第75話【魔王山田、バルロック王と決闘する】
魔軍司令部。
「魔王様。ただ今戻りました! 関所は全て押さえました!」
ダリスが勢いよく報告に現れる。
「すごいな。もう制圧したのか」
「ありがとうございます。敵軍は指揮系統が混乱しているようで士気もかなり低いですね」
「よし、それじゃ……」
山田が静かに立ち上がった。
「終わらせるぞ」
* * *
ファーレン王国・首都サンロック。
魔軍の大攻勢によって、ファーレン王国軍は次々と制圧されていった。
各地で兵士が武器を捨て、次々投降していった。
上空から戦況を見渡す山田のもとに、ダリスが数人の部下を連れて飛来する。
「魔王様。主要な施設は押さえました。あとは王宮だけです」
「ご苦労。親衛隊を連れて行ってくる。ダリスも来るか?」
山田の誘いに、ダリスが一瞬だけ迷うような表情を浮かべた。
「大陸最強と言われるバルロック王とやり合ってみたいですが、俺が離れるわけにも」
「少しぐらい大丈夫じゃないか? まだ切り札があるかもしれないし、こっちも万全の体制で行くぞ」
「ありがとうございます! 少し待ってください」
ダリスが部下へ指示を出すと、しばらくして数名の精鋭たちが合流する。
「お待たせしました。禁軍の精鋭数名も呼びました」
「頼もしいな。行くか」
* * *
王宮。
王宮を護る騎士が襲いかかるも、親衛隊と禁軍の兵士たちが容赦なく斬り伏せていく。床に転がる武具と血の中、巨大な扉がきしむ音を立てて開かれた。
その先に広がっていたのは、広大な玉座の間だった。
「待ちくたびれたぞ、魔王」
玉座にどっしりと腰掛けていたバルロック王が立ち上がる。
「陛下! 我々も!」
騎士団長チェスターの声に応じて、騎士たちが一斉に武器を構える。広間に張り詰めた気配が漂った。
山田とバルロック王が正面から睨み合う。
「行け」
山田の一言で、ダリスとアイラを除いた親衛隊と禁軍兵士が前へ躍り出る。剣戟の音と魔法の光が玉座の間を満たしていく。
しばらくして──すべての騎士が地に伏していた。
「勝負になってねーな。こいつらも結構強いはずなんだがな」
バルロック王が苦笑する。
「こちとら散々勇者と殺し合ってるからな」
「勇者か……あんな化け物とやり合って撃退したんだろ? 大したもんだ」
「で、降参するのか? その様子だとやる気満々みたいだが。その盾はなんだ」
山田が目を留めたのは、バルロック王が構える巨大な盾だった。
「これはファーレン王国の国王が代々引き継ぐ神器──“アリアンシールド”だ」
「まーた神器か。聖剣と違って勇者以外でも持てるんだな」
「随分詳しいじゃねーか。さて、始めようぜ。三人まとめてでもいい……っ?!」
言い終える前に、アイラの姿が一瞬にして広間を駆ける。
斬撃が盾に弾かれ、音が鋭く響いた。
「……あっぶねぇ。ったく、魔王の配下はどいつもこいつもとんでもない強さだな」
アイラの目に殺気が宿る。
「アイラ、交代だ。ダリス、思う存分やってこい」
「ありがとうございます」
ダリスが剣を抜いて進み出る。
「魔王様、申し訳ありません」
アイラが悔しそうに戻ってくる。
「さっきのはなんだ?」
「はい。足に《アクセル》を。いつも奇襲で使っています」
「よく転倒しないな。──お、始まるぞ」
ダリスがバルロック王に斬りかかる。重厚な盾に阻まれ、すぐさま反撃が返ってくる。
「かってぇな」
「悪いが、あらゆる攻撃を防ぐとお墨付きの盾だ」
鋭い剣技の応酬。だが時間が経つにつれダリスの身体に傷が増えていく。
距離を取り、再び剣を構えたダリスが駆ける。
「《インパクト》!」
剣から放たれた衝撃が盾を上に弾き上げた。
「ぐっ!」
わずかな隙にダリスがバルロック王の懐に踏み込む。
「《アクセル》!」
剣が閃き、王の腕から血飛沫があがる。時間を与えずダリスが次々と連撃を叩き込む。
盾でしのぎきれず、ついにバルロック王が膝をつき、血を吐いた。
「がはっ……つえーな……」
ダリスが静かに山田の元へ戻る。
「魔王様。終わりました」
「お疲れ。さっきのって勇者がやってたやつか?」
「はい。またやり合う機会があったらやり返すつもりだったんですが」
「なるほどね」
山田は倒れたバルロック王の方へと歩いていく。
「すまねぇな。お前とやり合ってみたかったんだが、このザマだ」
「俺と戦いたいのか? いいぞ」
そう言って山田が《ヒール》をかけると、バルロック王の傷がみるみる癒えていく。
「は……?」
呆然とするバルロック王の隣で、ダリスが素っ頓狂な声を漏らす。
「魔王様?!」
「ほら、立て。アイラ、開始の合図を頼む」
「は、はいっ!」
アイラが急ぎ前に出る。
「もう色々とわけがわからんが、せっかくだから全力でいかせてもらうぜ」
バルロック王が剣と盾を構える。
山田は懐から魔導球を取り出した。
アイラが金貨を取り出し、上に弾く。落下と同時にバルロック王が猛然と駆け出す。
「よっと」
山田が魔導球に《インパクト》を加えて投げると、球は光のように飛んでいく。
盾に激突した瞬間、激しい衝撃でバルロック王が壁まで吹き飛ばされる。
「ほいっと」
もう一発。球が盾に叩きつけられ、盾が壁にめり込み、バルロック王の鎧が粉砕された。
「あの盾すごいな。本当に壊れないぞ」 山田が感心する。
「あの……魔王様……」
「なんだ? ダリス」
「いや、なんか自信なくなりそうです……」
ダリスがうなだれる。
「なんでだ? あいつ生きてるかな。生きてたらヒールしないと。おっと球も回収回収」
軽い足取りで歩いていく山田を見送りながら、ダリスとアイラは顔を見合わせて苦笑した。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】