第82話【サイリス、北部に侵攻する】
山田からノルン共和国への侵攻を任された後、サイリスはブルーネで準備を進めていた。
総督府の会議室に側近のヘラとキンバリ、軍団長のネイ、副軍団長のドリスが集まっていた。
「ネイ軍団長。やはり陸路は難しいでしょうか?」サイリスがネイに尋ねる。
「はい。調査を続けましたが、ブルーネ北部の山岳地帯は難所が多く、海路が現実的かと」
「そうですか……。制圧後に毎回海路かライエル王国を迂回するのも手間ですし、いずれ魔王様に道を作っていただく必要があるかもしれませんね」
少し考え込んだのち、サイリスは方針を示した。
「それでは予定通り、海側から仕掛けることにします」
「承知しました」ネイが頷く。
「ドリス副軍団長、ブルーネでの指揮は任せます」
「はっ!」 ドリスが敬礼する。
「それでは準備が整い次第、ノルン共和国に宣戦布告します」
* * *
席で思案に耽るサイリスに、キンバリが声をかけた。
「サイリス様、なにか課題でも?」
「えぇ……海賊に岩の運搬を任せるのはいいのだけれど、私たちは海軍の運用は少しね……」
「ずっと懸念されていましたね。ブルーネ海軍は編入しましたが、実際の運用は今後の課題ですね」
そこへヘラが近付き、報告する。
「サイリス様。青ギルドのギルド長ザックスが急ぎ面会を希望しています」
「青ギルド? 何かしら?」
「確認したところ、今話し合われていた海軍の件のようです」
サイリスとキンバリは顔を見合わせる。
「わかったわ。通して」
* * *
青ギルドのギルド長ザックスが部屋に入ってきた。
「失礼します。サイリス総督」
「話があるそうね。なにかしら?」
ザックスは一同を見渡し、言葉を続けた。
「単刀直入に申し上げます。今回の戦いに青ギルドを参加させて頂けませんか?」
唐突な提案に、サイリスたちは困惑の表情を浮かべる。
「具体的には?」
「ノルン共和国以外のノースランド連合の加盟国が北から海を南下してくる可能性があります。その対応を引き受けます」
短い沈黙の後、サイリスが冷徹な視線を向ける。
「軍権は渡さないという魔王様の言葉を忘れたのかしら?」
「もちろん覚えています。軍船に助言役で同乗する形でも構いません」
「随分自信がありそうですが、あなた達にその価値があるのですか?」ヘラが鋭く問いかける。
「はい。私達は“青”を冠するブルーネ最古のギルドです。海のことは誰にも負けません」
少し間を置き、サイリスは問いかける。
「今日は随分と雰囲気が違うけれど、能力を隠して私達を騙していたのかしら?」
ザックスが少し困った表情になる。
「私は他のギルド長のような交渉が苦手で。言い出すのが遅れたのはお詫びいたします」
サイリスとヘラが視線を交わすと、ヘラが言った。
「青ギルドがブルーネ海軍と密接に関わっていたのは把握していました。あなたのことも反乱の可能性ありとしてずっと監視していました」
「えっ?!」
ザックスが慌てた様子を見せる。サイリスがさらに言葉を重ねる。
「海賊達に任せた方がいい気もするのだけど。あなたも彼らに手を焼いていたのでしょう?」
「軍船を運用できていたらあんな連中に遅れは取りません。私の政治力不足は認めますが……」
思案するサイリスを見つめ、ザックスは食い下がる。
「総督の方針は理解しています。私達にも機会を与えて頂けませんか」
真剣な表情で訴えるその姿に、サイリスの眼差しも鋭さを増した。
「これは商売ではなく、人間相手の戦争ということも理解しているのね?」
「はい。千載一遇の機会と捉えています。ギルドの総意です」
ギラついた瞳を見据え、サイリスが告げる。
「青ギルドは他のギルドに比べて小粒と思っていたけれど、あなたは随分な野心家だったのね。わかったわ。以後、軍議に参加しなさい」
「ありがとうございます!」
* * *
「サイリス様、魔王様がファーレン王国に宣戦布告されたと報告が」
「いよいよね。では私達も始めましょう」
魔王国はノルン共和国に宣戦布告した。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】




