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双子のレオが復讐を成し遂げるまで  作者: バラモンジン


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4/4

4. 復讐の終わり

 王に謁見してからひと月が過ぎた。


 レオは再び謁見の間に呼ばれた。この前より一回り小さな部屋である。


 居並ぶ貴族たちは、この前とはだいぶ顔ぶれが変わっていた。代替わりした貴族家も多いようだ。年齢層も明らかに若くなった。


 高位の者ほど先月から症状が重く、命を落とした者も少なくなかった。聞けば平均寿命をとうに過ぎ、いつまで若々しくいるのかと不思議に思われていた老人たちだった。図々しく余生を長引かせていた連中に、憐れみを覚えることはない。



 そんな中、相変わらず美しい姿勢を保った貴族夫人がレオの目に留まった。レオとミアの産みの母だ。名前も知らないが、玉座に近い方に立っていることから、かなりの身分なのだろう。



 レオは玉座の前に進み出て、跪いた。


「レオよ・・・、その方に問う。・・・何をした?」


 王の言葉に力がない。目も虚ろだ。


「何を、とは」


「ラウルが、死んだ。・・・宰相も、だ」


「陛下はご健勝で何よりです」


「ええい、ふざけるな!ラウルが・・・死に際に・・・」


 王の言葉はそこから続かなかった。

 後を継いだのは、やはり顔色の悪い王太子だった。


「ラウルが死に際に言っていた。聖女の魔力玉に貴様の魔力が混じっていると。だからそれを摂取していた貴族が、拒絶反応で苦しんでいるのだと。何もかも、貴様のせいだ!」


 周りの貴族たちは、絶望と納得の表情で立ちすくんでいた。平気そうな顔をしているのは、まだ聖女のポーションを飲むほどの立場でなかった者たちだろう。例外なく若者だった。


 王の命も長くはないだろう。レオの復讐の半分は終わった。



 残りの半分は、今からだ。レオは覚悟を決めた。


 ここですべてをつまびらかにすれば、レオは罪人となるだろう。たとえ転移で逃げようとも、お尋ね者となって平穏な未来は望めない。


 それでも構わないとレオは思う。ラウルと先輩騎士との魔法契約は解除してあるし、聖女はここに来る前に教会の神官様のところに預けてきた。もう思い残すことはない。たとえ命を落としても、ミアの元に行けるのだから悪くない。


「何とか言ったらどうだ!」


 王太子が怒鳴る。


「おっしゃる通り、私が聖女様の魔力玉に、私の魔力を充填しました」


「なぜだ!」


「あのままでは、『かけがえのない聖女様』の命が危なかったからです。干涸びるまで絞り尽くすつもりだったでしょう?足りない分は私の魔力で我慢してください」


「そんなことをしたら、他人の魔力に拒絶反応を起こして、最悪死ぬと分かっていただろう。どういうつもりだ」


「必ず拒絶反応を起こすとは限りませんよ。現にほら、あちらのお方は全く私の魔力の影響を受けていなさそうではありませんか。ポーションを飲んでないとは言いませんよね」


 王太子は、レオが手のひらで示した貴族夫人を見た。確かに姿勢よく凛とした立ち姿だ。


「オルシーニ侯爵夫人、あなたも聖女のポーションを飲んでいたな。少なくとも、他の侯爵家の者たちと同じくらいには。体調に変化はないのか」


「はい、幸いにしてこのように至って健康でございます」


「オルシーニ侯爵はどうだ。姿が見えないが」


「仕事柄、国外にいることも多く、聖女様のポーションを飲む機会も少のうございました。それゆえか、今は少し倦怠感がある程度でございます」


「ほう、それは何よりだ。それにしても、オルシーニ夫人は不思議よな。レオよ、その方の見立てはどうだ」


「オルシーニ夫人の状態については心当たりがあります」


「何?その理由が分かるというのか!ならば、それを真似れば我々も無事でいられるのかっ」


 勢い込んで王太子が訊ねた。


「なに、簡単なことです。その女と私は、血縁関係にあります」


「嘘よ!!」


 オルシーニ夫人が言葉をかぶせるように叫んだ。


「そんなはずはないわ、そんなはずがある訳ないでしょう!」


「どうした、オルシーニ夫人、落ち着きなさい」


 王太子も事情が分からず、困惑気味に声をかけた。


「私は15年前に、王都の教会の前に捨てられました。理由は双子だったからと思われます」


「15年前・・・」


 王太子は後ろに立つ侍従たちを見やった。


「誰か覚えがあるか」


「確か、オルシーニ家から死産したとの報告を受けたのがその頃だったような記憶があります。調べてまいります」


「死産だったのよ!私の子なんかじゃないわ。私が双子を産むなんて、言い掛かりです」


「母と子なら、魔力に拒絶反応を示さなくても不思議ではありません。疑うのなら、親子関係の鑑定をしてください」


「嫌よ!侮辱だわ。こんな平民と侯爵夫人である私が、親子なわけないでしょう」


 王太子はさらに鑑定魔法を使える魔術師を呼ぶように言いつけた。



 侯爵夫人は、怒りのためか焦りのためかブルブルと震え、毅然とした貴族夫人の雰囲気はとうに霧散していた。



 やがて現れた魔術師の鑑定で、レオとオルシーニ夫人の血縁関係が認められた。しかも、かなり近いので、親子に間違いないだろうという結論だった。


 記録を調べてきた侍従からは、やはり15年前に死産の届け出がされており、レオが捨てられたとされる日と、死産の届け出の日は1日しか違わなかった。



「オルシーニ夫人、言うことはないか」


 王太子が問うた。

 

 オルシーニ夫人は俯いてぶつぶつ何ごとか喋っていたが、ふいに顔を上げ、叫ぶように言った。


「だって、仕方がないじゃない!」


 夫人はレオを睨みつけながら続けた。


「だって双子よ?貴族社会で未来はないわ。平民なら生きる道もあるでしょう。子どものためを思ったのよ。あなたのために、敬虔な神官がいるという教会に委ねたわ」


「どこの教会か、あんたは知っているのかよ」


 レオの言葉から敬語が抜けた。


「人に任せたから知らないわ」


「ミアが死んだことは?」


「・・・そう、もう一人は死んだのね。可哀そうに」


「どの口が可哀そうだと言うんだ。預けた先も、その後のことも、何も知ろうとしなかったくせに」


 オルシーニ夫人は顔を背けた。


「ミアは魔力が多すぎて、器に収まりきらなかったんだ。器が綻びて、魔力が漏れて、そうして干涸びて死んでいった。それがどんなに苦しいか、あんたに体験させてやるよ」


 レオは夫人のみぞおちに向けて指を弾いた。


 肉を打つような鈍い音がした。



「レオ? あなた、何をしたの?」


「あんたの娘が、どんな最期を迎えたのか、身をもって知るがいい」


「嘘!何をしたの?ねえ、私はどうなるの?助けて、私は母親なんでしょう?お願い、助けて」


 レオは縋りついてきそうなオルシーニ夫人から距離を取った。


「そうだ、聖女様のポーションをちょうだい。あれは私には害にならないもの。ねえ、誰か、ポーションを」


 周りの貴族は蔑んだ目で侯爵夫人を見ていた。


「オルシーニ夫人、今日の所は帰りなさい。屋敷に戻ればポーションも残っているのではないか。いずれまた侯爵と揃って来てもらうことになろう。皆、本日はここまでとする」


 王太子が宣言すると、貴族たちは帰り始めた。王太子は振り返って玉座に声をかけた。


「陛下、我々も・・・」


 王太子は、やっと異変に気付いた。


 王は玉座で蹲るように腰かけたまま、静かに息を引き取っていた。


「父上っ!」


 王太子が父親に取りすがると、ぐらりと身体が揺れ、王冠が床に落ちて転がった。



 それから国は1年間の喪に服した。




 

 喪が明けるまでの間に色々なことがあった。


 王や高位貴族があまりに立て続けに亡くなるので、下位貴族や平民たちから疑惑の声が上がった。


 他国による静かな侵攻の始まりであるとか、魔女による呪いであるとか、根拠のない話が盛んに出回った。



 しばらく続いていた高位貴族の死が途絶えた頃、新たな噂がすばらしい速さで広まった。

 レオの先輩護衛騎士たちによる聖女の真実の話だ。吟遊詩人が語り、舞台で聖女の物語が上演された。新聞の記事にもなった。それらを裏で画策したのは、かつてレオを鍛えた諜報部門の上層部であった。



 人々は、召喚で呼び出され、隷属の首輪により家畜のごとく魔力を搾取されていたという聖女の現実に衝撃を受けた。贅沢三昧な聖女のイメージを作り上げたのは、最近死んでいった貴族たちだろうと推測できた。


 また舞台では、レオのやったことも全て隠さず事実として上演された。

 隷属の首輪を事もなげに外したり、理不尽な契約をさらりと書き換える場面は人気があった。その後、威張り腐った貴族が次々と倒れ、双子を捨てた貴族夫人が復讐される場面などは、ざまあみろと思うと同時に、先に死んだミアを思って人々は涙した。



 こうして聖女の真実は公然のものとなった。



 レオの母親も、あの後そう長くは生きなかった。自慢の美貌は見る影もなく、枯れ枝のような腕を隠し、布団に埋もれるようにして死を待っていたらしい。我が子を捨てた後悔はついに聞かれなかった。



 一方、聖女は教会で孤児の世話をすることになった。銀色の髪は魔力で茶色に変え、眼の色もよくあるうす茶色にした。そうすると一気に周囲に溶け込む雰囲気になった。聖女はようやく世間に紛れたことに安堵した。


 孤児たちと過ごすことも、孤独を忘れる一助となった。


 国からは、召喚したことや、搾取したことに対する慰謝料が聖女に支払われた。まだ使い道も分からないため、とりあえず神官様に預けてある。いずれ教会を出て好きなことをやりたくなった時の資金にするつもりだ。元の世界のことも時々思い出すが、今はこちらで生きることを楽しみたいと思っている。




 レオが久しぶりに古巣の教会に遊びに来ていると、背中をすごい力で叩かれた。


「おおい、レオ。どうだ?舞台でのお前の活躍は、中々のもんだよな。俺が本気で仕込んだあれこれが、ちゃんと役に立っただろう?」


 そう言って豪快に笑ったのは、かつて諜報部員としての技術を教えてくれた教官だった。


「まさか先生が、神官様の息子だなんて思いませんでしたよ」


「そうか?あれは狸オヤジだからな。人の良いおじいちゃんの振りが上手いんだ。最初っからそのつもりで、魔法騎士の養成学校に送り込んできたのさ。レオとミアの魔力量が普通じゃなかったから、貴族の子供だろうと察していたようだしな」


「なるほど。あの頃から、全部お見通しだったってわけですね」


「そうだな。聖女様のことは、俺たちも何とかしたかったんだが、とにかくラウルのやつが邪魔でな、手が出せずにいたんだ。レオのおかげで突破口が開いて、やっとここに辿りつけた」



 前王の喪が明ける少し前に、国の諜報機関が主体となってクーデターを起こし、王国は共和制の国へと速やかに移行した。


 王族は抵抗を試みたが、古い世代の高位貴族は死に絶え、味方はほとんどいなかった。

 だいいち革命側には、かつてのラウルを軽々陵駕するレオがいるのだ。誰も敵に回したくないだろう。


 そういうわけで、小さな波風も立たず、王政は倒れたのだった。

 同時に、高位貴族のために行っていた聖女召喚も、金輪際行わないことになった。



 レオは、お尋ね者になることもなく、魔術師養成学校の実技教師になった。裏では諜報部門の仕事もしたが、滅多に請け負わない。秘密や裏切りというものにできれば付き合いたくなかったからだ。上司もその意向を汲んで、本当に切羽詰まった時だけレオの力を借りにきた。



 レオは時々、ミアの墓に行き、平凡な暮らしの様子を話して聞かせた。


 ミアには、母親の話はしなかった。レオとミアには、母親などいなかった。名前を付けてくれた神官様が親であり、教会の人々が家族であった。それで良いとレオは思った。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
老人たちはともかくとして、王太子や代替わりした聖女のポーションを飲んでいない若い貴族たちが、 両親や祖父母を殺されたとわかってから レオに対して罵倒したり拘束したり剣を向けたりしない事には違和感はある…
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