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25分の5の  作者: シンサク
8/60

第8話 逃走者と闘争者(後編)

 リナは意を結した。

 シドウと戦うわけではない。

 逃げる。

 この場は何が何でも逃げ切ってやる。

 逃げ切って仲間との合流を目指す。

 みんな無事とは限らない。

 それでも、もう少しの間、せめて残り人数が20人になるまで。4人ともやられてしまった可能性が出てくるまでは諦めてはいけない。

 みんなは、リナを探してくれているかもしれないのだから。

自分だけ、早々に見切りをつけてしまってはいけなかったのだ。

 なんか、闘志みたいなものが湧き上がってきた。

 闘志と言っても、今ここでシドウマモルと戦うわけじゃないけど。

 シドウから逃げ切り、逸れた仲間を探して、共に最終的な勝ち残りを目指すために戦い抜くという闘志だ。

 こういうバトルロイヤルにおいては、現状では敵わないとみた相手から逃げるのだって、立派な戦いだ。

 シドウは話は済んだとばかりに駆け寄ってくる。 

 リナは、自分へと向かってくるシドウを睨みつけ、能力を発動する。

 シドウの動きがピタリと不自然に止まった。

 リナはシドウに背を向けて、やってきた方向へと逆戻りに脱兎のごとく走り出した。

 シドウが動き出す。リナを再び追いかけ始める。

 リナは走りながら、上半身と首を捻って、背後のシドウを目視する。

 再度の能力発動。

 シドウの動きがまたピタリと止まる。

 リナは前を向き全力で走る。

 少しして、またシドウが動き出す。

【金縛り】

 それがリナに与えられた能力。

 凝視した相手の動きを止められる。

 止められるといっても、ほんのわずかな時間。

 単体だと使い勝手が悪い能力だ。

 メイサがいてくれたら、最初の停止で勝負がついていたかもしれないのに。パニックになっていたとはいえ、彼女とは我が身可愛いさに自ら離れてしまった。

 だから、この場は1人で切り抜けてみせる。

 振り向き、また能力を発動させシドウの動きを止めて、前を向きまた走る。

 シドウは、金縛りが解け、体が動くようになったらすぐさまリナを追いかける。

 状況がわからないものが見れば、鬼ごっことダルマさんが転んだが混ざったような遊びに興じていると思われるかもしれない。

 しかし人からはどう見えようとも、リナにとってそれは遊びではなく、確かに命をかけた戦いだった。

 リナは必死で、金縛りをかけて走って金縛りをかけて走っての繰り返しを続けた。

 しかし、女子としてはそこそこ足に自信がある方とはいえ、相手は男子で空手家。足腰を鍛えるために走り込みくらいは日常的にやっているのだろうか。持久力の差はやがて、速度に現れ、徐々に二人の距離は縮まっていく。

 リナの顔には疲れが浮かんでいた。速度がガクッと落ちる。

 逆にシドウのスピードはぐんと上がった。シドウは今まで全力で走っていたわけではなかった。草食獣を狙う肉食獣のように、標的との距離を一気に詰める。

 リナが金縛りをかけ直すべく後ろを向こうとした時には、シドウは間近に迫っていた。

 シドウの右足が跳ね上がる。上段蹴りを放つために。

 リナの首筋に迫るシドウのつま先が靴ごと変形を始めた。平たくなり伸びる。同時に金属の光沢を放つ鈍い銀色に変わっていく。幅が広くて短い剣のような形になった。

 振り向いたリナが金縛りを発動するよりも早く、シドウのつま先がリナの首元を通過していた。まるですり抜けたかのように。 

 リナの頭が傾き、胴体から離れていく。完全に首から下と分離した頭は、地面へと落ちていく。

 リナは何が起きたのかまるでわからなかった。

 ただ激痛の中、天地が逆さまになっていく様子と、首のない自分の体を見た。 

 シドウのつま先がリナの首をすり抜けたわけではなかった。すり抜けたかのように、スパッと首を切り裂いたのだ。

 シドウに与えられた能力は【足刀】

 つま先を分厚く大きな刃に変える。

 足刀とシドウの磨きあげられた上段蹴りの組み合わせが、人間の首を切断する芸当を可能にした。

 地面に頭が落ちるか落ちないかといううちに、リナの意識は飛んだ。

 離れ離れになった頭と胴体が光りとなって消えた。飛び散った血は薄れるようにして消えた。

 

 空のカウントが21に減った。

 

 メイサを置き去りにしてしまったトウカはひたすら逃げていた。

 何から逃げているのかさえもわからない。

 あの謎の爆発を引き起こした人物か。

 メイサを貫き、能力が無かったら自分も貫いていただろうあの黒いトゲか。

 それとも生き返りの権利を得る争いに参戦している人たち全員だろうか。

【すり抜け】で建物の壁やブロック塀、障害物を無視して、ひた走る。

 トウカは壁をすり抜けた。

 すり抜けた先にはまるでトウカを待ち受けていたかのように、カチューシャをつけた少女が立っていた。なぜか顔を大きく膨らませて。

 後ろには、さらに男女2人ずついる。

 後戻りを選ぶ暇はなかった。

 カチューシャ女子は口をすぼめて、息を吹き出した。

 トウカの目の前が、にわかに赤く明るくなった。

 同時に焼けつくような熱さを感じた。

 トウカの体は燃え盛る炎に包まれていた。

 炎が消えると、そこには真っ黒な人型があった。

 炭化したトウカの体が晒されたのは一瞬だった。すぐに光となって消えた。

 

 ボブカットの少女が空を見上げて、

「20」

 とつぶやくように言った。

「五つしかない生き返りの権利の争奪戦。早くも25分の5のリタイア者が出たわけね」

 火炎を吹く能力のカチューシャの少女はキメ顔っぽい顔で言った。

「脱落するのは20人なのだから、20分の5のリタイア者と言った方がいいのでは?」

 メガネをかけた少年が指摘した。

「細かいわね。どっちでもいいでしょ!」

 火炎の女子はメガネの少年にそう言ってからつぶやく。

「絶対に生き返るんだから」

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