第2話 生還権
生き返ることができるのは25人のうち5人だけ。
頭の中でその言葉を反芻する。
〈本来、皆さまがた25人のうち、亡くなるのは20人のはずでした。しかしながら、25人全員が亡くなってしまいました。
だから、余分に亡くなることとなった5人分だけ、生き返りの権利が用意されます〉
そんなのってありか。
自分は死ぬはずじゃなかったのに死んだということか?
いや、25人のうち20人、誰が死ぬはずだったかは言及していない。もしかしたら自分は死ぬはずだった20人の方に含まれていたのか?
でも、生き延びる5人の側だったとしたら、ひどい話だ。
チャンスを与えるなんて言わずに、死ぬ運命になかった5人を無条件に生き返らせてやるべきじゃないか。
だけど、それだと、もし自分が死ぬ側の20人だったとしたら生き返せてもらえないことになる。
なら、ある意味ではこれはラッキーなのか。死ぬはずの運命だったのが生きることができるかもしれないなら。いや本当にラッキーならそもそも死んでない。
もしかして、決まっていたのは人数だけで、誰が死ぬか生きるかまでは定められていなかったということなのか。
その辺りの詳しい説明はしてくれないようだ。
25人の詳細な生き死にの運命は、今となっては重要ではないのかもしれない。
肝心なのは、5人誰が生き返るか。
どういうふうに生き返る5人が決まるかだ。
〈生き返りの権利を得る5人は皆さま自身で決めていただきます〉
え? となる。
自分たちで決めてくださいと言われても。 どうやって?
話し合えっていうのか?
そんなのみんな生き返りたいに決まっているんだから、決められるわけないじゃないか。
何か奇妙な違和感を覚えた。
なんだ?
そうだ。さっきから亡くなってこの場にいるのは25人だと言っているのに、ここにいるのは自分を合わせて5人だけだ。
他の20人はどこにいる?
話し合いで決めるなら、25人を一箇所に集めておくのが普通じゃないか?
話し合いならば、こんな灰色の世界ではなくて、もっとふさわしい場所に連れてくればいいじゃないか?
おかしい。
不安が募り、恐怖がふつふつと込み上げてくる。
〈なお、皆さまには、それぞれに異なる超能力、すなわち異能力を差し上げました〉
超能力? そんなの話し合いには必要ない。
〈各自に差し上げた異能力に関する情報は、この場で気がつく前に、皆さまの記憶の中に入れてあります。
生き返る5人を決めるのに自由に使ってくださって構いません〉
本当に自分に超能力なんてものが与えられたのか? 本当なら、自分はどんな能力を与えられたんだろう?
そう考えたら、自然と頭の中に言葉が浮かび上がってきた。
それは自分に与えられた超能力の名前だった。
能力の詳細が暗記していたように、次々と浮かぶ。
話し合いに使うための能力とは思えない。
こんなの、まるで戦いのための能力じゃないか。
戦う? 誰と?
背筋に冷たいものが走った。
生き返ることができるのは5人だけ。
自分は生き返れなくていいから、他の人どうぞ、なんていう人がいるとも思えない。みんな生き返りたいに決まっている。むしろ自分が生き返られるなら他の人がどうなろうと知ったこっちゃないくらいに考えたっておかしくない。
話し合いで誰が生き返るかを平和的に決めることなんてできやしない。
なら、非平和的な手段で決めることになってしまうんじゃないか?
非平和的な手段。すなわち暴力。
生き返りの権利を得る者は自分たちで決めてくださいというのは結局、生き返りの権利を懸けて争えという意味なのではないか。
空からの声の説明は続く。
〈なお、誰が生き返りの権利を得るか決める過程で行われた暴力行為、破壊行為が罪として扱われることはありません。ご安心ください〉
〈誰が生き返りの権利を得るか決めるのには制限時間があります〉
〈この場にいる者の残り人数が6人以上のまま制限時間を迎えた場合、制限時間までに決められなかったものとみなし、生き返りの権利は無効となります〉
〈今回の件は、あくまでも例外的な出来事に対しての特別な処置として、皆さまに生き返りの権利を得るチャンスが与えられるというものであって、5人は必ず生き返られるというものではありません〉
暴力行為、破壊行為の容認に、残り人数という言い方。どう考えても争い合うこと、その結果として、この場から人が減っていくことを前提としている。
体が震える。他の連中は一体どんな能力をもらっているのだろうか?
〈残り人数と残り時間のカウントは空に表示しておきます〉
言うや否や、空に二種類の数値が出現した。
25という数値と。
スマホの時刻表示のように、四つの数字の真ん中に二つの点を挟んだ数値。
そういえば、スマホや財布がない。衣服と違って必要がないということなのか。
残り時間を示す数値はまだカウントダウンを始めていないようだ。
〈残り時間を示すカウントが00:00になるか、残り人数を示すカウントが5になった時点で終了です。
残り時間がなくなった場合、誰も生き返ることはできません。
残り人数が5になった場合、その時残っている5人に生き返りの権利が与えられます〉
〈生き返りを望む人は直ちに生き返らせて差し上げます〉
妙案を思いつく。過程はどうであれ、残り5人に入ればいいのなら、戦わずに済むのではないか。
これがもし、たった1人しか生き返れない戦いだったら、戦わないで最後まで残ることは不可能に近いだろう。
たとえ隠れても逃げ回っても、残り1人になるまで戦いが終わらない以上は、絶対に狙われることになる。
他の連中が潰し合った果てに、自分を除いた残り2人が相打ちにでもならない限り、必ず一度は戦わなくてはならない。
だけど、勝ち残りが1人ではなく5人なら話は違う。
都合のいい相打ちなんて期待しなくても、隠れて誰にも見つかないでいれば、いつのまにか5人にまで減ることはあり得る。
見つかる危険性はあるにしても、戦わずして生還の権利を手にできるのではないか。
〈生き返りに際して、皆さまがお亡くなりの際に負った損傷は全て修復した上で、安全が確保された状態にしておくことをお約束します〉
〈この場で気がついてからの記憶は生き返ったら全て忘れてしまいます。あらかじめご了承ください〉
〈なお、川に落ちたら生き返りの権利を得るチャンスは失われますので、ご注意ください〉
川? よくわからない話だ。とにかく言われた通り注意すべきなのだろう。
〈残り5人になったか、制限時間が来た時点でお知らせします。それでは、皆さま頑張ってください〉
その言葉の後、空からの声は聞こえなくなった。
少しして、一分単位らしい残り時間を示す数値が減った。