第70話【魔王山田、準備をする Part.2】
ライエル王国・執務室。
山田はライエル王、そしてレイラ王女と向かい合って腰掛け、親衛隊長のアイラが背後に控えていた。
「さて、レイラ。ファーレン王国占領後のアイデアを聞かせてくれ」
「はい。まず、バルロック王は奔放な方ですのでお父様のようにそのまま統治というのは正直難しいかと思います」
「話を聞いている限りではそうなんだろうな。王様も会ったことあるんだろ?」
山田がライエル王に目を向けた。
「はい。外交の場で何度か顔を合わせております。政治には全く興味がなく、全て部下任せにするような人物ですな」
「それじゃあ困るんだよな。王妃は?」
「とてもプライドの高い方でしたので、難しいかと」
「王様も王妃もダメ、王子王女も見込みなし。で、レイラの案は?」
レイラが決意を込めて顔を上げた。
「山田様。兄を王城に戻すのは難しいでしょうか」
「レイラ、何を言い出すのだ。山田殿が禁止されたではないか」 ライエル王がたしなめる。
「戻して……どうするんだ?」
「山田様に絶対服従させた後、未婚の王女1人と婚姻を結ばせファーレン王国を統治させるのはいかがでしょうか」
(ん? なんかサラッととんでもないことを言ったぞ)
「なるほど。確かにそれなら間接統治しやすいし、色々クリアできるな」
「しかしだな、レイラ。カシウスはまだ王の器ではないぞ。とても統治など……」
ライエル王が渋い表情を浮かべる。
「確かに気が弱そうだったしな」
「お父様と私で必ず兄を鍛えてみせます。お父様が自信がないのでしたら私ひとりでやります」
「な、なにを言うのだ! できるに決まっておる! 山田殿、私に任せて頂きたい!」
ライエル王が慌てて宣言する。
(この家族、どんどん歪んでいくなぁ。俺のせいだけど)
「わかった。カシウスを戻すのは許可する。といっても教会にいるんだろ? あまり刺激したくないんだが」
「ご命令頂いたら気付かれないように連れて参ります」
控えていたアイラが静かに進言する。
「山田様。アイラさん。一度私に任せて頂けませんか。必ず連れ出します」
レイラが真剣な眼差しで2人に向き合った。
「じゃあレイラに任せるよ。ダメなら親衛隊にやらせる」
「ありがとうございます!」
レイラが頭を深く下げた。
「さて、まずはファーレン王国をきっちり征服しないとな」 山田が立ち上がる。
「山田殿でしたら来月には終わっておるでしょう」
「そうですね。お二人のご武運をお祈りしています」
見送る2人の言葉を背に、山田とアイラは静かに部屋を後にした。
* * *
ブルーネ・総督府。
山田、サイリス、ヘラ、キンバリに加え、ブルーネ第3軍の軍団長ネイと副軍団長ドリス、そしてイリヤと黒ギルドのフェーネンが一堂に会していた。
「皆、集まったみたいだな。あとで四大ギルドのギルド長も呼ぶが、先にファーレン王国の件で相談したい」
山田の一言に、場の空気が引き締まる。
「王国攻略で必要な食料の在庫が少し心許ないということで、イリヤから黒ギルドを推薦された。詳細は聞いているか?」
「すぐに調べさせたよ。提供できるからイリヤに預けるよ」
フェーネンが即答した。
「助かる。支払いはきっちりするから安心してくれ」
「魔王様、その件で提案があるんだ。少しいいかい?」 フェーネンが身を乗り出す。
「なんだ?」
「今回の食料はタダで提供するから魔王横丁での出店許可とマギアでの商売の認可をくれないかい」
「そりゃありがたい話だ。魔王横丁の許可は問題ないとして、マギアの方はイリヤと同じ形ってことか」
「フェーネン、相変わらず欲深いね。横丁だけにしときな」
イリヤが呆れ顔で口を挟む。
「アンタは黙ってな。ウチを紹介してくれたことは感謝するけどね。黒ギルドの実力は総督もわかってるはずさ、どうだい?」
山田がサイリスに視線を送る。
「フェーネンの能力は問題ないかと思います。魔王国にもメリットになるかと」
「そうか、わかった。認可を出そう。商売敵だからってあんまり喧嘩するなよ」
「感謝する。魔王様も黒ギルドの方が優秀だとすぐにわかるはずだよ」
フェーネンが挑発的に笑う。
「婆さん。腰が悪くなる前にさっさと引退しな。ウチはファーレン王国でも大々的に商売を始めるんだ」
「なんだって!」
いがみ合う2人に辟易しつつ、山田はサイリスの補佐2人に話を振る。
「ヘラ。キンバリ。2人とも素晴らしい働きとサイリスから聞いているぞ」
「ありがとうございます」
ヘラが礼を述べ、キンバリも丁寧に頭を下げた。
続いて山田はネイとドリスに目を向ける。
「ネイ。ドリス。後の相談次第では2人が中心になるから頼むぞ」
「はっ! いつでもご命令ください」
2人は揃って敬礼した。
* * *
イリヤと入れ替わるようにして、ブルーネのギルド長たちが入室してくる。
「失礼いたします! 魔王様!」
「よく来てくれた。全員座ってくれ」
山田が促すと、一同は着席する。
「さて、サイリス総督からの希望でノルン共和国への対応について協議したい。説明を頼めるか?」
サイリスの視線に応じて、ヘラが口を開いた。
「はい。これまで海賊には商船を襲撃させていましたが、軍が護衛しているケースが増えています。また、先日は商船に偽装していたため交戦状態になりました」
「シーリンで摘発があったようで情報が足りず、申し訳ございません」
サイリスが申し訳なさそうに頭を下げる。
「謝る必要はないよ。あちらも本気で対策してきたってことだ」
「いかが致しましょう」
サイリスの問いに、山田は腕を組み、目を閉じる。そして静かに答えた。
「うん、任せる。好きにしてくれ」
一瞬、静寂が訪れる。
「え? 好きに、とは?」 サイリスが尋ねる。
「足元を固めるために様子を見ていたけど、もう攻めてもいいよ。ファーレン王国は禁軍だけで落とすし、後ろはガイアが防衛してるからね」
「そうですね。それではそのようにします」
サイリスがすんなり了承する。
そのとき、フェーネンが呆れたように声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ちな! なんだい、その散歩ついでに占領するような軽い会話は」
「サイリスなら余裕だよ。ネイとドリスもいけるよな?」
「はっ。沿岸沿いの都市の侵攻計画は総督と策定済みですのでいつでも実行可能です」
ネイが力強く応じる。
「だそうだ」
フェーネンがやれやれと首を振ったとき、サイリスが思い出したようにヘラに声をかけた。
「ヘラ。2人を連れてきて」
首を傾げる山田の前に、海賊を率いるデクス兄弟が姿を現す。
「山田様。以前お会いになったかと思いますが、この2人にはノルン攻略でも重要な役割を任せます」
制服姿の兄弟は、ビシッと敬礼した。
「魔王様! その節は大変ご迷惑をおかけしました! サイリス総督のご指導の下、日々海賊業に励んでおります!」
「え? まさかこいつら海賊島の頭領の2人?」
山田が呆然としていると、サイリスが淡々と補足する。
「はい。2人の働きで組織も順調に拡大しています」
「本気で驚いた。あれ、左腕どうしたんだ?」
兄のデクスラの片腕が無くなっていることに気づく。
「先日の交戦で失いました! 業務に支障はありません!」
それを聞いた山田は無言で手をかざし《ヒール》をかける。途端に腕が元通りになった。
「えっ?! 兄貴、その腕……」
弟のデクスリが目を見開く。
「治してやったぞ。今後も総督のために死ぬ気で働け」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
デクスラが感激のあまり、震えながら何度も頭を下げた。
「もうなにがなんだかわからないよ……」
フェーネンが深いため息をついた。
* * *
ライエル王国とファーレン王国の国境地帯。
山田が整然と並ぶ禁軍を見渡し、隣に立つダリスに伝える。
「行くぞ、ダリス。開戦だ」
魔王国はファーレン王国に宣戦布告した。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】
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■ヘラン地方マップ:第2話~第10話対応
■魔王国周辺地図:第2話~第81話対応
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