第53話 宣言する者
この灰色の世界でしか能力が使えないなら、生き返った後に能力に関する記憶だけあっても意味がない。能力の記憶が残るようになっているのは、生き返った後も能力を使えるから。
理屈は通っているとシンキロウも思う。
いや、しかし。まさか。
能力に関する情報はすでに記憶の中に入れてありますとか、ここでの出来事は生き返ったら全て忘れてしまいますとだけ言わないで、気がつく前とか、気がついてからとか、いちいち付けていたのは、指摘されると確かに不自然な気もするが。
ハセガワはーー頭の回る彼女は生還後も能力を使える可能性を思いついているような発言を何かしていたか?
瞬間移動は金属粘土と違って、日常でも便利そうですね、みたいなことを言っていた気がする。だがそれは果たして、生還後も能力を使えるという仮説を踏まえての発言だったのか? ただの雑談ではないか?
「生き返った5人ーーここでの記憶を失っている生き返った人主観だと、あくまでも大事故から奇跡的に生き残っただけになるけど。
きっと目が覚めたら自分の身に起きたことをあれこれ思い出そうとする。
その時、能力に関する記憶が思い起こされるようになっているんだろうね。
ここで気がついて、自分の身に何が起きたのかを思い出そうとしても能力に関する記憶は出てこなかったわけだけど。
すでに起きたことよりも、現状把握に努めたから、能力に関する記憶は出てこなかったんじゃないかな。
憶測だけどスズシロさんは、ほかの人と同じように最初立った状態で気がついたのだとしたら? 空からの声の主が能力を発動させた状態にしたのか、自動的に発動する能力もあるようだから、彼女の能力もそうだったのかもしれない。
スズシロさんは自分が立てることに疑問を抱いたから、ほかの人よりも先に自分の頭の中に能力の記憶があることに気づけたんじゃないかな?
他の人は空からの声に言われてから能力のことに気づいた様子だった。それが生き返った後も能力の記憶を思い出せる根拠になったんじゃないかな」
カムイが淡々と語るのを聞いていると、本当にそんな気がしてくる。
しかし、だからなんだと言うのだ?
生還後に能力を使えたとして、それがなんになる?
そもそもカムイはなぜそんな話をし出した? カムイの目的は自分たちを挑発することではないのか?
「能力を生き返っても使える。その可能性に思い至って、嬉しくなった」
カムイは嬉しそうに言う。本当に嬉しそうに。
そりゃ、生前二度と歩けない足だったらしいスズシロにとってなら嬉しい、ありがたい話だ。有り難いというか有り得ない、奇跡のような話だ。
スズシロにとっては、生還の際に能力を所持したままというのは素晴らしい特典だと言える。
だけど、ほかの連中にとっては?
「ボクが能力を持って生き返ったら。何ができるか。何をするか。何をしたいか。それを考えたらたまらない気持ちになった」
カムイは楽しそうに言う。遠足を楽しみにする子供のような無邪気さえ感じさせる。
瞬間移動や透明化はそこそこ役立つだろう。悪用すればそこそこどころか無茶苦茶に。
ほかにも使いようによっては多少は役に立つ能力もいくつかあるだろう。
だが、ほとんどの能力が現世で役に立つとは思えない。
飛んでくるものを跳ね返す能力が現代日本でどれほど役に立つ?
六本腕やカムイの黒いトゲはどうだ? 日常生活で役に立つか?
シドウの爪先の刃なんて、空手の試合に使うわけにもいかない。
そのほか攻撃にしか使えないような能力は?
そんなもの使えたところで役に立たない。嬉しくもない。
他者を傷つけたり、破壊行為くらいにしか使えないのだから。
いや。
くらいにしか使えないじゃない。
他者を傷つけたり、破壊行為になら使えるのだ。
活用できる。
役に立つ。
シンキロウ自身もチラリと考えた。腕が六本あれば、3人相手でも喧嘩で勝てるだろうかと。
他愛もない夢想だった。もしも生還後も能力を使えたら、本当にやるのにと考えていたわけではない。
だが、カムイはーー
「生き返った5人はどうなっていると思う?
病院のベッドの上で目を覚ますことになるとボクは予想しているよ。
空からの声はみなさんの安全を確保した状態でお返ししますって言っていたしね。
下手に事故現場で目を覚まして動き回りでもしたら危ないと思うんだよね。
だから、意識のないうちに救出されて病院に運ばれることになるんじゃないかな? 空からの声が言ったように死んだ時の損傷は全て修復されていようと、検査やらなんやらのために。
覚えのない奇妙な能力に関する記憶。知識。
半信半疑でもボクなら使ってみようとする。
ああ、ボクの能力は1人を除いて残っている人たちはみんな知っていると思うけど、地面から大きなトゲを生やすってもので、名前は【トゲトゲ】って言うんだけど。
ボクが【トゲトゲ】を実際に使用できると分かったら、その後、ボクはどうするだろうか?」
カムイは設問を提示し、自ら答える。
「【トゲトゲ】で周囲にいる人たちを片っ端から貫いて回る」
カムイは宣言した。
自分が能力を持って生き返ったら、何をするのか、何をしたいのかを。
手当たり次第に人を貫く。
無差別殺人。
殺戮。
カムイの顔が輝いているのが見えるようだ。
あの作り笑いのような微笑みを浮かべていたカムイが、心の底から喜んでいる様が目に浮かぶ。
他者をトゲで貫いて回る。現世でそれをやれば、傷害、殺人だ。ここでの行為とは同じようで全く意味が異なる。
スズシロが生き返る者を選ぼうとしていたのは、生還後も能力を使用できるとして、それを悪用する者が出る可能性を懸念していたからこそだったのだろうか。
「生き返ったーー生き残った5人は同じ時、同じ場所、同じ事故にあった身。普通に考えて同じ病院に運び込まれるだろうね。
生還者ーー生存者5人は多少の時間差はあるだろうけど、同じ病院で目を覚ます。
病院にはきっと生存者たちの家族が駆けつけているだろうね」
カムイは少し間を空ける。
「お父さんとか。お母さんとか。お兄ちゃんとかね」
その言葉を最後にカムイは沈黙した。
カムイは明言しなかったが、言いたいことは理解できた。
愛する家族を殺されたくなければ、家族を危険に晒したくないならば、この世界で自分を倒し、生き返りを阻止しろ、と。つまりは人質。
カムイ自身以外で残っている動ける者たち全員に向けられているようにも思えるメッセージだが、そうじゃない。
家族を人質に取る形でただ挑発をすれば、動ける全員が集まってしまう可能性もある。それはカムイも望むところではない。
このメッセージは、特定の人物1人に向けられている。
シンキロウはその人物の方を見た。
その人物ーーオチアイユメは、カムイが話している間もずっと伏せていた顔を上げた。
シンキロウはゾッとした。
オチアイの美しい顔が冷たく凍り付いていた。寒気を覚えるほどに。触れればむしろ熱いと感じそうなほどに。凍傷になるのでないかと思うほどに。
オチアイはシンキロウを見て口を開いた。
「ねえ」
声も冷え切っていた。
「あの子、ワタシのお兄ちゃんを殺すかもって、言ったの?」




