第76話【魔王山田、王族と話し合う】
ファーレン王国・王宮。
王族全員と黒曜騎士団の生き残りが広間に集められていた。
「魔王様、全員集めました」
アイラが静かに報告する。
「了解。都市の掌握はダリス達に任せたから、ここは親衛隊できっちり警戒してくれ」
山田は一同を見渡すと、ゆっくりと歩みを進めた。
「待たせたな。降伏したんだから暴れるなよ」
「二度も瀕死から回復されたんじゃ、抵抗する気も失せる。ありがとよ、死にかけてた連中を治してくれて」
バルロック王が苦笑を浮かべる。
「治した価値があるかどうかはこの後の話で決まるけどな。決闘で勝ったんだからあの盾はもらうぞ」
「好きにしてくれ。魔王さんよ、ひとつ聞いていいか?」
「いいぞ」
「なんで最初からここを叩きに来なかった? お前さんなら簡単だろ」
「まあな。答えは簡単だ、能力を試したんだ。残念ながらお前らは無能だった」
山田の回答に、場の空気がざわめく。
「なんだと!」
第二王子レイモンドが声を荒げた。
「レイモンド! 黙ってろ!」
バルロック王が怒声を上げて制止する。
「仮に直接乗り込んでお前を屈服させたとして、そのまま治めろと言ったらできるのか?」
「なんだって? そりゃできるんじゃねーか」
「お前は軍の統制と適切な税の徴収、治安維持、インフラ整備、経済活性化と産業育成ができるんだな?」
「そりゃ無理だ。というか、誰だってそこまでは無理だろ」
「お前ができなくても、周囲が回せる体制になっていればいい。ライエル王はできていた。お前はそれすらできていなかった」
山田の声に一切の感情はなかった。
「なるほどな。耳が痛い話だ。こっちの内情を知ってたわけだ」
「管理コストが高いし、生産性が低いから俺は恐怖支配もしない。だから人材は厳選しないといけない。もっともお前らはやってたみたいだな」
「なんのことだ?」
「ドーシャではめちゃくちゃ感謝されたぞ。重税に奴隷まがいの重労働。馬鹿の典型だ」
「馬鹿とはなんだ!」
再びレイモンドが噛みつく。
「というわけだ。名乗り出た馬鹿は放っといて本題に入るぞ。お前らの処遇だ」
重苦しい沈黙が広がる。
「魔王、いや魔王様。俺は処刑で構わないから、民とこいつら、こいつらの家族も含めて命だけは見逃してやってくれないか。その代わり、どんなに過酷な待遇でも構わない」
バルロック王が頭を深く下げる。
「あなた! 勝手に決めないでください。あなた、魔王なのよね?」
王妃のソフィアが声を上げる。
「おう。魔王だぞ」
「私達を王族にふさわしい待遇で扱いなさい」
「なんで?」
「なぜですって? 私達が王族だからです」
「断る」
第一王子シューレンが口を挟む。
「魔王殿。あなたも王なのでしょう? そのような態度は王としての品格に──」
「知らん」
山田は大きくため息をついた。
「はぁ。これじゃ研修してもダメかなぁ。別の人間探した方が……ん?」
(なんだ、あの王女。ずっとこっち見てるな。睨んでる……わけではないな)
「待ってくれ! 頼む! この通りだ!」
バルロック王が再び頭を下げる。
「わかったわかった。じゃあまずは……四人の王子と四人の王女はライエル王国で研修と選抜試験だ。詳細は後日伝える。あ、馬車は貸さないから歩いていけ」
「なんだと! ふざけるな!」
レイモンドが反発するも、シューレンがそれを制止する。
「待て。レイモンド。魔王殿は私の意見を受け入れてライエル王国で王族として過ごせ、とおっしゃっているのだよ」
「しかし兄上、徒歩なんて」
「それも表面上のことだよ。魔王殿、承った」
(救いがたい馬鹿だな。お前ら王子組はライエル王の下で地獄の鞭打ち研修だよ。あの王様、こういうときは役に立つな)
「感謝する!」
バルロック王が深く頭を下げた。
「次は黒曜騎士団だな。お前が騎士団長のチェスターか?」
「はい」
「真面目な質問だ。お前らは誰に剣を捧げてるんだ?」
「バルロック陛下と王家、そしてファーレン王国の民です」
チェスターの言葉に山田が首を傾げる。
「ん? 聞き間違えか? 民って言ったか?」
「はい」
「お前ら、民を斬ったじゃないか」
一瞬にして広間に動揺が走る。
「あれは軍が……我々は……」
「お前らもファーレンの軍人だろ? 傭兵なのか?」
「い、いえ……」 チェスターが狼狽する。
「あまりそいつらを責めないでやってくれ。全ては俺の責任だ」 バルロック王が口を挟む。
「黙れ」
バルロック王の弁解を、山田の一言が断ち切った。
「チェスター団長。お前は命令されたら今後も同じことをするのか?」
「くっ……ではどうしろと!」
「なぜ斬らなかった?」
「は……?」
「斬れば良かっただろ、こいつら全員。民のために」
「馬鹿な……そんなことをできるわけが……」
チェスターが言葉を失い、視線を落とす。
「そうやって適当に誓いを立てるから身動きができなくなるんだ」
拳を震わせながら、チェスターは立ち尽くす。
「選べ。全員。今この場で」
山田の声が、騎士団全員に届いた。
「もし民に尽くすなら、今後、民を虐げる無能はお前らが斬れ。当然、お前ら自身が無能なら、斬られる覚悟もしろ」
チェスターの目が大きく見開かれる。
「おい、チェスター! お前らは王家に忠誠を誓っただろう! 裏切るのか!」
レイモンドの怒号に、チェスターが吠えるように返す。
「うるさい! 私はお前のために騎士になったわけではない!」
チェスターは姿勢を正すと目を閉じる。
そして目を開くと静かに問いかけた。
「あなたがそうなった場合も含めて……ですか?」
「当然だ」
山田とチェスターの視線が交錯する。
チェスターは王家の紋章を引きちぎり、静かにひざをついた。
「私は魔王様の麾下に入ります。汚名を雪ぐ機会をお与えください」
それを見た団員たちも、次々と同じように跪く。
「では最初の命令だ。ドーシャに向かい役人を締め上げろ。進捗は全て報告しろ」
「承知しました!」
彼らは新たな主の命を胸に、静かに広間を後にした。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】




