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狂気の魔法  作者: 波方 真季


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第34話 崩壊


残された司には、焼けつくような喉の痛みと、胸を深々と抉る虚脱感だけが残っていた。


「くっっっそおおぉぉぉぉ!!!」


ガンッッッ!!!


両の拳をテーブルへ叩きつけ、木目を震わせる衝撃が部屋に響く。


なぜだ。

この世に、この俺という存在が、こんなにも思い通りにならないことがあるなんて。


なんて女だ。

とんでもない女だ。


恐ろしくて、憎くて。

それでいて、狂おしいほどに──


……愛しい。


身も心も、骨の髄まで、全てを支配する彼女。

その存在が堪らなく愛しくて、抗えば抗うほど深みに嵌っていく。


なのに。

自分よりも底辺の、あの青臭い蓮ごときが。

崇拝する彼女の支配像を、ことごとく粉々に壊していく。


何が本当の彼女なのか。

自分が知らない顔を、どれだけ蓮に見せているのか。

彼女のすべてを、この手に収められないなんて。


それは司にとって、何よりも耐え難い屈辱だった。


胸の奥で、憎悪と嫉妬が澱のように煮え返る。

熱を帯びた感情が血管を這い、皮膚の下で低いうなり声のように蠢く。

全身は既に焦げ付き、内側から燃やされているようだ。


彼女の全てが、喉から手が出るほど、どうしても欲しい。


その欲望は単純で、暴力的で、言葉にするといつも醜く聞こえる衝動だ。

奪いたい。

所有したい。

誰にも渡したくない。


堪らなく、欲しくて、欲しくて。


どんな手を使ってでも手に入れたいという考えが、理性の隙間から滑り込み、身体を支配しはじめる。


(そこに居ても…幸せにはなれねーよ!司は無理だ!)


先ほどの蓮の言葉が、突如暗い洞窟に木霊するように、司の脳裏で反復される。


(今はどんだけ側に置いてようが、司はお前の将来に責任を持てない!いつか絶対離れる時が来る!)


その声の輪郭がひとつずつ、血のように濃く、司の胸に刻み込まれていく。


「…く…っ!」


堪えきれず、司は両手で髪を掴み、テーブルに肘をついて頭を抱え込んだ。

言葉が脳裏をぐるぐると回り、痛みになって襲いかかる。


“既婚”という鉄の鎖。


それは、ゆりを永遠に自分のものにしておきたいという欲望を、容赦なく剥ぎ取っていく。


ゆりは自分の妻とは真逆で、心から純粋に夢を愛する少女のよう。


彼女は、自分の顔に刻まれた冷徹さや傍若無人さを溶かした存在だった。

ゆりの無垢な純粋さに触れるたび、司は別人のように生まれ変わった。

世界の色は濃くなり、日常は光を取り戻した。


その光を、ずっと傍に置きたかった。


そんな彼女とこれから先の人生もずっと共に歩んでいけたらどれ程の幸せだろうか。


だが、叶わぬ願いは司の胸をズタズタに引き裂く。

未来の可能性を奪う「既婚」という現実が、司の理想を無慈悲に切り刻む。


虚ろに響く蓮の声と、目の前にすり寄る現実の冷たさ。

司の内側で、希望と絶望が引き裂き合い、心は無残に引きちぎられていった。

手の中に掴めないものを前にして、ただ一つ残るのは痛いほどの屈辱と、凍りつくような孤独だけだった。


(……………子供を産んだら……離婚する…?)


二人で過ごした最後の日。

ゆりが自分へ垣間見せてくれた心の欠片。

ゆりの零したその言葉が、司の胸に深い針を突き刺した。

言葉は刃のように血肉を抉り、脳裡に繰り返し反芻される。


「…う……っ…く…っ」


堪えきれず、司の目から涙が溢れ落ちた。

止めどなく溢れるその涙は、張り裂けそうな痛みを正直に映し出す。


今まで“愛”と信じてきたものが、もはや彼を救わないと悟る瞬間だった。


もはや“愛”なんて、何の意味も持たない。


これ以上彼女を深く愛してしまったら、これ以上の辛い悲しみには、もう到底耐えられない。

彼女を愛せば愛するほど、残酷な現実は重くのしかかる。

幻想を抱けば抱くほど、もがき、苦しみは増殖する。

その思いのひとつひとつが、司の内部で黒く煮えたぎる。


そんな残酷な愛など、全て壊してしまいたい。


バラバラにし尽くし、押し潰し、粉々にして、跡形もなく消し去ってしまいたい。


破壊への欲求は司を、支配する。


このまま彼女を愛し続けた先に待つのは、残酷なバッドエンド。

そんな光景はあまりにも耐えられない。

彼女はまだ若く、未来しかない。

いつか自分は彼女に捨てられ、そして他人のものになっていくゆりを指を咥えて眺める事し出来ない自分を想像するだけで、胸の中の何かがガラガラと音を立てて崩れ落ちる。


「…そんな事は…絶対に…………許さない…っ!」


思考だけで指先が震え、拳がワナワナと震える。

想像の中の光景は、心が凍りつくほどの熱を走らせる。


そんな想いをするくらいならばいっそ。

彼女を殺して、この世界から消し去ってしまいたいたい。


だが、現実は残酷だ。

本当に手を下す事なんで出来はしない。

だったら——。


「……壊して…やる…っ」


彼女への想いも。

彼女の事も。

何もかも壊して。


愛も情も全てを捨てて、排除して。


愛なんてこんなにくだらない茶番は、全て終わりにしてやる。


だが、自分は彼女に抗えない。


何度も試みようとしたが、翻弄され、罠に掛けられ、最後には必ず彼女の掌の中に堕ちてしまう。

手強い彼女の完璧な支配を、自分の力だけで崩すことなど到底できはしない。



──蓮。



今の彼女を、いとも簡単に崩せる存在はおそらく唯一あの男だけだ。


蓮を利用して、彼女を虫の息にし、そうして彼女の全てをこの手の中に閉じ込める。


それしか方法はない。


辛い現実と悲しい運命。

嫉妬と憎悪と独占欲に全身を覆われ、精神が崩壊した司は、恐ろしい悪魔へと狂気化した。






────────。






今夜はゆりとの約束の日。

司は約束の時間より前に、蓮をパーク内の会員制高級ラウンジへ呼び出した。


煌びやかな照明が柔らかく室内を包む個室に、重い扉の軋む音が響いた。


「………来たな、蓮。」


現れた蓮は、あからさまに不機嫌を隠さず、無言のまま司の正面に腰を下ろした。

その瞳には氷のような冷たさと、噛み殺した怒りが宿っている。


「…………」


言葉はなくとも、その鋭い視線だけで十分だ。

まるで威嚇する獣のように、蓮はじっと司を射抜いていた。


司は動じない。

蓮の前に置いたグラスへ赤ワインを注ぎ入れると、すでに一人で口をつけていた自らのグラスを手に取った。


「…お前とこうして二人で飲むのは久しぶりだな。そう気張らずに…まずは飲みながら話しをしよう。」


蓮は表情を崩さない。

ゆっくりとグラスに視線を落とし、やがて手に取る。


──カチン。


二つのグラスがぶつかり合った瞬間、二人の視線がぶつかり合い、乾いた音が空気を切り裂く。

静けさの中に、確かな火花が散った。


蓮はワインを手に取ると、大きく喉を鳴らし一口流し込む。

ルビー色の液体が瞬く間に喉を通り、グラスに残ったのはまだ半分ほど。


「……」


その瞬間、司はすかさず瓶を傾けた。

赤い雫が再びグラスを満たしていく。

挑発めいた仕草に、顎をクイッと上げ「もっと飲め」と無言で命じる。


蓮は一瞬だけ目を細めた。

その鋭い視線には“上等だ”と返すような色が宿る。

蓮は受けて立つかの如く、並々と注がれた赤ワインを一気に煽った。


喉を通り抜ける熱に眉一つ動かさず、空になったグラスを──ダンッ!

強くコースターへ叩きつける。


その挑発を受け取った司は、口角を満足げに吊り上げた。

無言のまま、再びグラスへワインを注ぎ入れると、瓶を音を立てずに静かにテーブルへ戻す。


二人の間に漂うのは言葉ではなく、赤ワインの香りと張り詰めた緊張感。

乾杯のはずの音は、まるで決闘の合図だった。


「………梅雨時期に入ったが、入園者数が前年より落ち込みが見えてきている。今年のレイニーパレードの反応、手応えはどうだ?」


長い沈黙のあと、ようやく司の口から出たのは業務的な話題。

だが、さきほどまで視線だけで火花を散らし合っていた二人にとって、その言葉はあまりにも場違いに響いた。


「そんな話をするために、俺を呼んだわけじゃないだろ」


蓮の声は低く、苛立ちを隠さない。

核心を鋭く突きつけられたその瞬間、空気はさらに重く張り詰める。


「………」


司は答えを急がず、ただ鋭い視線を蓮に向け続けた。

ゆっくりとした動作でワイングラスに手を伸ばすと、背もたれに深く身体を預け、蓮から視線を逸らさぬまま赤い液体を一口含む。


ルビー色の残滓が喉を滑り落ちていく沈黙の時間。

その余韻を断ち切るように、司は低く、だが確かな声音で口を開いた。


「……なら本題に入ろう。」


グラスを片手に傾けたまま、真っ直ぐ蓮を射抜く。


「お前はなぜ、彼女にそこまで執着している?」


司の問いかけが、赤ワインの深い香りとともに空気を切り裂いた。


蓮はその言葉を受けた瞬間、まっすぐに返すことを避けるかのように、視線を横へと逸らし顔を斜めに背けた。

頬の力が僅かに強張り、短い息が苛立ちに震えながら吐き出された。


返す言葉を探す沈黙は一瞬で。

胸の奥で渦巻く答えは、本当は単純で明白だ。


執着しているのは自分だけではない。

この男も同じ穴の狢。

その理由をわざわざ口にするまでもない。


蓮は顔を司へ向き直し、鋭い眼差しで真っ正面から射抜いた。

睨みつけるようなその視線とともに、低く噛みしめるように吐き出す。


「…執着してるのは、お前も同じだろ」


「……フッ」


司は鼻先で小さく笑うと、ソファに預けていた背をゆっくりと起こした。

落ち着いた所作で片手のグラスをテーブルへ置き、その指先が静かにワインボトルへと伸びる。


「……確かに、俺もそうだが」


その声音は低く、しかしどこか余裕を纏っていた。

司はボトルをゆるやかに持ち上げ、蓮のグラスの真上でわざと注ぎ口を傾ける。


赤い液体は先ほど司に注がれた状態のままで、すでに並々と満たされたグラスへは注げない。


「どちらかと言えば、彼女が俺に執着している」


挑発を突きつけるその強烈な言葉の直後、司はボトルの注ぎ口を蓮のグラスの真上でクイッと上げて片手で動かすと、再び顎を斜めに動かしてグラスを示した。

“飲み干して、空けろ”

そう無言で命じるような仕草。


蓮の胸の奥で、グワッと込み上げような怒りが瞬時に火柱を立てた。

その衝動を叩きつけるように、蓮はグラスを掴み上げ、一気に赤を喉へ流し込む。

そして挑戦的に、空のグラスを司の手に持つ瓶の注ぎ口へ向けて傾けた。


司はその反応に、どこか満足したような笑みを浮かべる。

挑発を片っ端から受けて立つ蓮の姿が、むしろ愉快で仕方がないとでも言うように。

ボトルをゆるやかに傾け、赤い液体を再びグラスに満たしながら、低く言葉を落とす。


「……前にも言ったはずだ。お前も昨日、実際にそれを目の当たりにしただろう」


司のその言葉に、昨日の光景が鮮明に甦る。


ゆりは、司といることが幸せだと涙を流した。

そして自分と対峙した時、彼女は迷いなく自分に背を向け、司の胸に必死でしがみつき、その姿をこれでもかと見せつけてきた。

最後の負け惜しみの言葉すら、耳にかけてもらえなかった。

彼女は司の手を取り、その腕を引き、目の前で一緒に去っていったのだ。


「……っ」


悔しさで、蓮の手に握られたグラスへ力が籠る。

司に並々と注がれた赤を一瞥すると、グラスをコースターに静かに置き、視線を落とした。

唇から漏れたのは、怒りと悲しみを呑み込み、胸の奥で燻るものを押し殺した深い溜め息だった。


蓮は視線を落としたまま、低く静かに言葉を放つ。


「……あいつがお前に本気だってことは、よくわかった……」


短い沈黙。

そして次の瞬間、伏せていた瞳が鋭く切り上がり、司を真っ直ぐに射抜いた。


「……司はこれからどうするつもりなんだよ。ゆりとの未来を」


その問いかけに、司は一瞬も目を逸らさず、落ち着いた声音で応じた。


「俺は常に、何事もすべて彼女の思うままだ。当然これからもずっと俺は彼女の意思を尊重する。」


「………離婚してくれって…言われても?」


蓮の挑発めいた問いに、司の瞳がわずかに揺れる。

だが口にした言葉は揺らがなかった。


「……それは既に彼女に聞かれて、離婚は出来ないという意味の謝罪をした。その上で、これからどうするのかは、すべて彼女の判断に委ねると言う事だ。」


まさか。

あの真面目一本筋のゆりが、司に対して妻との離婚を口にするほどまでに心を傾けていたとは。

ゆりがそこまで司に没頭していたとは想像もしていなかった。


蓮はその事実に衝撃を受け、同時にゆりの苦しい胸中を察して胸が締め付けられる。


だが、そんな彼女の必死の想いを前にしてさえ、司は頑なに受け身な姿勢を崩さず、どこまでも余裕を装い、相変わらずゆりへ対しても「選ばせる」と上から目線の態度を貫いている。


その傲慢さに、蓮の感情は堪忍袋の尾が切れたように爆ぜた。


ガッ。


司の胸ぐらを掴み上げ、力任せに引き寄せる。

瞳には怒りの炎が宿り、声は抑え切れぬ激情と共に荒れ狂った。


「だったら!!ゆりが別れたいって言ったら!!!」


喉を震わせて叩きつけるように叫ぶ。


「お前は大人しく、黙ってゆりに捨てられてくれんだろうなぁッッッ!!!!」


その叫びの奥には、経験した者にしか分からない地獄の痛みがあった。

愛する人に捨てられる絶望。

自分だけが味わった悔しさ。

あの過酷で苛烈な痛み。


蓮の胸に渦巻く怒りと悔恨が、司の冷徹な余裕の言葉に牙を剥き、爆発するように迸った。


激情する蓮に胸ぐらを掴まれながらも、司は怯むどころか鋭い視線を真っ直ぐに向け返した。

その瞳は、まるで相手を射殺すかのような冷たい光を宿している。


ゆっくりと司の指先がワインボトルへ伸びる。

掴まれたままの胸元をものともせず、司は無造作にボトルを持ち上げ、すでに満たされている蓮のワイングラスの縁に注ぎ口をカツンッと当てた。


硬質な音に、蓮の視線が思わずグラスへと落ちる。

赤く揺れる液面に、一瞬だけ意識を奪われる。


「…さっさと飲めよ」


司は口角を冷たく吊り上げ、挑発の言葉を吐いた。


「先に答えろ!」


蓮の怒声が空気を震わせる。


だが司は揺るがない。

グラスに注ぎ口を当てたまま、低く告げた。


「先に飲んだら、答えてやる」


次の瞬間、ワインボトルが傾けられる。

先ほどすでに並々と注がれていたグラスに、さらに赤い液体が注ぎ足される。

表面張力の限界を超えた瞬間、グラスの縁からつうっと雫が零れ落ち、深紅の筋を描いた。


まるで、先程の蓮の言葉に貫かれた司の心臓から、滴り落ちる血液のように。


蓮は、挑発しながら酒を煽る司の胸ぐらを乱暴に突き放すと、立ち上がったまま駆り立てられるようにテーブルの上のグラスを掴み取った。

溢れんばかりに並々と注がれた赤が、手の動きに合わせてグラスの縁から零れ落ち、白いシャツやテーブルクロスを深紅に染める。

だが蓮はそれを気にも留めず、怒りを押し流すように一気に喉へと流し込んだ。


ダンッ!


空になったグラスをテーブルに叩きつけた刹那。


ぐらぁっ、と世界が揺れる。


「……っ……」


蓮の視界が歪み、足元がふらついた。

思わずソファの背へ倒れ込むように腰を下ろす。


なん……だ……?


ここに来てからグラス満タンとは言え、せいぜい三〜四杯。

この程度で酔いが回るなど、自分の体では絶対にあり得ない。


頭の奥がぐらつき、視界がぼやける。

必死に頭を振り、こめかみを押さえ、目をぎゅっと閉じる。

そんな蓮の苦悶の仕草を前に。


司はゆるやかに口角を上げ、妖しく微笑んだ。


霞む視界の奥で、その笑みを捉えた瞬間、蓮の背筋を冷たい悪寒が走る。

何かがおかしい。


まさか……。


蓮の視線は自然とテーブルの上のワインボトルへと落ちた。

ほとんど空になりかけている。

その中身の殆どが、既に自分の体内に流し込まれている。


次に、司のグラスへ視線を移す。

思い返せば、司が口にしていた赤は、自分がここに到着する前に最初から注がれていたものだけだ。

テーブルに置かれたボトルから、司は一度たりとも自分のグラスに注いではいない。


霧がかかったような意識の中でも、いつものように蓮の勘は鋭く、事実を突きつける。


──くそ……っ。

……嵌められた……。



「……約束通り、お前の質問に答えてやる」


司はゆっくりとソファに腰を預け、前かがみのまま朦朧とする蓮に顔を近づけた。

その目は冷たく、声は淡々と震えを含まない。


「この俺がお前みたいに、惨めに大人しく黙って彼女に捨てられてくれると思うか?」


その言葉が放たれた直後、蓮を襲ったのは突如として畳みかけるような睡魔だった。


……なるほど…….そういう事…か……。


重く垂れこめる瞼を、蓮は必死にこじ開けようとする。

だが言葉は既に続いていた。


「彼女は永遠に俺の所有物として閉じ込める。決して自由は与えない。」


その一撃は、命令にも誓いにも似た冷酷さを帯び、蓮の胸に凍りつくように突き刺さった。


司は具体的な方法は決して口にしていない。

それでも、蓮の直感は変わらず鮮明に警鐘を鳴らす。


……ゆりが……危ない……。


ゆりを守りたい、その強い想いだけを支えに、今にも暗闇へ落ちそうな意識を必死で奮い立たせる。


「……なにを……する…つもり…だ……」


掠れた声で問いかける蓮。

だが司は、往生際の悪さを見せるしぶとい蓮に苛立ちを募らせるように、ガシッと髪を掴み上げた。


意識を繋ぎ止める事が精一杯で、力の抜けた身体では抵抗することすら叶わない。

視界が揺れる中、司の手に掴まれたのはテーブルに残されたワインボトル。


次の瞬間、抗えないまま意識が急速に遠のいていった。


「彼女の精神を崩して、再起不能まで身も心もズタズタにして、俺はゆりの全てを手に入れる。お前に仕事をしてもらってな」


囁きにも似た残酷な声。

蓮の視界は暗転し、意識は深い闇へと堕ちていった。





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