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魔王山田、誠実に異世界を征服する  作者: nexustide400
第一部《魔王VS勇者》編
88/100

第87話【ファーレン王家サバイバル:前編】 ※約4500字

時は遡り――


山田がノルン共和国へ向かった後、ライエル王国の首都カレスタにファーレン王家の王子・王女八人が到着した。


謁見の間へ通された彼らの前には大勢の兵士が並び、玉座にはライエル王、その両脇にレイラ王女とカシウス王子が立っていた。


「大変ご無沙汰しております、ライエル陛下」


第一王子のシューレンが声を上げるも、ライエル王は無言で座っている。


「貴国の兵士には大変な目に遭わされましたよ。魔王殿の意図を汲まず本当に我々を歩かせるなど。いい加減にしろと国境からは断固拒否しました。もう少し厳しく教育されたらどうですか」


第二王子のレイモンドが言い放つと、他の王子や王女も口々に同意する。


ライエル王は答えず、近衛兵長ロイドに視線を投げた。前に進み出たロイドが告げる。


「貴様らはなぜ立っている。陛下の御前だ、跪け」


「なにを……?」


戸惑うシューレン達の前に兵士が数名駆け寄り、無理やり跪かせる。


「なにをする! 我々は王家の人間だぞ! 貴国は礼儀というものを知らないのか!」


レイモンドが叫ぶと、レイラが口を開いた。


「あなた方は魔王様に王族の資格を一旦剥奪されています。資格を取り戻せるかどうかは、これからの努力次第です」


「レイラ王女殿下……なにかの間違いです。魔王殿に再度確認して頂きたい」


押さえつけられながらも、シューレンは必死に顔を上げる。


「先日、魔王様がこちらにいらっしゃいました。全て承認済みです」


「馬鹿な……そうだ! 魔王がサンロックを離れたなら取り返すチャンスだ。軍を出してくれ、あいつさえいなければ魔族の軍など追い払える!」


レイモンドが声を荒らげるとライエル王は再度ロイドへ視線を送った。


ロイドは剣の鞘でレイモンドを何度も打ち据え、王女たちが悲鳴を上げる。


「山田殿がおっしゃっていたが、お主らは本当に厄介だな」


ライエル王の低い声が響く。


「なにか根本的に勘違いをされているようですが、あなた方は魔王様に敗れたのです。命が惜しければ先ほどのような発言は控えてください、次は容赦しません」


レイラの冷ややかな言葉に、シューレン達は口を閉ざした。


「それではこれからのことを説明します。あなた方にはこれから各種講義と試験を受けて頂きます」


王子達の顔に困惑の表情が浮かぶ。


「成績が優秀だった者、男女それぞれ二名・合計四名はファーレン王国に戻り内政に携わっていただきます」


「ファーレンに戻れるの?」


第一王女のオルテアが問いかける。


「はい」


「残りの四人はどうなるのでしょうか?」 シューレンが続ける。


「今後、永久にファーレン王国への立ち入りを禁止します。ファーレン国内で姿が確認された場合、処刑されます」


王子達の表情が凍りついた。


「そんな……私には妻と子どもがいるんです! オルテア達にも!」


「そうですか。それでしたら呼ばれてはいかがですか。あなたを愛されているのでしたらご家族も来てくれるでしょう」


「くっ……」 シューレンの顔が歪む。


「すでにあなた方のご両親は魔王様のご命令で永久に国外追放されています。そうならないよう頑張ってくださいね」


項垂れる王子達を残し、レイラはライエル王に歩み寄った。


「それではお父様、男性陣はお願いしますね」


「わかった。レイラもくれぐれも無理はしないようにな」


レイラは静かに頷き、兵士に指示を出して王女四人を部屋から連れ出していった。


 * * *


レイラが部屋に入ると、十人の女性が出迎えた。


「早速ですが、詳細を説明しますので座ってください」


四人の王女に向けてレイラが促す。


「ねぇ、私達本当に疲れ切ってるの。しばらく休ませてもらえない?」


第一王女のオルテアが訴えた。


「構いませんよ。休んだ期間の講義や試験は全て棄権扱いになりますので、大幅に不利になると思いますが」


淡々とした答えにオルテアは激昂する。


「なによそれ……ふざけないで! なにが試験よ、馬鹿じゃないの!」


「ご命令された魔王様への非難とみなします。シュリさん、早速ですがオルテア様を減点してください」


レイラが指示を出すと、シュリが手帳に書きつけた。


「ちょ、ちょっと! 待ちなさい! なんなのよ、この女達は」


「“レイラ会”の皆さんです。今回審査員として手伝っていただけることになりました」


「ふん、なにが“レイラ会”よ。いいご身分ね」


第二王女のフィーネが嘲笑すると、十人の女性達が一斉に殺気を帯びた視線を向けた。


「な、なによ……そんなに睨まないでよ……」


「皆さんがあなた達を監視して審査しますので、あまり心象を悪くされない方がいいですよ」


「監視って……こんなことありえないわ……ライエル王国だって魔王に負けたんでしょ!」


オルテアの言葉にレイラは小さくため息をつく。するとフィーネがレイラに尋ねる。


「ねぇ……レイラ、様。夫に連絡させてもらえない? 心配していると思うの」


「わかりました。手紙を担当の方に預けてください。中身は確認させて頂きますが、必ず届けます」


「わかったわ、ありがとう」


今度は第三王女のセリーナが口を開いた。


「あの……失礼ですが……本当にレイラ様、ですよね?」


「はい」


「以前パーティーでお会いしたときと雰囲気が……あ、すみません……」


そう言ってセリーナはうつむいた。


「セリーナの言う通りだわ、あなた随分変わったわよね。魔王に洗脳でもされてるんじゃないの?」


オルテアの言葉に空気が凍りつく。レイラの表情が消え、緊張が走った。


張り詰めた空気を破ったのは第四王女のシンシアだった。


「お姉様、今の発言は失礼かと思います。レイラ様にお詫びすべきです」


「シンシア、あなたは黙ってなさい」


「ですが、このままでは話が進みません。私は詳しくお聞きしたいです」


「あなた……こんな馬鹿げた話に乗るつもり?!」


「はい」


睨みつけるオルテアをよそに、レイラが頷いた。


「シンシア様の言う通りですので、そろそろ説明を始めますね」


レイラ会の女性達が資料を配布する。


「ここに書かれている内容を毎日こなして頂きます。互いへの暴力行為は禁止します。また、暗殺を試みた場合は即失格となります」


「暗殺? そんなことするわけがないでしょう。あなた頭がおかしいんじゃないの」


オルテアの嘲りにもレイラは冷ややかに答える。


「そうでしょうか? 今回の試験は勝てば故郷に戻れますが、負けたら永久追放の上、市井で生きていくことになります。暗殺してでも排除したいと考えても不思議ではありません」


オルテアがレイラを睨みつけるが、フィーネは資料を食い入るように見つめ、セリーナは蒼白な顔で震えていた。


「レイラ様。お父様とお母様は追放された後、どうなったのでしょうか?」


冷静に資料を見ていたシンシアが問いかける。他の三人もレイラを見る。


「バルロック陛下……あ、もうこの呼び方は駄目ですね。バルロックさんのことは明かせませんが、ソフィアさんは魔王国に行かれました」


「魔王国……」 フィーネが呆然と呟く。


「そうですか。教えて頂いてありがとうございます」


シンシアは礼を述べた。


「最後になりますが、お互いに相談することは禁止しません。それでは部屋を個別に用意していますので今日はゆっくり休んでください」


 * * *


第一王女オルテアが妹三人を呼び寄せ、部屋に全員が揃った。少し離れた場所には、レイラ会の審査員四人が無言で立っている。


「身内だけで話がしたいんだけど、あなた達は出ていってくれない?」


四人が動かぬまま沈黙すると、オルテアはため息をついた。


「もういいわ。早速だけど、誰がファーレンに戻るか決めてしまいましょう」


「どういうことでしょう? お姉様」 第三王女セリーナが尋ねる。


「ふざけた話だけど、二人が帰れるのは確実みたいだし、自分たちで……いえ、私が決めるわ」


「待ってよ。残り二人は追放されるんでしょ、なんで姉様が決めるのよ」 第二王女フィーネが食い下がる。


「ちょっと黙ってて。まずシンシア、あなたは棄権しなさい」


「どうしてですか?」


「あなたは私やフィーネのように家族もいないし、商会をやってたんだから、どこでも働けるでしょ」


「なるほど。ですが、お断りします」


「なんですって?!」


「お話はそれだけでしょうか? 私は自分の部屋に向かいますね」 シンシアが立ち上がった。


「ちょっと待ちなさい! あなたはいつもいつもそうやって……」


掴みかかろうとしたオルテアの手首を、レイラ会の審査員が静かに押さえる。


「暴力行為は禁止です」


「わかったわよ、痛いから離して」


シンシアが部屋を出ていくと、オルテアは憮然とした顔で腰を下ろした。


「まったく……シンシアはなんとかして失格にさせましょう」


「じゃあ、もう一人の棄権者はセリーナってことね」 フィーネの言葉に、セリーナの顔が青ざめる。


「いいえ、フィーネ。あなたが棄権しなさい」


「はぁ?! なんで私が! 嫌よ、モリスとあの子達がいるのに!」


「体の弱いセリーナがやっていけるわけがないでしょ。それにモリスはライエル王国とも取引してたわよね? レイラ王女が言ってたように、こっちに呼べばいいじゃない」


「ふざけないで! それならセリーナのために姉様が棄権したらいいじゃない!」


「長女の私は国に戻って当然でしょ。ありえないわ」


フィーネは勢いよく立ち上がり、体を震わせた。


「もういい……私は勝って絶対にファーレンに帰る。姉様とも戦うわ」


「フィーネ! 話を聞きなさい!」


叫ぶ声を背に、フィーネは部屋を後にした。


 * * *


シンシアは用意された部屋に入った。


「もっと厳しい待遇かと思っていたのですが、素敵なお部屋をお借りできるんですね」


部屋の中をあちこち眺めながら呟く。


「日中の外出は私ともう一人が交代でシンシア様を審査します。夜間は兵士が部屋の外を見張りますので。それでは失礼します」


「あ、待ってください」


出ていこうとする女性をシンシアが呼び止めた。


「なにか?」


「少しお話できませんか? もう日も落ちたので無理にとは言いませんが」


「買収行為は禁止ですよ」


「わかっています。お名前を伺っても?」


「カーラと申します」


名前を聞いたシンシアは笑顔でテーブルに促す。カーラは少し逡巡したのち、椅子に腰を下ろした。


「それで、お話というのは?」


「レイラ様がおっしゃっていた“レイラ会”に興味が沸いてしまって。会員のカーラさんならお詳しいですよね?」


「もちろんです。私は最上……なにをお知りになりたいのですか?」


シンシアが次々と質問すると、カーラは高揚感を隠せず詳しく語っていく。


「驚きました……レイラ様は本当に信頼されているんですね。カーラさんも上位十名に選ばれているなんて凄いです」


「おだてても審査は変わりませんからね」


「失礼しました。あ、長く引き止めてしまってすみません。明日からよろしくお願いします、カーラさん」


カーラは一礼するとシンシアの部屋を後にした。



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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