弐 猟奇的な堕天使、最愛の姉と約束す
「いっくよ〜!ケーサツさん達!」
そう言いながら僕はスピードを上げつつ一人のケーサツの方へと走り始める。
「大人しくしててくれたらいいものの…!」
一人のケーサツはそう言うと、小さな黒い四角いような形のものに小さな穴の空いた武器を僕の右足に向けた。
その時、バンという少し高い爆発音とともにものすごいスピードで小さな弾のようなものがその武器の穴の空いたところから発射された。
ただ、そのスピードも僕には少し遅く感じる。
「キャハ、君たちの武器はこんなもんなの?」
そう言いながら、僕は走っていた足を止め、右手に持っていた〈水斧〉で飛んできている弾を縦方向に真っ二つに切る。
すると、ガン!という少し重いような音と共に玉は二つに割れ、僕を避けるかのようにそれぞれ右と左の方向に飛んで行く。
僕には少ししょぼく感じたとはいえ、さっきの車よりかは武器としての強さのようなものを感じ、ワクワクしている自分がいる。
ただ、僕の中で何か引っかかる。
なぜ胴体、しかも下半身側を狙ったんだ?
どうせなら頭や胸あたりを狙ったらいいのに…
ケーサツの一人は驚きながら、他方の一人は冷静にいう。
「なっ…⁉︎やつはどれだけ化け物なんだ!」
「驚いてる暇はない、連続で射撃し、相手を疲れさせるんだ!」
そう言ったのち、さっきまで構えていたケーサツ達も一斉に発砲し始めた。
避けれる弾は避け、避けきれないと判断した弾は右手で握りしめている〈水斧〉で切る。
決して捌ききれなくはない攻撃がどんどんと飛んでくる。
だけど、飽きてきた…
弾は僕の急所には決して飛んでこないし、こんな小さな弾を真っ二つに切るなんて行為は正直言って朝飯前だ。
故に慣れてしまえばこの弾を避ける行為と弾を真っ二つに切るなんて行為は退屈なのだ。
多分当たっても痛くないだろうけど、なんか負けた感じがしてやだし。
僕は言う。
「もうこの攻撃を捌き続けるのもめんどくさくなってきちゃった」
その後、僕はケーサツ達の攻撃が飛んできているところとは違う高さ、地面から約四、五メートルくらいのところまでジャンプした。
ケーサツは言う。
「やつは、あんなに高く飛べるのか…」
それを聞いた僕は少し顔に笑みを浮かべながら言う。
「今更そんなに驚く?僕には翼だってあるのに」
そう言った後、僕は右手に持っている〈水斧〉を両手で持ち、横向きに構える。
そして、僕自身のあたりにある雨粒を〈水斧〉に集め、斧の形状を少し大きくした。
「キャハ、君たちのその武器、なんて名前か知らないけど、邪魔だから壊させてもらうね!」
そう言いながら僕は大きくなった〈水斧〉を斜め下、ケーサツ達の持っている小さな黒い四角い武器目掛けて大きく振る。
〈水斧〉は空気抵抗を受けながらブォンという少し低い音を立てながら大きく移動し、ケーサツ達の持っている武器を次々に横に切り付け、破壊していく。
その時、中には指が飛んだり、腕あたりに大きな切り傷ができたケーサツもいた。
ケーサツ達は大きく動揺したり、痛みにもがき苦しむかのような声を次々に上げる。
「くそっ…指が…」
「なんでこんなバケモンがこの世にいんだよ…!」
「早く腕を止血しろ!」
「俺、まだ死にたくねぇよ…神様」
中には僕を恐れて逃げ出す人まで出る始末だ。
それを見た僕は思う。
やっぱり人間って哀れだな。
人を守るためにあるはずのケーサツっていう立場でさえ、生死の堺の極限状態の今、逃げ出す人だっている。
これだから面白いんだ。
僕は着地しながら言う。
「キャハハ、もう終わりなの?ケーサツさん達。僕はまだまだ遊び足りないよ?」
まだまだ足りない…
僕はまだ、もっと遊びたいんだ。
そんなことを考えながら、僕は僕から見て前方、さっきまでケーサツ達に対して指揮を取るように話していた人の方へと歩き始める。
そしてそのケーサツの前で止まり、僕は少し軽い圧をかけ笑顔を顔にうかべながら言う。
「これで終わりなんて言わないよね?」
「これ以上があるわけないだろ?バケモンが…これ以上人様に何を求めてるんだよ…」
そのケーサツは何か決意づいたかのようにその場で僕を見ながら立ち止まり、動かなかった。
この人は最後まで僕を目の前にしても霊性を保ち、みんなに指揮していたのだ。
けど、そんなの僕には関係ない。
このケーサツはここで殺すんだ。
僕の娯楽のために。
僕はそのケーサツに言う。
「そっか、じゃあ死んで?」
でも、なんか残念だな。
もうちょっとだけ遊びたかったのに…
そんなことを思いながら僕は右手に持っている〈水斧〉を上にあげ、そのケーサツに振り下ろそうとする。
その時、さっきの中年男の時のように、〈水斧〉はそのケーサツの頭に当たる寸止めのところで静止し、それ以上、下には動かなかった。
そして突然、雨が止んだ。
さっきまで弱くても降り続いていた雨が止んだんだ。
それが僕にはとても偶然には思えなかった。
僕はポツリと言う。
「どうして僕のしたいことをさせてくれないの…水姉…」
そう言いながら、僕は振り下ろそうとして静止した〈水斧〉を解除した。
その瞬間、僕の右手の中で斧の形を模っていた水が全て元の性質に戻り、全て下へと流れていく。
そのケーサツは言う。
「なぜ殺さない?お前は俺を殺そうとしているんじゃないのか?」
「気が変わったんだ。今日はこれ以上暴れる気にもなれない…」
僕はそう言いながら翼を羽ばたかせ、空を飛びながら言う。
「また遊びに来るよ、ケーサツさん達。その時までには強くなっていてくれよ?」
「できれば二度と来ないでくれ。銃相手に容赦なく突っ込んでくるバケモンは警察の守備範囲外だ」
「その願いは聞けないかもね」
そう言いながら、僕はさっき落下してきたビルの上まで飛び、そこから警察のバレないように初めて地上に降り立った駐車場に足をつけた。
足を地面につけた時に僕は今まで感じたことのない感覚に襲われる。
瞼がとても重たい…
体がとてもだるい…
なんなんだろうこの感覚は…
さっきまでは何も感じなかったが本当は体がとても疲れていたらしい。
でも、天界にいた時はこんなに体が重いなんていう感覚に襲われたことはなかった。
どうしてこんなに体が重いんだろう…
そんなことを考えながら僕は地面に倒れ込むかのように、人気のない駐車場の真ん中で深く眠った…
・ ・ ・
なんだろう…ここは…
僕は地面は水が敷き詰まっていて、それ以外は何もない明るい場所にポツンと一人で立っていた。
どこまでも続く水平線。
とても優しく僕を照らす心地の良い光。
当然今まででこんなとこを見たこともないし聞いたこともない。
けどなぜか、僕はそこたっていて当然。
そこにいること自体が自然なのだと思わせるような感覚に包まれる。
だからこの不可解な状況でさえ、僕はなんの疑問も抱くことはなかった。
「あ…い…藍…」
とても懐かしい声がする。
優しい声。とても心が癒される声。
僕がこの手にかけた最愛の姉、水姉の声。
その声を聞いた僕は思わず声を出す。
「すい…ねぇ…?」
すると、僕の前が少し強い光を放ち、思わず目を瞑った。
そして目を開いた時、僕の目の前には今まで見慣れた天使の姿。
小野水華の姿があった。
「水姉…!」
そう言いながら僕は思わず水姉に抱きつく。
そんな僕を優しく抱きしめながら水姉は言う。
「私を殺してくれてありがとう、藍」
僕は水姉を見ながら言う。
「やっぱり、水姉は死んじゃったんだね…」
とても悲しい気持ちになる。
最愛の姉は僕に手によってこの世からいなくなったんだから。
薄々気づいてくる。
この世界は本当の世界じゃないんだと。
ここは僕の想像の世界、僕の幻想の世界に過ぎないんだと。
そんなこと信じたくない。
この世界が本当の世界であればどれだけうれしいか。
けどそれも、僕の願いに過ぎない。
ほんとにそんなことは起こるはずないんだ。
そんなことを思っている僕を見た水姉はいう。
「私はまだ死んでないよ」
そう言いながら水姉は僕を抱きしめている両手を僕の肩に持っていき、右手で僕の胸元に手を当てながら言う。
「藍、私は君のここにいつでもいるからね」
「ここに…」
僕は水姉の手の上から自分の右手を被せるようにおく。
するとなぜか、僕の胸の奥あたりで僕の心臓の鼓動と一緒に何かが共鳴しているのに気がついた。
「これは…?」
「気づいた?これは私の魂、私の存在そのものなんだよ」
「魂…」
そうか…僕の中には二つの魂があるのか…
さっきまで当たり前のように使っていた水を統べる力だって水姉の魂を媒介に使ってたんだもんね。
よく考えれば当然のことか。
そういえば、さっき人間を殺そうとした時に水姉の力がうまく使えなかったのは、やっぱり水姉が僕の行動に反対したからだよね?
なんでそんなことしたんだろ…
僕は右手を水姉の手からはなし、きく。
「水姉。なんでさっきから僕のすることを否定するの?僕は遊びたいだけなのに…」
「だって、それって‘今’の神様がやろうとしている、人間を無駄に苦しめるっていう行為と同じことよ?なんか嫌じゃない?」
確かに。
なんか神を手伝ってるって考えたらなんか癪だな。
「うん、嫌だ」
「ね?私はそれが嫌だったから、途中で藍の行動に反いたんだ」
そう考えたらなんか納得できるな。
「まぁ、私が単に藍には人を殺してほしくないだけなんだけどね」
「やっぱり水姉は優しいね」
こんな僕にでさえ、こんなに優しく接してくれるんだ。
僕の言葉を聞いた水姉はいう。
「私なんて優しくないよ。自分が楽になるために天界にいるみんなをほおっておいて死んだ身勝手な天使だ。本当なら、私が神を止めないといけなかったのに…」
「そんなことないよ。みんな水姉に感謝してたし」
「けど、最後には全部投げ出しちゃった。藍に私の力を託してね」
そう言いながら水姉は僕を真剣に見つめながらいう。
「藍、私のお願い、もう一個聞いてくれない?」
「いいよ、水姉の願いだったら僕はなんでも聞いてあげる」
「じゃあ、お願い、藍。神様を殺してあげて」
その言葉を聞いた後、僕の目の前は真っ白になり、意識が遠のいていく感覚に陥った…
少しすれば飽きると思っていた小説を書く作業が今になってはなんだか楽しい日課になっていたりします。
誤字脱字やここの単語の使い方が違うなど、ご指摘があればいただきたいです。




