第67話【魔王山田、魔導具を開発する】
山田たちはマギアを離れ、山間部へと飛行していた。眼下には整備された道路が伸び、その先に大きな建物が姿を現す。
「ついたぞ。ここが本日の見学場所、”魔王工房”だ」
「随分離れた場所にあるんですね。それに兵士の方が多い気が」
レイラが周囲を見渡すと、山田が頷く。
「極秘だからな。禁軍から警備を出してる」
入口から工房に入ると、魔族の男女が出迎えた。
「お待ちしておりました。魔王様」
女性が優雅に一歩前へ出る。
「こんにちは、ヴァネッサ。今日はライエル王国のレイラ王女を連れてきたんだ」
山田の紹介にヴァネッサが微笑む。
「あらあら。珍しいお客様ね。私はヴァネッサと申します」
「レイラと申します。よろしくお願いいたします。あの……こちらの方々は?」
レイラが山田に尋ねる。
「ここの責任者のバルバロ爺さんとヴァネッサだ。2人は夫婦なんだ」
「誰が爺さんだ! 相変わらず口の悪い魔王じゃ」
「口が悪いのは爺さんだろ。俺は一応魔王なんだぞ?」
「ふん。お前さんなんぞただの商売人にしか見えんわ」
「バルバロさん。いい加減にしないと蜂蜜禁止にしますからね」
「それはないじゃろ! 儂が悪かった!」
ヴァネッサの一言でバルバロが急にしおらしくなる。
「いつもこんな感じなんだ。腕は一流なんだけどな」
山田が苦笑しながら補足する。
「この工房はなにを作っているのでしょうか?」
レイラが周囲を見回していると、山田がバルバロに尋ねる。
「爺さん、例のやつ出来てるか? 案内してくれ」
「当たり前じゃ。ついてこい」
一行が歩みを進める途中、レイラが視線を止める。
「あれってスライムボールですよね。ここで作っていたんですね」
「そうだ。ここはあくまで開発拠点だけど」
「魔王様が考案した魔導具を形にする場所なのよ」
ヴァネッサが補足すると、レイラは興味深そうに頷いた。
やがて広間に入ると、中央には立派な浴槽が据えられていた。
「ほれ、どうじゃ」 バルバロが浴槽を指差す。
「おー! ついに出来たのか! ちゃんとお湯になってるじゃないか!」
山田は嬉しそうに湯を手ですくう。
「これは……なんでしょうか?」 レイラが尋ねた。
「“風呂”だ。レイラに解説してやってくれ」
「水を加熱する《ファイア》と水を浄化する《キュア》の魔導具を使って湯を循環させておるんじゃ。《ヒール》の魔導具もつけてる」
「そうそう。で、これに裸で入るんだ」
「は、裸ですか?!」
慌てるレイラに、山田が笑う。
「イメージしづらいだろうから、魔王国で定着したら体験しに来てくれ。これ、大きくできそうか?」
「魔導具を増やせばいくらでも大きくできるぞ。しかしお前さん専用ならこれでいいんじゃないか」
「そんな贅沢はまだまだ先だよ。魔王城にひとつ巨大なのを作ってほしいんだ」
「承りました。魔王様」
ヴァネッサが手帳に記しながら応じる。
「さて、風呂はこれからだけどレイラに検討してもらいたいものがあるんだ」
再び案内され、今度は柔らかそうなベッドの前に立つ。
「これはベッドですか?」
「そうだ。ちょっと寝てみてくれ」
促されるまま、レイラが横たわる。
「これは《ヒール》ですか? それに少し温かいですね」
「これはヴァネッサが開発した病院用のベッドなんだ」
「《ヒール》の魔導具と弱めの《ファイア》の魔導具をつけているんですよ」 ヴァネッサが補足する。
「病院の普及に合わせてこのベッドの量産を始めてるんだ。ちょっとした怪我や風邪ならこれに寝ていれば治る」
「素晴らしいです! 王国でも普及させたいです」
レイラが目を輝かせる。
「そうだろ? 帰ったら王様とジーナスと相談してくれ。いっぱい買ってくれるなら多少は割引するぞ」
「やっぱりただの商売人じゃないか」 バルバロが呆れる。
「この工房でこういったものを開発しているんですね」
「元々、魔導具は戦闘用が大半で私達もずっと“魔砲”を作っていたんだけど、今は魔王様の希望で色々作っているの」
ヴァネッサの口調には誇らしさが混じっていた。
「風呂の次は冷蔵庫。洗濯機に扇風機、あとエアコンは欲しいし絶対売れる。掃除機は難しいかなぁ」
山田が楽しそうに話す。
「なにを言っとるかさっぱりじゃが、よく次から次へと思いつくもんだ」
「正直、しばらくここに滞在したいぐらいです……」
レイラが真剣な面持ちで呟く。
「はは。じゃあ、他にも見せようか」
山田達はその後も、工房内の様々な開発品を見せて回っていった。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】