでに意識は完全に沈んでいた。


マンションに居た頃は、リビングと寝室が直結していたが、新居は広すぎて、寝室まではまるで遠い道のりのようだった。


このままでは朝までここで寝てしまう。

起こさなければ、とても一人では運べない。


「蓮ー、起きて!ほら、歩いて!」


肩を揺すりながら、ゆりは何度も声をかける。


「ここで寝ないで!寝室行くよー!」


ゆりの懸命な呼びかけに、蓮は、のそ…っと上体をゆっくりと起こした。

眠気に支配されたままのぼんやりした瞳で、ゆりを見上げる。


そして、立ち上がったゆりの前で、何の前触れもなく両腕を伸ばした。



……う。……それは……。



下着一枚のまま、ほとんど裸同然の姿。

自分がどれほど無防備な状態か、本人にその自覚があるとは到底思えない。

おそらく、ただ“甘えたい”という本能のままに手を伸ばしたのだろう。


けれど、目の前でほぼ裸体のまま腕を広げてくるその男を、何の感情もなく抱きとめられるほど、ゆりの煩悩は鍛え上げられてはいなかった。


胸の奥がじんわり熱を帯びる。

理性が「ダメだ」と告げても、心と身体はもう別の反応を始めていた。




あーもう!

司といい、蓮といい、どいつもこいつも……勘弁してくれぇ〜……




ゆりは心の中で泣き叫んだ。


そして、煩悩を振り払うように、小さく頭を振る。

こんなところで取り乱している場合じゃない。


ここで私が見捨てたら、早朝、使用人たちがリビングに入ってきたときに、だらしなくソファで寝ている次期当主の裸体を目撃することになる。

そんな事が本家の耳にでも入ったら、私まで何を言われるかわからない。


ここは心を無にして、何がなんでも蓮を寝室まで運ばなければ。


ゆりは心頭滅却と唱えるように、深く息を吸い込み、一度大きく息を吐いた。


そして、己を奮い立たせるように小さく拳を握る。


「よし、いくよ…!」


ガシッ!と、伸ばした腕で蓮の身体を抱き止めた。


「立つよ!いち、にぃ、さんっ!」


腕を回し、背中でしっかりと組みながら、力いっぱい立ち上がる。

ゆりの細い身体に、蓮の体重がずっしりとのしかかった。

ふらつきながらも、ゆりはそのまま後ろ向きに寝室の方へと歩き出す。

蓮の腕がゆりの肩に回され、重たくしがみついてくる。


密着した胸筋の硬さ。

肌越しに伝わる温もり。

微かに香る、蓮のシャンプーとアルコールの混ざった匂い。


その全てが、ゆりの理性をじわじわと侵食していく。


「もうーっ!自分でしっかり歩いてよぉ〜……!」


泣きそうな悲鳴が、静かな廊下に響いた。


バサッ。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


ようやく寝室にたどり着いたゆりは、ベッドの上へ蓮の身体を思い切り放り投げた。

全身の力が抜けて、思わずその場に膝をつく。


蓮はというと、スススッと身体をまっすぐに整えて、ちゃっかり枕に頭を乗せる。

そして、またゆりの方へ両腕を伸ばした。


「ん。ちゅ。」


アヒル口になって、子どもみたいにキスを求めてくる。


ゆりが蓮に身体を求めることをやめて、夜の行為が無くなってからも、二人は寝る前のキスを欠かしたことがなかった。


蓮が毎晩、ゆりを抱きかかえながら眠るのも、結婚前から続く二人の習慣。


そして今も蓮は、半分眠った意識の中で、いつもと変わらぬ習慣として、寝る前にキスをして、その伸ばしている両腕の中でゆりを抱きしめながら眠ろうとしている。

それを無意識にしている事が、ゆりはすぐにわかった。


ただ、ひとつだけ違うのは。

蓮が、服を着ていないということ。


高鳴る鼓動を押さえながら、ゆりは思わず唇を噛んだ。

ほんの少し、衝動が芽を出す。


今にもその身体に跨って、覆い被さりたくなる。

蓮の唇に吸い付いて、舌を絡めて、身体をまさぐって、首元の香りを嗅いで、それからそれから……


衝動はどんどん大きく競り上がっていく。



まったくもう!食っちゃうぞ!



その瞬間、蓮が伸ばす両腕は、一瞬曲げられ再びビンッと伸ばされた。


「ゆり!ちゅ!」


蓮は目を閉じたまま再びそう言うと、ゆりの唇を求めてアヒル口から、さらにタコみたいな口で唇を突き出してきた。


その仕草に、ゆりは思わず吹き出しそうになりながらも、胸の奥がじんわり温かくなった。




こんなに愛しい人のお願いを、拒めるはずない。




ちゅっ。


観念したゆりは、一瞬だけ軽く唇を触れさせると、同時にバサッと蓮の裸体に布団を被せた。


「服着ないなら、風邪引いちゃうからちゃんと布団掛けて寝てよねっ」


それだけ言い残すと、ゆりは頬を染めながら、逃げるように寝室を後にした。




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