第93話【勇者スルト、実験する】
街の食堂でスルト達は向かい合っていた。
「改めまして、私はアリアン神聖国で司祭を務めておりますメリアと申します」
「アリアン神聖国……女神アリア?」
「はい。こちらの二人は助祭を務めているセルンとキリエです」
紹介された若い男女が共に頭を下げる。
「よろしくお願いします。自分はスルトです。多分、勇者です……自信なくなってきた」
「大変失礼なお願いになりますが、その……証明していただくことは可能でしょうか。事前に聞いていた特徴と一致はしているのですが……」
メリアが恐縮しながらスルトに尋ねる。
「証明……画面出ないし、勇者専用魔法なら……あ、そうだ」
《アリアン・ライフル》をテーブルに置く。
「確か勇者以外触れないって女神様が言ってたからこれでどうかな」
―――― ザザッ ――――
(ん? なんだ?)
スルトが首を傾げると、3人の顔が驚愕に染まっていた。
「あの……今、なんとおっしゃいました……?」
「だから勇者以外触れないって言ってたよ」
―――― ザザッ ――――
(なんだこれ、気持ち悪いな)
メリアが大きく目を見開いた。
「女神様に……お会いになったのですか?」
キリエが一心にスルトに向かって祈っている。セルンが銃をおそるおそる触ろうとするも、見えない壁に阻まれて触れない。
「うん。あ、言ったらまずいのかな。でも言っちゃったよ、女神様が転生させてくれたんだ」
―――― ピーーーーーッ ――――
「おわっ?!」
「ど、どうされましたか?」
(完全に警告音だよ。女神様また怒ってる? ちょっとだけ実験して確認してみるか)
「あ、すいません。試したいことがあるから待っててもらっていいですか?」
キリエに続きセルンもスルトに向かって祈り始めた。
「女神様が言ってた」
―――― ザザッ ――――
「女神様はすごい……あれ?これはいいの?」
「女神様は忙しい」
―――― ザザッ ――――
「女神様はいつも残業」
―――― ザザッ ――――
「女神様はエロい」
―――― ザザッ ――――
「はい、すいません。女神様、貴族令嬢に振り回される」
―――― ピーーーーーッ ――――
「女神様のせいで猫耳大増殖」
―――― ピーーーーーッ ――――
「勇者スルトが大樹を燃やして女神様が残業」
―――― ピーーーーーッ ――――
(間違いない。これ規定回数で天罰とか? 最初の街で死ぬとか嫌だしそろそろやめとこ)
見るとメリアも一心に祈り始めている。
「オッケーです。って、なにしてるんですか、3人とも」
「い、いえ……教皇様から与えられた使命がまさかこのような話とは思わず……」
「大げさだなぁ。とにかく普通にしてください。みんな見てますよ、客ほとんどいないけど」
店内を見渡すと、客は数人だけ。寂れすぎて、椅子の存在感が強い空間だった。
「とりあえず勇者の証明ってできました? 色々教えてほしいんですけど、教皇様の使命というのは?」
「はい。今日、勇者様がここアレサンドの街に誕生されるので接触するようにと。朝から街中を探し回っていました」
(あんなに急いで転生するから座標ズレたんじゃないか?)
「なるほど……教皇様はなんでそんなこと知ってたんです? 女神、じゃなくて……えーっと例の人から直接聞いたんですか?」
メリアが身震いする。
「いくら教皇様でもありえません。天啓が下ったとのことです。教皇様だけが複雑な啓示を正確に読み解けるのです」
(それ絶対違うだろ。業務連絡みたいに言われたんじゃないか? 女神様との連絡手段ありそうだな)
「なるほど。それで俺になにか用事が? あ、そうだ先に相談が。少しお金貸して欲してもらえませんか。後で絶対返すんで」
メリアがセルンに目配せすると、セルンが鞄からずっしりした袋を取り出してスルトに渡す。
「重っ! 金貨? 価値わからないからとりあえず数枚だけで」
「そのままお納めください。教皇様から勇者様に渡すように指示されていますので」
「そう? でもなぁ……やっぱり後日返すよ」
「さすがは女神様に選ばれし方です……」
キリエがまた祈る。メリアが姿勢を正して言った。
「勇者様に大事なご相談がございます。ただ、ここでは話せませんので少し歩きますが街の教会に……」
そう言いかけたところで、店の外から怒声が響いた。
「なんだ? なんか騒いでる? 見てこよ」
「あっ! 勇者様!」
キリエが止めるより早く、スルトは店の入口に向かい外を覗いた。
着飾った男が、貧しい身なりの数人を鞭で打ち据えていた。
「さっさと歩け! 役立たずどもめ!」
スルトの脳裏に昔の出来事がよぎる。
(チッ……でも今の俺なら……)
男に向かって歩き出す。
「なにやってんだ、お前。やめろ」
「なんだ貴様は」
「勇者だ。胸糞悪いことしてんじゃねーよ、失せろ」
男はスルトを睨みつける。
「勇者だと? 貴族に楯突いた嘘つきの平民がどうなるかわかっているんだろうな」
男が腕を振ると鞭が迫る。しかしスルトは一瞬で懐に潜り込み、腹に拳を叩き込んだ。
激しい衝撃で男は吹き飛んで壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
(やっべ、綺麗にカウンター入ってしまった。ただのパンチでこんな威力なのか。死んだんじゃ……)
慌てて男の元へ駆け寄る。
「えーっと、えーっと、回復っぽいものは……《ディバインヒール》!」
光が体を包み込み、傷が完全に癒える。
「ぐっ……私は一体……貴様! どういうつもりだ!」
(あ、死んでなかった。セーフセーフ。騒ぎになりそうだから逃げよ)
屋根の上に跳び上がると、離れて見ていたメリア達に叫んだ。
「教会ってどっちだー?」
メリアが慌てて身振りで方向を示す。スルトはそのまま屋根の上を駆け抜けていった。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:Surtr】




