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第72話【魔王山田、山道を破壊する】

山田とアイラ率いる親衛隊はファーレン王国の山岳地帯を飛行していた。


「魔王様、次はあの山道です」


「了解」


山田が手をかざして《ファイア》を放つと山道が崩壊する。


「すみません、あちらに見える橋も……私達が落としてきましょうか?」


「俺がやるからいいよ。占領後に架け直すから場所の把握だけきっちりよろしく」


そう言って再び手をかざすと、谷に掛かっている橋が燃えて崩れ落ちる。


「さて、昼になったしメシにするぞ」


開けた場所に降り立つと、山田は《アース》でテーブルと椅子を次々に作り出す。


「周辺の都市は落としたから食料も水も補給できてラクだな。あんまり美味しくないけど」


「これで北部・西部への主要な山道はほとんど潰したことになります。首都は大混乱かと」


アイラが地図を確認しながら言った。


「敗走した兵士も首都方面に逃げるように誘導してるからな。さっさと南側も潰すか」


「東側、つまりライエル王国方面への山道だけ残すんですね」


近くで聞いていたミリトンが口を挟む。


「そうそう。それも全部ワーグが集めてくれた山岳地帯の地図のおかげだ」


「ワーグ隊長の情報収集と工作活動はいつも凄まじいですね。私も見習いたいです」


アイラが真剣な表情で頷く。


「俺の悪巧みもワーグが統括する諜報部隊や親衛隊のみんながいないと実現できないからな。感謝してるぞ」


「ありがとうございます!」


「さて、それじゃ仕事に戻るか」


そう言って、山田たちは再び空へと舞い上がっていった。


 * * *


ファーレン王国・王宮。


鍛え上げられた肉体と百戦錬磨の名声を誇り、大陸にその名を知らぬ者はいないとまで言われたバルロック王は──玉座に沈み込み、頬杖をついてふてくされていた。


「ですから! もう東側の山道しか残っていないんです!」


「山道を修復すればいいではないか! お前の仕事だろう!」


「すぐにできるわけがないでしょう。いっそ貴方が魔王に元に戻せと頼んできてはどうですか」


「なんだと! 貴様、私を誰だと思ってる!」


怒号が飛び交う中、バルロック王は傍らにいる黒曜騎士団の騎士団長・チェスターに声を掛ける。


「おーい、チェスター。あいつらうるさいから殴って黙らせてこい」


「陛下。事態が悪化しますのでそのようなご命令はおやめください」


「真面目だなぁ。シューレン達はまだ戻ってこないのか?」


「もうじき視察から戻られます。あっ……ソフィア様がいらっしゃいました」


奥から王妃ソフィアが姿を現し、バルロック王に近付く。


「貴方。どうされるのですか? 魔王が迫ってきているのでしょう?」


「どうもしない。ここでヤツが来るのをのんびり待っているさ」


「そうですか。それでしたら先日伝えた通り、私は西のモルドラス都市国家に亡命します」


「好きにしろ。といっても、東の山道を抜けて魔軍のド真ん中を突っ切ることになるぞ。頑張れよ」


その他人事のような返事に、ソフィアは顔を真っ赤にして怒鳴る。


「なんとかしなさい! この役立たず! いつもいつもそうやって!」


罵声に広間が静まり返る中、第一王子シューレンが姿を現す。


「父上。母上。ただ今戻りました」


「シューレン! どうでしたか? 街の様子は」


ソフィアが駆け寄って尋ねる。


「ひどい有様です。サンロックに逃げてきた民や兵士たちで溢れかえっています」


「そう……。シューレン、私は西に亡命したいのです。なんとかしてちょうだい」


「正直、厳しい状況です。しかし、王家存続のためにも私はあきらめません。希望はあるはずです!」 シューレンが胸を張る。


「父親と違って貴方は素晴らしいわ。貴方達は全員、私と一緒に逃げるのですよ」


「はい。ドーシャから無事逃げてきたレイモンドを含め、弟達も妹達も王宮にいます。皆の家族も。ただ、シンシアが見つからず……」


「はぁ、あの子はもういいわ。このような状況でもまたフラフラ出歩いているのでしょう」


「ですが……必ず見つけます」


そう言って、シューレンは皆の前に立つ。


「皆さん! 希望を捨てずに魔王に立ち向かいましょう!」


その呼びかけに再び話し合いが始まる中、バルロック王は広間を後にする。


「じゃあ、後は任せたぞー」


チェスターが慌てて後を追う。


「陛下。よろしいのですか?」


「軍事以外はさっぱりわからんし、あいつらがなんとかするだろ」


やがて黒曜騎士団の詰所に到着すると、全員が一斉に敬礼する。


「早速だが報告してくれ」


先ほどまでとは打って変わって、バルロック王が真剣な表情で命じた。


「再度偵察に向かわせましたが、東部以外の主要な山道及び橋が全て落とされています。残った山道を通って敗走した兵士や市民が今も続々と首都に入っております」


「で、出口で魔軍が待ち構えているわけか。外の状況はわかるか?」


「逃げてきた者の話から、レッドロック要塞やドーシャなど主要な拠点は全て制圧されている可能性が高いです」


バルロック王が大きくため息をつく。


「はぁ……宣戦布告が来てから1ヶ月でこの有り様か」


「にわかに信じがたい話ですが、レッドロック要塞もたった1日で降伏したようです」


室内にざわめきが広がる。


「要塞の周囲が断崖絶壁、要塞は無傷、だったか? 悪い冗談としか思えんな」


「いかがされますか? 全軍で総攻撃、もしくは首都での徹底抗戦しか選択肢がない状況ですが」


騎士団長のチェスターが尋ねる。


「総攻撃なぞ無駄死にだ。国境付近でもあっさり壊滅したんだろ?」


「はい……。それでは徹底的に守りを固めます。ただ、対空用の障壁を破られたという報告もありましたのでどこまで持つかわかりませんが」


「そもそもなんで山道なんぞ破壊してるんだ。ここを直接攻撃することもできるだろうに」


「ライエル王国やブルーネと同様に、サンロックも無傷で手に入れるつもりではないでしょうか」 別の団員から声が上がる。


「陸の孤島にして降伏させるってわけか……もうそれしかないかもな」


「そんな!」


団員たちから反発の声が上がる。


「ライエル王国やブルーネでも民には一切手出ししてないんだろ? 結構なことじゃないか。俺や馬鹿息子達がどうなるかはわからんが」


室内が静まり返る。


「民の扱いの件ですが、逃げてきた者の話ではライエル王国への移住を勧められたそうです。それに……水と食料も渡されたと」


「馬鹿な! 嘘に決まっている!」


騎士たちの困惑が渦巻く中、バルロック王が大きな声で笑い始める。


「陛下……?」


チェスターが不安そうに声をかける。


「はっはっは。前に模擬戦でやり合った勇者スランの桁外れの強さにも驚いたが、今度の魔王といい、あいつらは一体なんなんだろうな」


「あの立ち会いは私もはっきり覚えています。強さの次元が違うとしか……」


「その勇者は神聖国に行ったきり助けに来る様子もない。神聖国からの援軍もなし。残念だがチェスター、いつでも降伏できるように準備を進めておいてくれ」


「陛下……承知しました」


部屋の空気が沈みこむ中、バルロック王がぽつりと漏らす。


「大規模な暴動が起こるのも時間の問題だから早めに決めないとな。それにしても、なんで東側の山道だけ残してるんだ?」


バルロック王が思案していると、ひとりの団員が駆け込んでくる。



「陛下! サンロックの上空から大量のビラが!」



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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