第16話 俺だけの
翌日。
ロッカーで制服を脱ぎ、軽やかな私服に着替えてゲートを出たゆり。
勤務を終え、ようやくスタッフとしての顔を置いてひとりの女性に戻れる、そんな安堵が胸を満たした瞬間だった。
シュッ──
走行音が、足元の地面を震わせる。
黒光りする漆黒のリムジンが、ゆりの視界に割り込むようにすっと横付けされた。
場違いなほど異様な存在感。
夕陽を反射して鈍く光るその長大な車体は、ただ停まっているだけで周囲の空気を制圧していく。
数秒前まで日常の延長だった景色が、一気に異質な色を帯びた。
ゆりの足が止まり、胸がざわつく。
次の瞬間。
ガチャ
無遠慮に開かれる扉。
まるで逃げ道はないと告げるように、強制的な誘いが差し出される。
高圧的な空気と共に、車内から蓮の声が響く。
「乗って」
短い一言に、拒否権など微塵もない。
「ユニフォーム管理棟のゲートには来ないでって言いました」
ゆりは眉を寄せ、低い声で返す。
その言葉の奥に、職場での生活を守りたい切実さが滲む。
「お前が電話に出ないからだろ」
淡々とした口調。
けれど抑え込まれた苛立ちは、確かに熱を帯びていた。
はぁ──。
ゆりは深く溜め息を吐き、視線を左右に走らせた。
ゲートを行き交う社員やスタッフの姿。
幸い、顔見知りの影は見当たらない。
ほんのわずかな安堵と、背筋を冷たく撫でる緊張。
その両方を胸に抱えながら、ゆりは静かにリムジンの奥へと足を踏み入れた。
リムジンは静かに走り出した。
厚いカーテンで遮られた車内は外界の喧騒から切り離され、ただ低く響くエンジン音と二人の呼吸だけが支配する。
長い沈黙──。
互いに言葉を飲み込みながらも、頭の中には、二人とも同じ人物の顔を思い浮かべていた
共通の男の存在が、空気を凍りつかせていた。
蓮は組んだ腕をゆっくりと解き、視線を窓からゆりへと向ける。
その瞳には、怒りと疑念と、抑えきれない独占欲が混じっていた。
「……体調悪いって嘘?」
ようやく吐き出した声は低く、鋭い。
「嘘じゃないよ」
ゆりは凛とした口調で言い返した。
視線は窓へ向けられたまま、怯むことなく真っ直ぐに。
その落ち着きは、荒れ狂う蓮の胸に油を注ぐようなものだった。
「……見せろよ」
「は?」
次の瞬間、蓮の手が鋭く動いた。
ゆりの細い身体がシートに押し戻され、両肩を強く掴まれる。
「…やめてよっ!!」
必死に振りほどこうとしても、力の差は歴然だった。
握られた肩が軋み、背中がシートに押しつけられる。
次の瞬間──
ガッ!!
蓮はゆりの鞄を掴み上げる。
「だめっ……!」
バサァァッ!!
ゆりの声を無視して、力任せに鞄の中身をリムジンの床へぶち撒けた。
スマホ、鍵、リップ、タオル、飴、名札、領収書。
いろんな音が床に散らばり、転がる。
鋭い眼だけで、散乱した中身をざっと舐めるように見渡した。
そして──
生理中の女が、絶対に持ち歩いているもの。
予備を含めれば、複数あって当然のもの。
蓮の瞳がゆっくりと細まる。
なのにひとつも、ない。
ボスンッッ!!
蓮は、競り上がる苛立ちをぶつけるように、空になった鞄をゆり目掛けて投げつけた。
「ないじゃん」
乾いた呟き。
怒りが凍結し、歪んだ笑みに変わる。
ゆりの背筋がわずかに震えた。
「生理用品持ってないって、どういうこと?」
その声音は、氷の刃のようだった。
「……たまたま丁度切らしちゃって!今持ってなくて──」
言い訳を紡ごうとした瞬間──
「……っ!」
バシンッ──!!
乾いた音がリムジンに響いた。
蓮の掌がゆりの頬を打ち、白い肌に赤い痕が浮かぶ。
息を呑むゆりの瞳を、蓮は荒ぶる炎のような眼差しで睨みつけた。
休日の彼女は、決して捕まらない。
なんだかんだ理由をつけては誘いをかわしてきた。
そして、たまに応じてくれた非番の日も思い返してみたら。
司が、ロンドンやアメリカに行ってた時だけだ。
疑念が形を持って頭を貫いた瞬間、蓮の奥底で嫉妬の炎がさらに膨れ上がった。
蓮の手が荒々しく伸び、ゆりの髪の毛を掴み上げ、顔を上げさせる。
鋭く吊り上がる視線は、もう怒りを通り越して狂気を孕んでいる。
「わざわざ生理とか嘘ついて、昨日は司に会いに行ったの?」
吐き捨てるような声。
唇だけは笑っているのに、眼差しは氷より冷たい。
「そうやっていつも涼しい顔して、俺と司とあっちこっちで行き来しまくってたわけだ?お前やってることやばいよ」
力強く引かれる髪に、ゆりの頭皮が痛みで熱を持つ。
顔をしかめ、涙を堪えるように眉を寄せた。
「…い…痛いよ、蓮…っは…なして…っ」
その泣きそうな声と震える表情が、怒りに塗れていた蓮の理性を一瞬だけ呼び戻す。
はっとしたように乱暴に掴んでいた髪を放すと、指先が虚しく宙を彷徨う。
「……あいつ、既婚者だけど」
「知ってる」
蓮の押し殺すような低い声。
ためらいもなく返されたその一言に、蓮の胸がざわつく。
「一緒になれない」
「一緒になるつもりない」
きっぱりと言い切る。
その瞳は真っ直ぐに蓮を射抜いていて、取り繕いも嘘も感じられなかった。
「私は司の彼女じゃないし、蓮の彼女でもない」
サァァ──。
音を立てて冷たい衝撃が胸を駆け抜ける。
血が逆流するような息苦しさに、蓮は思わず喉を鳴らした。
彼氏彼女という言葉を交わしたことは、一度もない。
約束も、宣言もない。
確かに形式では何もないのかもしれない。
だけど蓮にとって、ゆりはとうに「ただの女」ではなかった。
セフレなんて安っぽい関係で済ませられるわけがない。
もっと、ずっと、取り返しがつかないほど大切な存在。
「…だったら何?…なんでお前がこんな…二股みたいなことすんだよ!」
蓮の声は怒号に近かった。
心の奥では違う、その叫びを飲み込んで。
吐き出せたのは、ぶつけどころのない苛立ちだけ。
まずい。
ゆりの胸の奥で警鐘が鳴り止まない。
なんでこんなことになったんだろう。
思い返せばあの日。
私服セキュリティに捕らえられて、抗えずに始まった夜。
そこから芽生えた復讐心。
司の権力に抗うために、必死に踏み込んだ二重生活。
だったらこの方法で、今の状況を切り抜けてやる。
「……私に……拒否する権利ってあるのかな……」
目に涙を浮かべ、上目遣いで困ったように眉尻を下げ、うるうると揺れる瞳。
蓮を見上げるその視線は、怯えと哀願が入り混じった小動物のよう。
「………っ!」
そんなゆりの、うりゅぅ…っと泣きそうな顔を見た瞬間、一瞬で蓮の胸は鷲掴みにされた。
怒りも嫉妬も、すべてを呑み込むように。
更にゆりの攻撃は、怯んだ蓮に追い討ちをかけた。
「……司に私を上納したのは……蓮だよ……?」
ぽろぽろと、頬を伝う涙。
その言葉は、蓮の胸にグッサッッ!!と鋭く突き刺さった。
衝撃と後悔に激しく襲われ、精神は崩壊寸前にまで追い込まれる。
「……ごめんっ!!ゆりっっ!!!!」
堪えきれず、蓮は彼女を思いきり抱きしめた。
その腕に込められる力は、必死さと懺悔そのものだった。
「……ごめん…っ俺が……俺が守るから……っ!どんなことがあっても、絶対にゆりを守るから……!」
きつく抱きしめたまま、震える唇を重ねる。
切なさが堰を切ったように溢れ、執拗に彼女を求めるようなキスに変わっていく。
「……だから……俺だけを見てよ……ゆり……」
囁きは祈りのようで、溺れるように重ねられるキスに、蓮の想いが滲んでいた。
一丁あがりだ。
ゆりは涙をぽろぽろと溢し続けながら
心の中で笑った。
その後は、いつも通りの蓮の部屋。
まるで何事もなかったかのように、甘く穏やかな時間が流れていく。
お互いに向き合えば崩れてしまう現実がある。
触れてはいけない部分から、わざと視線を逸らすかのように。
だからこそ、ふたりは、この何でもない一瞬を、宝物のように抱きしめる。
まるで、互いに守り合うように。
まるで、互いを騙し合うように。
その夜も、ふたりは「いつも通り」を演じることで、壊れやすい日常を繋ぎとめていた。
シャワーを終え、タオルでまだ濡れた髪を軽くまとめながら、ゆりがソファに戻ってくる。
「ふぅー……」
ひと息つくように吐き出しながら、プシュッと缶を開ける。
立ち上る炭酸の音と共に、湯上がりでほんのり赤く染まった頬が灯りに映えていた。
隣に腰を下ろしたその横顔を見た瞬間、蓮の胸にチクリと痛みが走る。
さっきの衝動。
振り抜いてしまった自分の手。
「……ゆり……」
思わず声が漏れる。
伸ばした指先が、そっと彼女の頬へ近づいていく。
「さっきは、ごめん…痛かった? こっちだっけ…こっち?」
肩に腕を回し、抱き寄せながら、手のひらと手の甲で右と左を交互に撫でる。
まるで子どものように確かめる蓮の仕草に、ゆりはぷっと頬を膨らませた。
「めっちゃ痛かった。このDV男」
いじけたようなトーン。
けれどその眉間にシワを寄せた顔と、上目遣いで睨む仕草は、どうしようもなく可愛い。
「本当ごめんって!まじでごめん。絶対もうしないから」
慌てて言い募る蓮に、ゆりは耐えきれず吹き出した。
「あはは。いいよ、もう痛くないから」
柔らかく笑ったその横顔に、蓮の胸がぎゅっと詰まり、ゆりを抱きしめた。
罪悪感と安堵と、込み上げる愛しさ。
抱きしめる腕に自然と力がこもった。
「……蓮が私を想って…やっちゃった事だから。それだけ私に感情があったって思うと、ちょっと嬉しいよ」
背中を撫でながら告げられたその言葉に、蓮は呼吸を震わせた。
「……当たり前だろそんなん…そりゃカッとなるよ…嫌なんだよ俺は…」
耳元で絞り出すように落ちた声は、悔しさと切なさが滲んでいた。
抱きしめる腕がわずかに震えているのを、ゆりは感じ取った。
その震えは怒りではない。
胸の奥から溢れ出す、どうしようもなく拙い愛情のかたち。
ゆりはしがみついてくる蓮の身体をそっと押す。
そして、顎をほんの少し上げて顔を覗かせた。
唇をアヒルのように少し尖らせ、目尻をわずかに垂らし、潤んだ瞳で上目遣いに囁く。
「……蓮…ちゅ、して……?」
突然、蓮の胸の炎がボワッと一気に燃える感覚、
怒りや苛立ち、罪悪感なんて一瞬で吹き飛ぶ。
ただ「可愛い」という衝動だけが全身を支配する。
言葉にするよりも早く、吸い寄せられるように蓮はゆりの尖らせた唇に自分の唇を重ねた。
狂おしいほどに愛おしい。
ずるいくらいに可愛い。
抱き締める腕に、自然と更なる力が込められた。
やがて二人は、自然に寝室へと足を運んでいた。
ベッドに腰を下ろすと、蓮が先に仰向けになり、ゆりはその胸元へそっと身を預ける。
蓮が抱き寄せる片腕はゆりの頭を優しく支え、自然と腕枕の形を作る。
お互いの身体へ腕を回し合い、、確かめ合うようそのまま夢中でキスに没頭した。
蓮の呼吸は乱れ始めた。
そしてもう一方の手が、そっと彼女の背中へ触れる。
薄い布越しに伝わる体温に、蓮の指先がわずかに震えた。
蓮の手はゆりの存在を実感するように全身を優しく撫でた。
同じように、ゆりもまた蓮のへと手を滑らせ、互いの熱を確かめ合う。
胸元に頬を寄せたゆりの髪を、蓮の吐息がかすめていく。
規則正しかった鼓動は、少しずつ速さを増していた。
そして蓮は腕枕をしていた片腕をそっと首元から外すと、肘を突いて上体を持ち上げる。
見下ろすように見つめ、ゆりの揺れる瞳を受け止めながら次の瞬間、肩へ手を添えてゆりの背を後ろへ沈めた。
ゆりが顔を上げると、距離が近すぎて、互いの吐息がそのまま頬にかかる。
ゆりはわざと、ほんの指一本ぶんだけ顎をずらした。
唇が触れそうで触れないラインを保ちながら、蓮の瞳だけをまっすぐ見上げる。
観念したように、蓮が笑う。
そのまま耐えきれず、そっと唇を重ねてきた。
最初は触れるだけのキス。
けれど、ゆりが襟元をぎゅっと掴み、逃がさないように引き寄せた瞬間、蓮の肩にこもる力が変わる。
唇の角度が深くなり、呼吸の合間に混ざる熱が、少しずつ甘い色を帯びていく。
ゆりは、蓮の胸に置いていた手をゆっくりと滑らせた。
胸板から、喉元、頬へ。
指先で、怒りの余韻が残る赤みのラインをそっとなぞる。
蓮は溢れる想いの全てをゆりへぶつけた。
ゆりは蓮の胸元に額を押し当て、声だけを真っ直ぐ届ける。
呼吸が乱れている。
震える肩。
押し殺した吐息。
声になりきらない息の震えが、蓮の腕の中で小さく弾けた。
蓮は、一度だけゆりの額へ指を触れさせて、そのまま動きを止めた。
蓮は喉の奥から熱を込み上げさせながら、その姿に見惚れる。
「……あー…可愛いー…」
その瞬間、蓮の指先から力が抜けた。
ゆりは震える身体をゆっくりと起こす。
そして蓮の正面で腰を落ち着けると、上体を起こしたまま、潤んだ瞳で見上げる。
「………来て…………蓮………」
蓮の心臓が大きく脈打つ。
視覚だけで心を全て奪われるような、抗いようのない最強すぎる顔面。
「……早く…蓮……お願い……蓮の熱い想いが欲しいの……」
理性はとうに砕け散り、思考が霞んでいく。
こいつは──
魅力のバケモンだ。
「……ゆり……俺もうお手上げだわ……」
蓮は崩れ堕ちるように傾れ込んだ。
守るように、すがるように、何かから奪い返すように。
胸と胸が強く押しつけられ、蓮の腕がゆりの背を抱え上げるみたいに引き寄せる。
蓮の呼吸が乱れ、額がゆりの肩に落ちる。
押し当てられる重さと熱。
震える呼吸が鎖骨をなぞるように伝わってくる。
ゆりは蓮の後頭部に手を添え、逃がさないように位置を固定した。
ゆるく、でも確実に。
無言のまま、ゆりの体温だけが蓮を縛る。
揺れた呼吸のまま、蓮の体が静かに沈んでいく。
腕はゆりの腰に回り、背中に指先が沈む。
抱くではなく、しがみつくように。
ゆりはその腕を自分の身体ごと受け止めた。
背中を預け、肩を預け、体重を蓮の胸へ滑らせる。
そのたび蓮の腕の強さが変わり、抑えた熱が漏れるように伝わってくる。
堪え切れずに心の奥から言葉がこぼれた。
「…っ…俺の……女になれよ……」
初めて自覚して、素直に口にした、蓮の想い。
欲望の奥底でようやく形になった告白。
耳をかすめる熱い声に、震えながらもゆりの瞳は虚ろに揺れ、けれど口元だけは艶やかに釣り上がった。
愛情に溺れる中で浮かべたその笑みは、甘さと残酷さを併せ持つものだった。
蓮はゆりの耳元から静かに顔を上げると、そのままそっと唇を重ねた。
触れるだけの優しいキス。
だが離れた瞬間に、ゆりの虚ろな瞳を見つめた途端、胸がぎゅうっと締め付けられる。
蓮の瞳は泣き出しそうなほど切なげに揺れる。
強がりも余裕もどこにもない。
胸の奥を深く抉られるような苦しさに、堪えきれず、どうしようもなく言葉が漏れた。
「……俺だけのゆりになって……頼むから…っ」
ゆりは息を震わせながら、潤んだ視線を絡めて囁いた。
「……私が素直で…本当の私でいられるのは…蓮だけだよ……」
弱くてむき出しの心臓を包まれるような感覚。
ハーメルンの笛の音色のように、甘い旋律が蓮を幸せな催眠状態へと連れて行く。
ゆりの呼吸が胸元で小さく上下するたび、その震えは深く沈んでいく。
「…蓮…もっと…私を壊して…」
その一言に、蓮の胸が大きく跳ね上がる。
頭の奥が真っ白に弾け、美しい笛の旋律に意識をスーッと持っていかれそうになる。
蓮にしがみつき、まとわりつくように、絶対に離さないゆりの感情の奔流。
壊れるのはこっちの方だ。
「……お前は……本当に……悪魔だ……」
シーツの上で、二人の影が重なる。
境界が曖昧になり、息の合間が絡まり、音にならない声が喉の奥で震えた。
布擦れの音と、抑えきれない息づかいだけが、静かな部屋に滲んでいく。
「…ゆり……俺の……俺のだけの…ゆり…」
壊れていく思考の中で、蓮はただ必死に、願いのようにその言葉を繰り返さずにはいられなかった。
幸せの絶頂にあるはずのこの瞬間でさえ、胸の奥は乾ききった荒野のように渇望で満たされていた。
俺だけのものだと繰り返さずには、理性が砕けてしまいそうだった。
熱に焼かれ、震える声は哀願のようでもあり、縋るようでもある。
どんなに焦がれても焦がれても、求めれば求めるほど、ゆりが遠ざかってしまいそうで、そんな焦燥と恐怖が、甘い幸せの裏で蓮を苛んでいた。
「…蓮…っ…はぁ……蓮……っ」
ゆりの声は甘く、必死で、縋るようだった。
お互いの身体に必死でしがみつき、唇を押し付け合う。
何度も名前を呼ばれ、何度も抱き締められて──
─────── 。
「……胸が……はぁ…はぁ……痛くて……苦しいよ……はぁ……ゆり……」
消え入りそうな吐息に混じって、悲痛な独白が零れる。
力尽きた蓮の身体は、そのまま重力に負けるよう額を彼女の肩へ埋めた。
息は乱れ、声は震え、思考は途切れ途切れに。
ただ無意識の奥から、どうしようもない本心だけが溢れ出す。
ゆりは、そんな蓮の震える想いを感じ取ると、空中へ投げるように視線を逸らし、幸福に満ちた笑みを浮かべた。
微笑みながら優しいのに、無力な子供達をその手の中へと堕とすハーメルン。
蓮は私の虜。
彼女の復讐の笛は、まだ鳴り止まない。




