第83話【サイリス、効率的に攻め落とす】
ヘラが船室に姿を現し、報告を告げた。
「サイリス様、敵船を複数確認しました」
「わかったわ。なるべく無傷で手に入れたいわね」
「砲撃の射程に入る前に空から仕掛けます。ご命令を」
ネイが進言すると、サイリスは頷いて指示を出す。
「第3軍は攻撃開始。突破してきた船は私が対応します」
* * *
「サイリス様、投降した船の接収と捕虜の振り分けが完了しました」
「了解。捕虜はシーサイに送って。デクスリに待機させているので海賊に面倒を見させます」
「承知しました」
「そろそろシーリンが見えてくる頃ね」
* * *
海に面するノルン共和国の都市シーリンは、魔軍の艦隊に包囲されていた。
「ヘラ、偵察からの報告を」
「はい。市民の一部は首都スノーランに向かって逃げ出していますが、大半は残ったままのようです」
「ありがとう。ネイ軍団長、敵軍の状況は?」
「シーリンの市街地での防衛はあきらめたようで、スノーラン方面に後退しています」
「市民はなるべく残したいので助かるわね。まずはシーリンを確実に押さえます。ヘラ、降伏勧告は?」
「すでに使者は送りましたが返答がありません。再度送りますか?」
「私が直接行きます。飛行兵を集めて」
サイリスは兵士と共にシーリンに向かって飛んでいった。
* * *
シーリンの魔軍司令部に幹部が全員揃っていた。
「都市長にはこれまで通り市民に生活させるように厳命しました」
サイリスが切り出すと、全員が真剣に耳を傾ける。
「シーリンは内陸からの物資が途絶えるのでブルーネから運ばせます。ライオネル、状況は?」
名を呼ばれた赤ギルドのギルド長ライオネルが答えた。
「赤・黒・黄が合同でブルーネから順次食料などを運ばせています。お任せください」
「頼むわね。次に青ギルドは海軍と連携して南下してくる敵船の対応を」
「はい! ギルドの総力を挙げて臨みます!」
青ギルドのギルド長ザックスが力強く答える。
「デクスラ、岩の運搬は?」
「総督のご命令通り、最速で運んでいます!」
海賊の頭領デクスラの報告に、サイリスは満足げに頷いた。
* * *
三週間後。
魔軍はノルン共和国軍とザラス平野で睨み合っていた。平野の先には、首都スノーランを囲む城壁が見える。
雪が舞う中、司令部の外でサイリスがヘラに話しかける。
「冷えるわね」
「はい、雪は初めてです」
「魔族の土地は暖かいし、遠くまで来た感じがするわ」
サイリスが目を細める。
「ヘラ」
「はい」
「これが終わったら私は魔王国に戻るかもしれない。そんな気がしているの」
「え……? 魔王様からなにか……?」
「いえ。でも……そうね、これは私の願い」
サイリスは空を仰ぎ、静かに言葉を落とした。
「サイリス様……」
「もしそうなったら次はあなたに任せてもいいかしら?」
「私に……はい! もちろんです!」
サイリスは柔らかく微笑む。
「そろそろ中に入りましょう」
司令部に入ると、ネイたちが地図を囲んでいた。
「さて、始めましょうか。空からの偵察は?」
「私も直接確かめてきましたが、スノーランから続々と民が西に脱出しています。グリア共和国に向かっているものかと」
「ノースランド連合の方針として、ノルン共和国は捨てるつもりかもしれないわね」
「なるほど……となると軍は脱出の時間稼ぎ、でしょうか」
サイリスがしばらく考え込む。
「ヘラ、シーリンに南下してきた敵船への対応状況は?」
「伝令からの報告で海軍が青ギルドと連携して対応しているようですが、交戦状態になるとすぐに逃げるようです」
「後ろに常に注意を引き付けておいて、民はグリア共和国で受け入れる。強引に西のグリア共和国に攻め込めば伸び切った戦線を分断。そんなところかしら?」
「そうだとすると、なかなか手強い相手がいるようですね。噂の“白狼”でしょうか」
ネイの言葉に、サイリスは頷いた。
「いずれにしても今回はスノーランまでです。あとは魔王様と相談しましょう」
そこへ兵士が進み出る。
「サイリス総督、ガイア軍団長から預かったものを空路で持って参りました」
他の兵士が入ってきて銀色の魔導球を並べていく。
「セラ様が開発された障壁貫通の魔導球、とのことです」
「ありがとう、預かるわ」
「これがあれば一気に攻められますね」ヘラが呟く。
「サイリス様」 ネイが命令を待つ。
「行きましょう。スノーランを制圧します」
雪の平野に号令が響き渡った。
こうしてノルン共和国は魔王国の支配下に入った。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】




