第77話【魔王山田、問い詰められる】
「アイラ。王子達を連れて行ってくれ。聞きたいことがあるからあの王女だけ残してくれ」
山田がひとりの王女を指差すと、アイラが静かに頷いた。
「承知しました」
4人の王子と3人の王女が広間から連れ出されていった。
「さーて、どうしようかな」
山田は椅子に腰かけ、足を組みながらバルロック王と王妃のソフィアを見やる。
「何を悩んでる? 俺の処刑方法か?」
バルロック王が乾いた冗談を飛ばす。
「お前、ダリスと互角に戦ってたからな。処刑なんてもったいない」
「そりゃ光栄だ。なぁ、ソフィアもあいつらと同じような待遇にしてもらえないか」
状況をようやく理解し始めたソフィアは、黙って下を向いていた。
「そう言われてもね。あ、そうだ。いいことを思いついた。バルロック王、海賊になれ」
「は? 海賊?」 バルロック王は呆気に取られる。
「そうだ。ブルーネのサイリス総督の下で海賊やれ」
「悪い。なにを言ってるのかさっぱりわからん」
「行けばわかる。あと、歯向かわない方がいいぞ。お前じゃ相手にならないし、俺と違って容赦ないからな」
「魔軍ってのは本当にとんでもない奴ばかりなんだな」
「そっちの王妃は……うん、魔王国に連れて行く。そうしよう」
「なぜ私が魔族の国に! あなた! なんとかして!」
ソフィアが半狂乱になり叫ぶ。
「なにをさせるんだ?」
バルロック王が暗い顔で尋ねる。
「安心しろ。ちゃんとした職場で働いてもらうだけだ」
「そうか。よろしく頼む」
「言い忘れた。2人とも死ぬまでファーレンには立ち入り禁止だ」
「了解だ。俺もソフィアもイチからやり直しってことだな。魔王様。寛大な処分に感謝する」
バルロック王は深く頭を下げ、そのまま2人は広間から連れ出された。
山田は最後に残った王女の前に歩み寄る。
「名前は?」
「シンシアです。魔王様」
「堂々としているな。で、なんでずっと俺のこと見てたんだ?」
少しの沈黙のあと、シンシアが静かに口を開いた。
「魔王様は……神なのですか?」
「は? なんだ唐突に」
「私は商会を運営していまして、魔王国やライエル王国、それにブルーネの情報もずっと集めていました。どれも聞いたことのない話ばかりで、一度お会いしたいと思っていたんです」
「兄達より優秀そうじゃないか」
「ありがとうございます。以前お会いした勇者様ですらここまで違和感はありませんでした。そして先ほどまでのお話を聞いて、確信に変わりました」
「俺が神って?」
「はい。それならすべて納得できます」
(なんか嫌な予感がしてきたぞ)
「残念ながら神ではないな」
山田は表情を崩さずに答える。
「神ではないと……では、どこから来られたのですか?」
(あー……ダメだこりゃ。まずいぞ。どうしよう)
「質問が多いな」
平静を装いつつも、冷や汗が止まらない。
「突然魔族領に降臨して、明らかに歴代魔王とは違うやり方で侵略。占領後は前例のない施策を次々打ち出し、皆が喜んでいる。まるで救世主のようです」
(無理! 無理無理。逃げたくなってきた。レイラよりタチが悪い天才だ。完全に見透かされてるし……ええい、仕方ない)
「お前に聞く権利があるのか?」
山田が突如、威圧的な態度に切り替える。
「権利、ですか……あっ! やはり……」
シンシアが何かに気づいたように息を呑む。
「それがどういうことかわかっているんだろうな」
魔王のオーラで睨む山田に、シンシアの額から汗がにじむ。
「い、いえ……今回はやめておきます……」
(ふー……知ったか上司ムーブでなんとか乗り切ったぞ。また妙なアラート鳴るだろうから答えるわけにもいかないし)
「そうか」
元の口調に戻り、軽く尋ねる。
「そこまで頭が回るのになんでドーシャを放置してたんだ」
「私ができることなど……末の第4王女ですから。商会を通じて支援しようとしましたが……」
「ま、責めても仕方ないな。さて、特別扱いはしないからライエル王国の研修とテストで勝ち抜いてくれ」
「もちろんです。勝ち抜くとどうなるのでしょうか」
「さぁな。王女組はレイラに預ける予定だ」
「レイラ様と仲が良いというのは本当なんですね。以前お会いしたことがありますので、またお会いできるのが楽しみです」
そう言って、シンシアも広間から連れ出されていった。
* * *
数日後。
「イリヤ、今回は本当に助かった。感謝する」
「仕事はきっちりこなすさ。でもさすがに多すぎて焦ったよ。今も王都中の商会が総出で当たってる」
「助かる。落ち着いたらきっちり礼をするよ。イリヤにはそうだな……王家が所有してたサンロックの一等地でどうだ」
「いいのかい? それなら十分すぎる報酬だよ」
「決まりだ。さて、ゲオルグはこちらのギルドと予定通り復旧作業を進めてくれ」
「もちろんです。早速進めます」
「予想以上にライエル王国に行ってしまったけど、こちらが復興したらある程度は戻って来るだろうから頼んだ」
* * *
山田とダリス、アイラ、そして親衛隊で魔法全般を管理しているベリアムが歩いていた。
「ベリアム。わざわざ後方から来てもらって悪いな」
「いえ。それで私にどのようなご命令でしょうか?」
「ここだ」
山田が立ち止まったのは、大量の本が並べられた部屋だった。
「魔法書の山なんだ。希少な本や有用な本を選んで運び出してもらえるか? 魔王国に持ち帰る」
「承知しました!」
アイラの指示で数名の兵がベリアムとともに部屋に入り、作業を始める。
「さて、ダリス達はこちらだ」
別の部屋には、ずらりと武器が並んでいた。
「ダリス、ほら」
山田が放ったのは神器“アリアンシールド”。
「っと。これはバルロック王が持っていた盾ですか?」
「そうだ。ダリスが使っていいぞ」
「いいんですか? 遠慮なく使わせて頂きます」
ダリスが重みを確かめながら、嬉しそうに盾を手に取る。
「アイラはこれだ」
山田が手渡したのは、刀身がうっすらと光る漆黒の短剣だった。
「これは……黒曜石でしょうか?」
「黒曜石の中でも滅多に出ない希少な石で作った短剣で、天然の魔導具らしいぞ」
「ありがとうございます!」
アイラが何度も構え、動作を確かめる。
「ここにある武具は禁軍と親衛隊で手分けして持ち出してくれ。支給しても構わない」
「了解しました」
* * *
山田は諜報部隊を束ねるワーグと対面していた。
「ワーグ。対ファーレンの工作活動、ご苦労だった」
「ありがとうございます」
「サンロックや関所で扇動した工作員達にもきっちり報酬を渡しておいてくれ」
「承知しました。魔王様、ご相談が」
「どうした?」
「人間の工作員を増やしてもよろしいでしょうか。現状の人員ではノースランド連合やモルドラス都市国家まで潜入させるのは厳しいかと」
「もちろんだ。情報が多いと今回のように選択肢が増えるからな。採用判断はワーグに任せる」
「承知しました」
* * *
「ミリトン、リューシー。そろそろ行くぞー」
「はい、魔王様」
「自分で壊した山道を自分で修復ってやる気出ないな。どうせなら道増やそうかなぁ」
山田はぼやきながら、空へと舞い上がっていった。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】




