表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

第8話【魔王山田、部下を強化しまくる】

夜。要塞内では兵士たちが慌ただしく行き交い、負傷者が次々と運ばれていた。


司令室。


「予想以上に厳しい状況だが、皆よくやってくれている」


山田の言葉にギギが続ける。


「勇者の砲撃を許したのが痛手でした。被害が大きいですが、再編を急いでいます」


「頼む。ガイア、体の調子はどうだ?」


「魔王様のヒールで腕も元通りです。 明日こそは必ずや勇者を」


「あれは手がつけられない化け物だが、なんとかするしかない。だが、今日の皆の犠牲でわずかに可能性が見えた」


(対勇者補正は大幅な威力減かと思ったら完全無効とは。そりゃ先代魔王も倒されるだろ)


そのとき、ダリスが司令室に入ってくる。


「ダリス、状況は?」


「死傷者は多いですが、士気は落ちていません! 明日もいけます!」


「今日はよく持ちこたえてくれた。突破されたら終わっていた」


山田は考え込む。


(……もう出し惜しみできないよなぁ。負けたら終わりだし。あのチート野郎の補正は魔王の俺自身に対して、なら抜け道はこれしかない。もうちょっと上限の検証したかったけど……逆に検証できるか)


山田は顔を上げる。


「皆、明日は文字通り命を賭けてもらう。予定が早まる形だが、今から魔力の譲渡を行う」


それを聞いた全員が驚愕する。


「各軍の精鋭は連れてきたか?」


幹部全員が頷く。


「若干見苦しい光景になるから、軍団ごとに実施する。ガイアからだ」


「はっ。入れ!」


他の幹部は部屋を出て行き、ガイアの部下五人が入ってくる。


山田はガイアの額に手を当てた。


(十滴の大サービス、と)


ガイアが絶叫してうずくまる。


それを見た5人の顔が恐怖に染まる。


(一滴ずつ、と)


5人が全員絶叫と共に悶絶する。


やがて――


「素晴らしいです! 魔王様! 今なら勇者も軽く倒せそうです!」


「頼もしいな」


他の5人も目を輝かせている。


「次、ギギ入れ」


同様の儀式をギギ、ネイ、ダリス達に繰り返し、全員が悶絶しながらも力を得る。


「なんだこれ! 今から敵陣に殴り込みたいぐらいです!」


ダリスが興奮して叫ぶ。


「明日は期待してるぞ。サイリス、入れ」


サイリスとその部隊5人が入ってくる。アイラの姿も混じっている。


「アイラも大活躍だったそうだな」


「ありがとうございます!」


アイラの額に手を当てると、アイラが絶叫してうずくまる。他の4人にも同様に魔力を譲渡する。


「サイリス。明日はお前が切り札だ。こんな状況で試すべきじゃないんだが、思い切って譲渡する。何が起こるかわからないが、覚悟はいいか?」


「はい、もちろんです」


目が爛々と輝いている。


(……死んだりしないだろうな……二十滴、と)


次の瞬間、サイリスが床に倒れる。


「おい、サイリス? ギギ! 来てくれ!」


ギギが入ってきて、サイリスの様子を確認する。


「死んではおりません。恐らく時間が経てば……」


するとサイリスの目がゆっくり開いていく。


「お、気が付いたか」


倒れたサイリスが起き上がり、自分の手を見て、涙を流している。


「魔王様、感謝いたします……」


サイリスは涙を流し続ける。


「うまくいったようだな。よし、全員入れ」


全員が部屋に入ってくる。


「今から俺と親衛隊は出てくる。皆は明日に向けて準備してくれ」


「はいっ!!」


全員の声が室内に響き渡った。


 * * *


上空。


山田とサイリスが並んで滞空していた。


「ここからは時間との勝負だ。勇者が来るまでにカタをつけるぞ」


「お任せください、魔王様」


そのとき、空を切るようにしてアイラが飛んでくる。


「魔王様!かなりの数の兵士が川に沿って警戒しています!」


「……さすがに防衛するか。サイリス、いけるか?」


「一瞬で片付けてみせます」


山田は頭の中で魔法リストを探る。


(魔法、魔法……《プロテクト》)


その瞬間、身体が透明なバリアに包まれた。


そのまま山田は猛スピードで地上に向けて降下していく。


それを追い越すようにして、サイリスの放った無数の黒い矢が空を裂いて地上に降り注いだ。


(なんだありゃ……兵士を追尾してるのか?そんな魔法あるのか?)


川の近くに着地した山田の目に映ったのは、混乱に陥った兵士たちの姿だった。


彼らの間から「勇者様はまだか……!」という声が漏れ聞こえてくる。


(間髪入れずに、魔法、魔法……《ロット》!)


水に突っ込んだ山田の手から魔力が放たれた瞬間、水が見るもおぞましい色へと変化する。


「勇者様だ!」


(くそっ……もう来たのか)


山田はすぐさま《フライ》で上空へと逃れる。


だが、その直後――


「ぐっ……!」


地上から放たれた無数の光の矢の1つが山田の足に突き刺さった。


「おのれ……魔王様によくも!」


飛んできたサイリスの怒声が響き、彼女の周囲に無数の闇の刃が出現し、地上へと降り注ぐ。


しかし、地上から再び光の矢が飛んでくる。


「サイリス!撤退だ!」


「しかし魔王様――!」


「明日、存分にやりあえ!今は撤退だ!」


山田とサイリス、親衛隊の面々が空を切って撤退していく。


夜空に、彼らのシルエットだけが残されていた。


 * * *


要塞。


山田が足を引きずるようにして司令室に入ると、サイリスがすぐに駆け寄ってくる。


「魔王様!足の怪我は?!」


「大丈夫だ、治した」


その言葉を聞いたサイリスが、心底ほっとしたように表情を緩めた。


(……こいつ、なんか雰囲気変わったな。譲渡しすぎたか?)


そのとき、ガイアたち幹部が勢いよく部屋に入ってくる。


「魔王様!どうされましたか?!」


「騒ぐな。それより――水の汚染は成功だ」


部屋中から「おぉっ!」と歓声が上がる。


(これで……あとは勇者だけか)



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ