表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

ババ抜き中に現れたババアが全員の母親だった件

作者: 仮面大将G

「いやー、こうして3人で集まるのもいつ以来だろうな」


「本当に! 産婦人科以来?」


「そんな昔じゃねえわ。なんで俺ら全員同じ病院で生まれてんだよ」


 俺は高校時代の友人2人、由美(ゆみ)健司(けんじ)とともに温泉旅館に泊まりに来ている。仲良し3人組ってやつだな。


「しっかし健司のやつ遅えな。いつまでトイレ行ってんだよ」


「健司くんトイレ長いよね! Ti〇Tokで見る2分の動画ぐらい長い」


「じゃあ結果短いじゃねえか。もう10分ぐらい経ってんだからそれとはまた別だろ」


「やあやあ皆さんお待たせお待たせ。ちょっとうるさいのを出しててね」


「大きいのとかだろ普通。便は騒がねえわ」


「なかなか喋るのをやめてくれなくてね。モータープール的にはもっと喋らない便が良かったよ。ずっと解脱の話してたよ」


「便はそんな高尚な会話しねえわ。ちゃんと便と対話すんな」


 健司が座椅子に座ると、俺はカバンからトランプを取り出す。


「ところでよ、せっかくこういうとこに来たんだから……やろうぜ?」


「いいね! セパタクロー?」


「何をどう見てそう思ったんだよお前。体育館かここは」


「モータープールはババ抜きかと思ったが、違うかい?」


「もちろんババ抜きだよ。修学旅行みてえじゃん今の状況。せっかくだからやろうぜババ抜き」


「よーし、私負けないよ? 待って、これもしかして負けたら何かあるパターン?」


「よく分かったじゃねえか。俺たちももう大人だからな、これで負けたやつは今回の旅費全負担だ」


「なるほど……ということは負けたら100兆円かな?」


「旅費そんな高くねえわ。国家予算か」


「早速始めよー! 楽しそー!」


「モータープールもワクワクしてきたよ」


「ずっと気になってたけどなんでお前一人称モータープールなんだよ。関西の駐車場の言い方じゃねえか」


「そりゃああれだよ、大学デビューだよ」


「大学デビューで一人称だけ変えてどうすんだよ。奇人デビューだよそんなのは」


 俺はカードをシャッフルし、1枚ずつ配っていく。配り終えるとじゃんけんで順番を決め、俺から右回りに進めることとなった。


「じゃあいくぞ。お、早速8が揃った」


「羨ましいよ。モータープールも上がりに近づいていきたいね」


「モータープールが気になるから今だけ大学デビュー取り消せお前」


「じゃあモータープールも引くよ。……あっ」


「やっちゃったね健司くん! 早速じゃん!」


「ぐぬぬ……もうババを引くとはね……」


「なんでお前ら全部それ言っちゃうんだよ」


 その時、健司の後ろでボワッと煙が上がった。なんだ? 何が起こってんだ?


 煙の中から知らないババアが出て来て、俺たちの横にしゃがみ込んだ。


「おやおや、みんな集まってくれてお父さん嬉しいねえ。お菓子を置いておくからみんなで食べるんだよ」


「お、お母さん……!」


「お父さんかお母さんかハッキリしろよ。なんでお前の母親一人称お父さんなんだよ」


 突然現れた健司の母親は、またボワッと煙を上げて消えてしまった。何だったんだよ一体。


 健司は目がうるうるしていて、今にも泣き出してしまいそうだ。


「健司くんお母さんと会ってないの? 下宿だっけ?」


「そうなんだよ。モータープールの大学は地元からかなり離れているからね。117海里ぐらい」


「キロで言えよ分かりにくい」


 その後由美、俺と順番に引いていくが、ババはまだ健司のところだ。

 順調に手札が減っていき、4週目で俺のところにババが来る。


 ボワッと煙が上がり、後ろに何か気配を感じた。


「こらあんた! お友達といるんだからそんな無愛想にしないの! ヘビが輪になって出るよ!」


「夜中に口笛吹いた時だろそれ。なんで無愛想なだけでヘビに囲まれなきゃいけねえんだよ」


「そんなに口答えするんじゃないの! ヘビが出るよ!」


「なんでヘビばっかり出んだよ。インド人かよ」


 小言を言い終えるとお袋はボワッと煙を上げて消えてしまった。まじで何なんだよこれ。どんなババ抜きだよ。


「じゃー次は私の番だね! えいっ! ……あ」


 俺のババを由美が引き、またしてもボワッと煙が上がる。するとスーツを着てメガネをかけた七三分けの男が現れた。


「なんでお前の時だけお父さんなんだよ。この流れはお母さんが出るところだろうよ」


「お、お母さん!」


「お母さんだったのかよ。こんなサラリーマンっぽいお母さん見たことねえわ」


「밥 또는 목욕 또는 나를 선택하십시오」


「日本語で喋れや。なんでハングルなんだよ」


「今のは『ご飯かお風呂か私か選びなさい』って言ってるよ!」


「旦那に言え旦那に。なんで娘に言うんだよんなこと」


 由美のお母さん(お父さん風)はボワッと煙を上げて消えた。


「さて、これで全員のババアが出てきたわけだが……。なんでこんなことになってんだ」


「モーターバイクには分からないな」


「さっきまでモータープールだっただろうが。せめてそこは統一してくれややこしい」


「これって、ババを持ってたらお母さんが出て来るんだよね? 全員がババを持ってたらどうなるのかな?」


「分かんねえけど……。一応予備のトランプはあるから試してみるか?」


「モータープールはやってみたいよ」


「よし、んじゃやってみるぞ」


 俺はカバンから予備のトランプを取り出し、全員にババを配った。


 すると俺たち全員からボワッと煙が上がり、俺たちの姿は老婆に変わった。


「おい、鏡見てみようぜ。どうなってんだこれ」


「これは……モータープールのおばあちゃんだね」


「私も! おばあちゃんの顔になってる!」


「俺もだ。しかも母方のババアだな。てことは、俺らの母親の母親になっちまったってことか?」


「そうだね。ババ抜き中に現れたババアが全員の母親だったということだね」


「なんだそれ。気持ち悪いババ抜きだなおい」


 こうして俺たちは老婆の姿のままチェックアウトし、旅館の従業員にめちゃくちゃ不審がられながら帰路に着いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これ、面白がって最後の1枚でババアを出しまくるループに突入するやつ…! ていうか最後!なんで自分たちがババアになってんの!! そのままフツーに何もなかったかのように帰ってるし!! 韓国語もちゃんと翻訳…
最初の3行で「あ、好きなタイプの馬鹿噺(ギャグ)だ!(2回目)」となりました♨ この幼馴染みズのような遠慮も知能も感じられない呑気は会話は大好きです。唯一のツッコミ役が淡々としているのもGood♨ …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ