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魔王山田、誠実に異世界を征服する  作者: nexustide400
第一部《魔王VS勇者》編
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第78話【ライエル王国への旅】 ※約4000字

アンナたち3人は無事に南下し、魔軍の陣地へと辿り着いた。


周囲には人間たちが大勢行き交い、声が飛び交っている。


「食料の配給はあちらに並べ! ライエル王国への移住希望者はあちらで受付だ!」


魔族の兵士たちが誘導に奔走していた。


「アンナ、食料をもらえるみたいだ。急いで並ぼう」


「そうだね。手持ちもなくなってしまったし。ピアナ、行くよ」


列に並んで受け取ったのは、パンと水だった。


「はい、3人だね。魔王様の慈悲に感謝するように。イリヤ商会もよろしくね」


3人は固まって静かに食べ始める。


「なんか、めちゃくちゃ恩を売ってくるね。あの魔王らしいというか」


シャリーが呆れたように言うと、ピアナが頬をほころばせた。


「でも優しかったよね。それにカッコよかったし」


「ピアナ。あんたはすぐそうやって騙される。ああいうタイプはタチが悪いんだよ」


アンナがたしなめる。


「ま、悪い奴じゃないと思うな」


「シャリー、あんたまで」


そんなやり取りをしながら、3人は移住希望者の列へと加わった。


「名前はアンナ・シャリー・ピアナですね。この用紙を持って国境まで歩いてください。体調が悪くなったら兵士に伝えてください」


渡された紙を手に地平線まで続く人の列へと加わる。


「大丈夫だと思っていたけど、やっぱり緊張したね」


「あれだけ魔族の兵士が多いとさすがにね」


「みんなすごく静かに歩いてる気がする」


ピアナが周囲を見回す。


「それにしてもこの道、すごいね。平らでまっすぐ」


「確かに見たことないね。これもあいつがやったのかな?」


「魔王ってすごいね」


 * * *


道沿いに設けられた休憩所で休み、夜は野営地で眠り、日が昇るとまた歩き出す。


数日後、国境が見えてくる。


「2人とも見て! あれが国境じゃないかな?」


「やっと着いたのかな。もう足が限界だよ」


辿り着いた先では、大勢の人と馬車が慌ただしく行き交っていた。


誘導の声に従って列に並ぶ。


「はい、確認しました。ライエル王国へようこそ。あなた方はフーシア行きの馬車乗り場で順番を待ってください」


「すみません。私達王城に行きたいんです」


アンナが伝えると、係の者は怪訝な顔をした。


「王城? 何の冗談ですか。次の方どうぞ」


「あのっ! レイラ王女に会いたいんです! 紹介状もあります!」


「なんですか、しつこいですね。紹介状?」


アンナが差し出した紙を確認した係の者の表情が次第に険しくなる。


「少しここで待っていてください。この書状は一旦預かります」


不安に駆られる3人のもとに、やがて兵士が3人現れる。


「貴様ら。これをどこで作成した? ファーレンのスパイか?」


「違います! 魔王様にもらったんです!」


アンナが必死に訴える。


「馬鹿なことを言うな。お前らなんかに魔王様が書くわけがないだろう。取り調べるからこっちにこい」


「ふざけるな! 本当にもらったんだ!」


シャリーの声も上ずる。


すると兵士の1人が言った。


「おい、ちょっと。本物だったらどうするんだよ。陛下自ら処分って……洒落にならないぞ」


「お前は馬鹿か。偽物に決まってるだろ」


もうひとりの兵士も詰め寄る。


「それならお前が責任持てよ。俺は知らないからな」


「お前らなぁ。ほら、3人ともさっさとこい」


「触るな! あっピアナ! 本当にもらったんだ!」


兵士が無理矢理連れて行こうとして3人が激しく抵抗する。


騒ぎを聞きつけて、バルガスが姿を現す。


「皆さん。どうかされましたか? なにかトラブルでも?」


「バルガスさん。実はスパイを発見しましてね」


兵士が説明すると、バルガスは紹介状を一読し、表情を引き締める。


「これは魔王様の筆跡ですね。偽装も……可能性は低いですね。この内容は恐らくご本人かと」


「本当ですか? しかし……」


「おいおい、冗談じゃないぞ! 俺達は聞かなかった、いいな?!」


動揺した兵士2人がそそくさと離れていく。


「もしよろしければこちらの3人は私が預かります」


「そうですか。バルガスさんが言うなら……わかりました」


「3人とも私についてきてください」


警戒しながら3人はバルガスについていく。そのまま簡素な建物に案内され、中へ入るとライラが静かに座っていた。


「ライラ商会長。少し相談が」


バルガスがライラに事情を説明する。


「なるほど。魔王様から依頼されて私も一度王都に戻るので一緒に乗せていきましょうか?」


「助かります。ではお願いしますね」


バルガスが去った後、アンナが呟く。


「あ……助けてくれたお礼言いそびれちゃった」


「私から今度伝えておきますね。大変でしたね」


ライラが穏やかに言葉をかける。


「あの、もしかしてライラ商会の……」


ピアナが恐る恐る尋ねる。


「はい、商会長のライラです。皆さんを王都までお連れします。早速ですけど出発できますか?」


「は、はい! もちろんです!」


アンナが慌てて答えると、ライラはにっこりと笑い、颯爽と部屋を出ていく。3人は急いで後に続いた。


 * * *


しばらくすると巨大な馬車が見えてくる。


「なにあれ……?」


「馬車じゃない?」


ライラが立ち止まり、3人を中に招き入れる。


「うわぁ……」

「すご……」

「…………」


馬車とは思えない広さに、ただ呆然と立ち尽くす3人。


「座ってくださいね」


「はい、ありがとうございます。凄いですね・・・」


「さっき皆さんが会ったバルガスに作ってもらったんです。移動中も仕事ができるように」


「バルガスさんも凄い人なんですね。そういえば高そうな宝石を沢山つけてたような」


「趣味が悪すぎです。なんか最近口調まで変わってきたし。そのうち魔王様に貴族認定されて粛清対象ですね」


「ピアナ? おい、ピアナ!」


「あっごめんなさい!」


シャリーの声に、立ち尽くしていたピアナが慌てて我に返る。


そのとき、向こうから女性と数名が大量の紙と荷物を抱えて駆けてくる。


「すみません! この馬車に積み込んでください!」


瞬く間に、広い車内は書類と箱で埋まっていく。


「ミカエラ。早く乗って。出るわよ」


「はい!」


馬車が動き出すと、ライラがミカエラに事情を手短に伝え、3人に目を向ける。


「王都までは遠いからくつろいでね。長旅で疲れたでしょうし眠っていいですよ」


「ありがとうございます。ピアナ?」


ライラとミカエラを見つめていたピアナにアンナが声をかける。


「ごめんなさい! お二人とも綺麗でつい……」


顔を赤らめて謝るピアナにライラが微笑んだ。


「ありがとうございます。ミカエラ、始めるわよ」


ペンを手に取った2人が、紙束の山に向かって次々書類を確認し始める。


「わぁ……」


紙に描かれた多様な図案に、3人の感嘆の声が漏れる。


やがて、アンナとシャリーは自然に眠りに落ちていく。


ライラ達が少し作業の手を止めてぐっすり眠る2人を見た。


「ファーレン王国からずっと徒歩で相当疲れていたんですね」


「そうね。ピアナさんはずっと見ていますけど眠らなくて大丈夫ですか?」


「はい。全然大丈夫です」


即答するピアナに、ライラが興味を持ったように紙束を差し出す。


「もしよければ見てみますか?」


「いいんですか?! ありがとうございます!」


目を輝かせて紙を手に取ったピアナが、夢中になって次々とページをめくっていく。


その様子を見つめるライラの瞳が、妖しく光を帯びた。


 * * *


「到着しましたよ。魔王横丁です」


「魔王横丁……?」


馬車の扉が開くと、目の前に広がったのは賑わいを見せる市場のような一角だった。人々と荷馬車がせわしなく行き交い、喧騒が熱気を運んでくる。


「あそこに見えている王都まで馬車で乗り換えるのでしばらく待ってくださいね」


「あの! この距離なら私達はここから歩きます!」


アンナが即座に申し出ると、シャリーも黙って頷いた。


「遠慮しなくていいんですよ?」


「いえ! こんなに快適な馬車に乗せて頂いたので、これ以上は。本当にありがとうございました!」


ライラがミカエラに視線を送ると、彼女は小さな袋を3人に差し出す。


「なにか食べてから向かってくださいね。移住の手続きはレイラ様が対応されると思いますけど、もし困ったらライラ商会に来てください」


「お金まで……本当にありがとうございます!」


「あ、ピアナさん。これをレイラ様に渡してください。開けちゃダメですよ」


ライラに手渡された封筒をピアナが大事そうに抱える。


3人は深く頭を下げながらライラ達と別れた。


「すごい活気だね……」


アンナがきょろきょろと辺りを見回しながら歩き出す。


「こんなのドーシャで見たことないよ。本当に栄えてるんだな」


あちこちに並ぶ屋台から、美味しそうな匂いが漂ってくる。


「美味しそう……全部食べてみたい……」


「ダメだよ。大事に使わないと」


アンナがやんわりとピアナをたしなめる。


「あれにしないか。人が集まってるし」


目を引かれた屋台で、3人はイカの串焼きを買った。


「シャリーが言うから勢いで買っちゃったけど、なにこれ? イカってなに?」


アンナが串をじっと眺める。


「店の人が海の生き物って言ってたよ。うまっ!」


シャリーがひと口食べて思わず感嘆する。


「ホントだ。初めて食べたけど美味しいね」


ピアナも夢中になって食べ始めた。


「海ってどんな感じだろうね」


「ブルーネって海の近くにあるって聞いたことあるよ」


やがて3人は王都に向かって歩き出す。


王都の巨大な門をくぐると、視界が一気に開けた。


「わぁ……」


「ここがライエル王国……」


「すごい……」


白い石畳がまっすぐ王城へと続き、その両脇には無数の店や露店、喧騒と笑い声が溢れている。


通りを行き交う人々の服装も多様で、魔族の兵士が平然と歩いている。


賑わう王都カレスタの街並みに飲まれながら、3人は人波をすり抜け、遠くにそびえる巨大な王城を目指して歩いていった。



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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